なぜ「警戒レベル」導入なのか?

元号が令和となって初めての豪雨の季節がまもなくやってくる。
平成30年の西日本豪雨で防災情報が必ずしも避難行動につながらなかった教訓から、政府は、避難勧告など防災情報の伝え方のガイドラインを改定し、大雨による危険度の高まりに応じて、住民に避難のタイミングを示す「警戒レベル」を導入することを決めた。

2018年7月の西日本豪雨
2018年7月の西日本豪雨
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改定されたガイドラインでは、気象情報や避難情報などの防災情報の種類に合わせて、住民が取るべき行動を5段階の「警戒レベル」で示し、豪雨による災害から「逃げ遅れゼロ」を目指すとしている。

「大雨特別警報」の効果はあったのか

水害・土砂災害で命を落とさないために、「警戒レベル」とはどういうものなのか、
どのタイミングで逃げれば助かるのか。

防災情報の伝え方を改めるきっかけとなったのは豪雨災害としては平成最悪の被害となった平成30年7月豪雨だ。
平成30年7月、西日本を中心に広い範囲で記録的な豪雨となり、中国・四国地方などで河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、200名を超える死者・行方不明者を出すなど甚大な被害が発生した。

過去に経験したことがないほどの豪雨を予測した気象庁は、事前に「大雨特別警報を発表する可能性がある」という異例の緊急会見を開き災害発生の危険を訴えた。

“特別警報”で西日本豪雨の危険性は伝わったか?
“特別警報”で西日本豪雨の危険性は伝わったか?

果たしてこの時点でどれだけの人が事の重大さに気づいただろうか。

その後、広島県、岡山県、愛媛県などで大雨が長時間にわたり降り続き、次々に防災気象情報が発表され、自治体からは避難勧告などが発令された。
しかし、数多くの避難行動を促す情報が出されたにもかかわらず、避難せずに自宅にとどまるなどして多くの方が亡くなった。

なぜ多くの方が逃げ遅れたのか。
そもそも情報が多すぎるのではないか。

“情報過多”をシンプルな5段階に整理

政府はこうした実態を踏まえ有識者との議論を重ねたうえで、「逃げ遅れゼロ」を目指す新たな防災対応のガイドラインを3月末にまとめた。
このガイドラインは、これまでの防災対策の考え方を根本的に見直したものとなった。

これまでは行政主導の防災対策を強化することで住民を守り被害を減らす努力をしてきたが、これからは住民が「自らの命は自らが守る」意識をもって自らの判断で避難行動をとり、行政はそれを全力で支援するという、防災意識のあり方の大きな転換を示したものとなっている。

「自らの命は自らが守る」
 
そうはいっても簡単なことではないだろう。

気象庁からの防災気象情報、自治体からの避難情報の意味を正しく理解している人は決して多いとは言えない。
自治体から避難勧告が発令されても「うちはまだ大丈夫」とか、「次の避難指示が出てから考えよう」と窓の外の状況すら確認しない状況は十分想像できる。

しかし、これからは防災気象情報や避難情報をきちんと理解して自らの意思で逃げないと自らの命は守れないということだ。

逃げ遅れない為の「警戒レベル」とは

一方で行政はガイドラインに明示したように、住民の避難を全力で支援するために、住民がきちんと情報を理解し、避難がスムーズに進む仕組みを作る必要がある。
そのため自治体は住民へ地域の持つ災害リスクの周知など防災知識の普及に努める責務があるとし、また小中学校での防災教育と避難訓練の充実や、地域の防災力を高めるため防災リーダーの育成なども盛り込まれている。

政府は、こうした住民が主体となる防災対応を支える大きな柱として、水害・土砂災害の防災情報の伝え方を改善し、新たに大雨の「警戒レベル」を導入することを決めた。
災害発生の恐れのある大雨の際には、災害の危険度の高まりに応じて取るべき行動や、避難するタイミングをわかりやすく5段階の「警戒レベル」で示すことで、状況に応じて対象となる住民の的確な避難につなげることが狙いだ。

「警戒レベル」に対応した避難情報と住民の取るべき行動は次の通り。

レベル1・2は“心構え”と“確認”

気象庁が翌日までの大雨の見込みを「警報級の可能性あり」などと発表する「警戒レベル1」では、大雨が予想される地域の住民は最新情報に注意しながら災害への心構えを高める。

その後、気象庁から洪水注意報や大雨注意報などが発表されれば、「警戒レベル2」となり、この時点で、その地域の住民はハザードマップなどで避難場所や避難方法を確認する。

レベル3は高齢者や要介助者が避難開始

「警戒レベル3」からは、それぞれの状況に応じて避難を開始する段階となる。
 
自治体から「警戒レベル3」に当たる「避難準備・高齢者等避難開始」が発令された場合、避難に時間がかかる高齢者や介助が必要な住民は安全な場所に避難を開始する。

レベル4は対象地域住民の全員避難

さらに河川の氾濫、洪水や土砂災害災害が発生する危険度が高まった場合に、自治体から「警戒レベル4」に当たる「避難勧告」が発令されれば、対象地域の住民は全員避難となる。
状況に応じて緊急的に重ねて避難を促す「避難指示」が発令されることもあるが、状況は急激に悪化することが多く、「避難指示」を待ってしまうと避難のタイミングを失う恐れが高いため「避難指示」を待ってはいけない。

最高のレベル5は“命を守る最善の行動”

最も高い「警戒レベル5」に当たる情報は「大雨特別警報」や河川の「氾濫発生情報」などで、この段階はすでに災害が発生している可能性が高いため、避難が難しい場合は建物の2階や土砂災害の危険のある山側から離れた部屋に移動するなど、命を守る最善の行動をとる。

政府は、逃げ遅れないためには「警戒レベル4」の「避難勧告」が出た段階で対象地域のすべての住民は避難を開始し、災害発生情報の「警戒レベル5」が出る前に避難を完了することが重要と強調している。

(執筆:フジテレビ社会部気象庁担当 長坂哲夫)

長坂哲夫
長坂哲夫

フジテレビ社会部 気象庁担当