事故を起こした運転手を何故逮捕しない?

池袋で発生した交通死亡事故
池袋で発生した交通死亡事故
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オオシバくん:
池袋で起きた暴走事故。世間では、運転手を逮捕する・しないで議論が巻き起こっているね。

平松デスク:
旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長のことだね。
4月19日に暴走事故を起こしたんだけど、自分も胸の骨を折るなどして重傷を負い、ずっと入院していたんだね。
18日に退院した後、逮捕されるかなと思っていたんだけど、結局逮捕は見送られたんだね。 

オオシバくん:
なぜ、逮捕されなかったの?

平松デスク:
主な理由は、3つ。
一番大きな理由は、高齢だから。
あまり知られていないけど、実は、今の検察当局は、80代以上の容疑者について原則勾留を認めないんだ。
警察が逮捕・送検してきても、検察官が釈放しちゃうってこと。
だから、警察も、80代以上の人を逮捕しない傾向が強い。
飯塚・元院長も、87歳だから、逮捕を見送られたんだよ。
ただ、高齢でも、当然だけど現行犯は逮捕する。
あと、裁判員対象事件などの重大事件はちゃんと逮捕するよ。
重大事件については、検察当局も当然勾留を認めるよ。

人権問題を配慮し、高齢者は原則逮捕・勾留なし

オオシバくん:
え~、逮捕する・しないって、年齢が関係あるの?

平松デスク:
そりゃあるさ。
警察署の留置場での生活に耐えらない可能性があるでしょ?
ヨボヨボのおじいさんを、長いこと拘束するのは現実的に無理。
だから逮捕しない。
人権問題で、大変なことになるしね。

今回と同じような事故なんだけど、去年5月、神奈川県・茅ヶ崎市で、90歳の老女が運転する車にが暴走し、1人が死亡、3人がケガをする事故があった。
この老女は、ケガをしていなかったから現行犯逮捕された。
だけど、検察が勾留を認めなかったから、すぐに釈放されたんだ。
もしも、飯塚・元院長もケガをしていなかったら、100%現行犯逮捕されていたと思うよ。
ただ、すぐに釈放されていたはずだよ。

両手に杖をついて歩く飯塚元院長
両手に杖をついて歩く飯塚元院長

オオシバくん:
他の2つの理由って何?

平松デスク:
逃亡の恐れがなく、証拠隠滅の恐れもないからさ。
退院した時の飯塚・元院長の様子を見れば分かるよね。
あれは、逃亡しようがないよね。
あと、事故後、警視庁は、防カメ、ドラレコなど、
徹底的に調べを進めているから、もう、証拠隠滅の余地もないよね。

“上級国民”のほうが不利益を被ることも

オオシバくん:
この事故では、『上級国民だから逮捕されず』と囁かれてきたけど、本当は、どうなの?

平松デスク:
上級国民の定義が分からないけど、それを疑われるようなケースは聞いたことがある。

去年2月、東京・港区で、元検察幹部の乗った車が暴走し、1人が亡くなる事故が起きた。
この元検察幹部は、70代後半で自らもケガをして入院していたんだ。
退院後、逮捕するかなと思ったけど、結局、警視庁は逮捕せず、元検察幹部は在宅起訴になった。
まぁ、弁護士だし、逃亡の恐れも証拠隠滅の恐れもないから、そう判断されたんだと思う。
ただ、当時は、大物の検察OBだから逮捕が見送られたんじゃないの?と噂されたものさ。

一方で、上級国民だからあえて逮捕されたり、あえて名前を公表されたりすることも多いよ。
事件・事故自体が目立つから、意図的にそう扱われるのさ。
飯塚・元院長の遠い後輩にあたる、経産省キャリアの覚せい剤事件がそうさ。
あの男は、経産省キャリアだから逮捕された訳じゃないけど、経産省キャリだから名前が公表されて顔が明るみに出たよね。
あれが普通のサラリーマンだったら、そんなことにはならなかった。
僕の個人的見解を言わせてもらうと、事件・事故を起こしたら、上級国民の方が、不利に扱われ、損をすることの方が圧倒的に多いと思うよ。

【解説:フジテレビ 社会部デスク 平松秀敏】
【イラスト:さいとうひさし】

平松秀敏

『拙速は巧遅に勝る』。テレビ報道は、こう在るべき。
『聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥』。これが記者としての信条。
1970年熊本県出身。県立済々黌高校、明治大学卒。
95年フジテレビ入社。報道カメラマン、司法・警視庁キャップ、社会部デスクを経て、現在、解説委員。
サザンオールスターズと福岡ソフトバンクホークスをこよなく愛する。娘2人の父