“イスの振動”で会議が活発化
ビジネスパーソンにとって、だらだらと長い非効率的な会議は悩みの種だ。
時間だけかけて結局何も決まらないなど、「形だけの会議」「会議のための会議」を日々経験している人も多いだろう。
こうした中、この悩みの解消につながる可能性がある実験結果を、東京都市大学の市野順子教授らの研究チームが発表した。
「会議に参加している人の“イスを振動”させると、意見交換が活発になる」のだという。
一体どのような実験によって、このような結果が導き出されたのだろうか?
また、この結果は今後、どのような形で活用されるのだろうか?
実験を行った、東京都市大学の市野順子教授に話を聞いた。
“イスの振動”と“照明の点滅”の効果を比較
――どのような方法で実験を行った?
企業のオフィスワーカーが日常的に行う会議を対象として、会議支援システムを使って、実験をしました。
具体的には、会議中に、“システムが照明を点滅させたり”、“イスを振動させたり”して、参加者の発言や行動に変化があるのかを調査しました。
ただ、現在のコンピュータはそこまで賢くないため、この実験では人間が裏で“照明の点滅”や“イスを振動させる”操作をしています。
――会議に参加した人数は?
会議は、4人または5人のグループが合計4組。
1回の会議が40分でした。
――“照明の点滅”や“イスを振動させる”タイミングや条件は?
条件を4つに分け、実験を行いました。
①は、「参加者全員」が見られるように、照明を点滅。
②は、「発言に消極的な人」のイスを振動させる。
③は、「発言中の人」のイスを振動させる。
④は、「参加者全員」のイスを振動させる。
①と②③④で「視覚と触角の違い」を、②と③と④では「受け取る側による違い」を調査しました。
“イスの振動”の効果は“照明の点滅”の約1.5倍
――こうした実験の結果、どのようなことが分かった?
「視覚(照明の点滅)と触角(イスの振動))の違い」では、“イスの振動”の方が、発言者の交替が発生し、意見交換が活発になりました。
確率は、“照明の点滅”が40%、“イスの振動”が64%で、約1.5倍の差がありました。
受け取る側の違いでは、「参加者全員」のイスを振動させることが最も効果があり、確率は64%。次いで「発言中の人」は44%、「発言に消極的な人」は13%でした。
――“照明の点滅”よりも“イスの振動”が会議の活発化に効果がある。この理由として考えられることは?
“照明の点滅”は、みんなが見えるため、全員がサインを共有します。
そのせいか、被験者のアンケートには「自分じゃなくても誰かがやってくれる」という意見もありました。
“イスの振動”は、全員に振動がありましたが、自分以外にも振動があったのか、確認はできません。
このような少しの違いでも、人は振る舞いを変える、ということなのかもしれません。
――「参加者全員のイスを振動」が最も効果があった。この理由として考えられることは?
「参加者全員」の場合は、誰かが何かの反応をすればよいので、全体の底上げになったと考えられます。
「発言に消極的な人」は、「イスの振動」は目に見えないので、誰にもバレない。そのため、サインを無視しようという考えになったのではないでしょうか。
「発言中の人」は、自分は喋っているから、それを誰かにふることまでは考えられない。キャパオーバーだったと考えられます。
「無駄に長い会議」の改善につながる
――今回の実験結果は、今後、どのようなことに活用できる?
今は人間が裏で“照明の点滅”や“イスを振動させる”操作をしていますが、今後、コンピュータ技術の進化により、多くのことをコンピュータが自動で行えるようになったら、無駄に長い会議の改善につながる、会議支援システムが作れればよいと考えています。
”イスの振動”で会議が活発になることを明らかにした、今回の実験。
働き方改革が言われる中、無駄な時間ロスをなくすためにも、この結果を反映した会議支援システムが実用化してほしいものだ。