家庭で技術を伝承

みなさんトルコ料理と言えば何を思い浮かべますか。一番多いのは様々な肉料理で登場する「ケバブ」ですかね。

今回、ご紹介するのはケバブとはまた違うトルコの伝統食材です。それは、パンというよりも、薄い春巻きのような、クレープのような、「ユフカ」と呼ばれる生地です。

見た目でわかるように、パン生地を薄く薄~くのばして広げたもの。材料は小麦粉と塩と水と卵のみ、といたってシンプルな食材。

でもシンプルがゆえに熟練の技術と経験が味の美味しさを分けるそうなんです。いかに破れず、かつ厚みのムラや小麦の玉が出来ないように延ばすのかが大事だそうで、素人には中々上手く生地を延ばせないとのこと。

今回、取材を受けてくれたスーザンさんは現在70歳。ユフカの作り方は子供のころからお母さんに教わったそうです。こうした、家庭で技術を伝承していく文化も認められて、今回ユネスコの無形文化遺産に登録されました。

この「ユフカ」は食材なので、そのまま食べるのではなくいろいろな形でトルコの家庭料理に使われています。

まずは大きな鉄板にユフカを敷いて、具材を入れて焼く「ギョズレメ」。
今回は、ポテトとチーズを入れて焼いてもらいましたが、ホウレンソウやお肉を入れたりもするそうです。

薄いのであっという間に焼けていきます。
焼くコツは最初に油を引かず、具材を入れた後にバターを塗ってひっくり返して焼くことだそうで、そうすることで生地が焦げ付かないとのこと。

焼きあがったギョズレメは表面がパリパリで、香ばしい匂いが食欲をそそります。
一見薄いので物足りないかなと思いましたが、薄皮のパイのような触感に、中のポテトとチーズが思いのほか食べ応えがありました。
ペロッと食べれるもののしっかりとお腹にたまって満足度が高い料理です。
休日のブランチとかにちょうど良さそうですね!

スープにも、揚げ料理にも、スイーツにも!

次の料理は「ハムルチョルバス」と呼ばれるスープ料理。実はこの中にもユフカが使われています。
チキンスープの中に、細かく1平方cmサイズに切り分けられたユフカが入ってるんです。
茹で上がったユフカは平たいパスタのような触感で、飲み過ぎた翌日にお腹を休めたい時にちょうど良さそうです!

次は揚げ料理。ユフカでひき肉を包んで、油で揚げる「チーボレキ」。
油の中に入れると、ぷくっと膨らんで見る見るうちに香ばしいきつね色に揚がっていきます。見た目は日本の揚げパンにそっくりです。

この「チーボレキ」は特にトルコ人の大好物の一つで、揚げたてのアツアツを頂くのが美味しいのだそう。中に入ったお肉の味がしっかりしていて、薄生地のピロシキ、揚げパイのような感覚ですかね。かじると中から湯気がふわっと立ち上がって(写真の湯気は見えますか?)
寒い日にはぴったりの料理です。

そのほか、お肉を小さなユフカで包んで茹でて食べる「マントゥ」という料理もあります。
この料理の触感は水餃子そのもの。
ヨーグルトソースをかけたさっぱりした味わいな上に、一つ一つが小さいのでツルツルっといくつも食べれてしまいます。

驚くなかれ、スイーツにもユフカが使われているんですよ!
これはユフカを重ねて、オーブンで焼いた「バクラワ」と言われるトルコを代表するスイーツの一つです。

家庭によって、バクラワの中にいれるナッツ類がクルミやピスタチオなどに変わりますが、焼きあがったバクラワをシロップ漬けにして甘~いスイーツに仕上げます。

しっとりした生地は美味しいのですが、日本人にとっては少し甘すぎるかなという印象。でも甘党のトルコ人にとっては大の好物で、子供から大人までみんな食後のデザートとしてよく食べています。

それに、トルコ人はとにかくお茶を飲みます。
こちらではお茶のことを「チャイ」と呼び、仕事中のほか、ちょっとした休憩、食後の一服、様々な時にお茶を飲みます。
トルコ人はお茶を飲みながらおしゃべりするのが大好きなんです。
もちろんこの甘いスイーツにもぴったりです。

近所で役割分担

今回取材した料理はほんの一部ですが、ユフカは家庭や町のロカンタ(食堂)にとって、なくてはならない食材として重宝されています。
それに実はユフカは保存食でもあるんですよ。

その昔、ユフカは一つの家庭で作るには大変な労力が必要でした。
昔は近所の人と協力して、複数の家庭で材料を持ち寄り、生地をこねる人、延ばす人、焼く人、など役割分担して作っていたそうです。
材料も小麦粉はなく、小麦をひくところから始まったそうですよ。
毎日みんなそろって作れるわけではないので、まとめて一気に作ることが多かったそうで、作られたユフカは乾燥して保存することで1年以上も保存がきく食材になったとのこと。

調理する際には水に濡らすと、水分をふくんだ柔らかい生地に戻りギョズレメやチーボレキの調理ができるようになるそう。
こういった昔からの調理方法、近所の人たちとの交流を通じて作られる文化などが考慮されて文化遺産になりました。

スーザンさんは昔、自分の家やご近所の人たちだけの分だけユフカを作っていたそうですが、あまりにも近所の評判が良かったそうで、56歳の時に今のお店を立ち上げたそうです。
スーザンさんにユフカをうまく作るコツを伺ったところ、「心の中から美味しいユフカを作ろうと思うこと。そして何より経験が大事」と話してくれました。

今では多い日にはユフカを1日200枚も作ることがあるそうで、若い従業員とともに毎日ユフカ作りに励んでいるとのこと。昔は母から娘に、今ではスーザンさんから店の若い従業員にしっかりとユフカづくりの技術が受け継がれています。

ぜひトルコに来る機会があれば、ユフカ料理のフルコースを味わってみてください。

(取材・文:内橋徹 イスタンブール支局)