出産時の痛みは「手指切断」クラス!

個人差はあるものの、出産時の陣痛は「手指の切断」に匹敵するくらいの痛みと表現されることがあります。

その強烈な痛みを和らげる「無痛分娩」。高齢出産や働く女性の出産の増加で、日本でも希望する妊婦さんが増え、現在では全分娩の5%程度が「無痛分娩」だと思われます。欧米ではさらに広く浸透しており、アメリカでは全分娩の60%(2008年)、フランスでは80%(2010年)、イギリスは23%(2006年)、ノルウェーは26%(2006年)といった状況です。

2015年5月、イギリスのキャサリン妃が出産からおよそ10時間で退院しましたが、無痛分娩を行ったと指摘されています。妊婦への負担が軽くなるので、産後の回復が早い効能もあるのです。

陣痛中なのにTVを見ながら談笑?

麻酔薬の影響が母子ともに少ない点から、「無痛分娩」では硬膜外麻酔という方法が一般的です。細くて柔らかいカテーテルを、背中から腰の脊髄近くの硬膜外腔に入れて、そこから局所麻酔薬を少量ずつ注入することにより出産の痛みを和らげる方法です。痛みを伝える神経の近くに投与するため、とても強い鎮痛効果があります。

自然分娩だと、陣痛が始まってから数時間、時には数十時間も痛みに耐えることも珍しくありません。

一方「無痛分娩」の場合、多くの方が、陣痛が起こっている状態であるにも関わらず、本を読んだり、テレビを見たり、家族と談笑されたりするようです。その後、子宮口が全部開き、赤ちゃんの頭も降りてきたら、分娩台で出産となります。下半身への部分麻酔ですので、お母さんの意識は終始ハッキリしており、生まれたばかりの赤ちゃんとも対面できます。

緊急時には3人の医師が必要

妊婦さんにとってはメリットの多い「無痛分娩」ですが、大阪、兵庫、京都の4カ所の医療機関で、少なくとも5件の重大事例が起きていることが明らかになりました。これらの医療機関にはある共通点があります。

本来、麻酔を扱う「無痛分娩」の場合は、産婦人科医以外に、麻酔科医が24時間体制で状態を管理し、さらには小児科医(新生児科)も常駐する、体制が整った病院で行うのが理想的です。不測の事態にも迅速で適切な対応が可能になります。

しかし小規模の産院では、麻酔も、分娩も、院長である1人の産婦人科医が行うというケースが多いのです。それでは、緊急時には危機的状態に陥る危険性が極めて高くなります。

「産科医1人+助産師さん」では、もはや対応困難

もともと日本では、出産の現場で、多くの助産師さんが働いてきました。多くの小さな産院では長らく、1人の産科医と助産師さんで分娩を行ってきたのです。

そうした中、都市部を中心に「無痛分娩」のニーズが高まってきました。

小さな産院が、急に体制を整えることが出来ないまま「無痛分娩」の希望を受け入れたものの、現場は従来と大きく様変わりします。「無痛分娩」では、麻酔以外にも陣痛促進剤によるコントロール等、助産師さんでは手助けできない〝医療の要素“が格段に高まるのです。

こうなると今までのように、産科医1人で多くをこなすやり方では難しくなります。緊急事態が生じると、迅速な対応が出来ず、母子に重大な健康被害が出てしまった…というケースが多いのです。

「無痛分娩」を希望される場合、医療施設の体制について、よく調べることが大切です。

日本産婦人科医会が出す提言も、安全体制の確立を求めるものになると思われます。