「今のままの日本では首相としての出番はない」発言の真意をたどる

自民党・小泉進次郎厚生労働部会長の講演(5月24日 東京・港区)
自民党・小泉進次郎厚生労働部会長の講演(5月24日 東京・港区)
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5月23日、東京・港区にある共同通信本社で自民党の小泉進次郎厚生労働部会長による講演が行われた。1時間ほどの講演後の質疑応答部分で、報道陣から「今後首相の立場になったときにどんな国のかたち・ビジョンを掲げるのか」と問われた小泉氏は「出番ないんじゃないんですかね」と言い放った。
 
そして「なんとかこのまま行きたいっていう人が本当に多い。そういうときに、大胆に変えることに血道をあげて、しかもスピードも伴って変えたい。そういったことを訴えている男に出番はないんじゃないですか」と述べ、いまの日本のままでは自分に首相としての出番はないと言い切った。

歯切れのいい“進次郎節”で、「将来の総理」に関し踏み込んだこの発言は、私を含め聞いた側には、小泉氏の様々な思いが詰まった言葉として響いた。なぜこの発言に至ったか、講演の内容をたどりつつ背景と真意について記したい。

小泉進次郎が強調した「改革と変革に挑み続けた10年」 

この日の講演は「日本の変革の時」というテーマで、小泉氏がこれまで取り組んできた変革について、自ら紹介するといった内容だった。
 
「実は私、今年で初当選から10年になります。(中略)私の中では改革と変革に挑み続けた10年だったなと、そういった思いを持っていますので、今日は皆さんに、あんまり10年間で考えたことない、私自身もいい機会、振り返りだったので、こういった形でお話を進めさせていただきたいと思います」

冒頭、10年間の政治生活を振り返った小泉氏は、特に社会保障改革と国会改革という2つの改革について、指示棒を手に写真や図表を交えて説明を始めた。
 
「(年金)受給開始年齢の柔軟化。これはまさに今日、特にメディアの皆さんに言いたいことの1つなんですが、今って年金の制度は60歳から70歳まで選べます。何歳からもらうか。そして60歳からもらうと65歳でもらうよりも年金額は3割カットされます。70歳でもらえば、60歳でもらうよりも年金額は42%アップします。これは、私いまいろんなところで講演をしていますが、ほとんど知られていません」
 
小泉氏は、自民党の厚生労働部会長として議論を続けてきた年金制度改革について、現状で年金の受給開始年齢が60歳から70歳まで選択でき、受給開始年齢を遅らせるほど貰える年金の額が増える仕組みであることが、あまり世の中に知られていないと訴えた。その上で、この受給開始を選択できる年齢上限を70歳からさらに引き上げるべきだと強調した。

国会改革もアピール 

そして「ようやく第一歩だ」という国会改革についても熱弁をふるった。小泉氏は、いまの日本の国会は時間・税金・議員の3つを無駄使いしているとして、合理的な国会運営を求めてきた。
 
「ようやく動き、実現したものが、報告書等や請願処理経過のペーパーレス化、質問主意書の取り扱いの見直し、(中略)3つ目は衆院のICTの活用の調査費が700万円ですが予算で通過した」
 
小泉氏はこのように具体的な成果を挙げるとともに、「1つ1つ何とか足跡残していきたい、風穴空けたいと思ってやってきた」と、改革の難しさをにじませる場面も見られた。そして次のように締めくくった。
 
「世界の中の日本で22世紀を見据えて、人口減少をベースにして、どうやって明るい未来を築いていくかということの変革にこれからも取り組んでいきたいと思います」

報道陣からの質問をきっかけに噴出したメディアへの不満

この時点で講演は予定時間を超過していたが、司会者からの案内で小泉氏への質疑応答が始まった。
 
そして「今後女性議員を増やしていくにはどうすべきか」と聞かれた小泉氏は、自らの地元・横須賀の市議会議員についても女性のなり手を探すことに苦労しているとの実体験を語り、「世の中を動かせるっていう楽しさ、このやりがいっていうのはある」と、政治家という職業ならではの魅力を今後も発信し続けることが大切だとした。ここで小泉氏は突然、国会改革についてのこれまでのメディアの報じ方に苦言を呈した。
 
「やっぱりメディアの皆さんにも政治っていうのはたたく対象っていうことも、もう一回考えてもらいたいなと思うし、この国会改革も象徴的ですよ。進んだときは報道無いですから。で、進まないだろうっていうときはめちゃくちゃ報道あるんですよ」
「本当に社会全体でいま経済社会構造全体を変えていきたいっていう(人生)100年時代の話をしましたけど、メディアの皆さんだって一緒に考えませんか?(政治家に)ならせないっていう気にさせるっていうことがあると思いますよ」

議員の妊娠時の遠隔投票めぐっても報道に不満を

さらに、自身が国会改革の1つとして取り組んでいる、女性議員が妊娠・出産時に、国会に行かずともインターネットなどを利用し遠隔で採決に参加できる仕組み作りについても話が及んだ。この小泉氏らがとりまとめた遠隔投票案については、自民党内からも憲法違反だなどとの反対意見が噴出し今国会での進展は困難になったのだが、小泉氏はメディアの報じ方に疑問を呈した。
 
「女性の国会議員からは、女性の妊娠・出産時に遠隔でも(国会採決での投票が)できるようにとか、そういったことが上がってきたからテーマに挙げたんです。だけど、結局は、それ進んでないじゃないかって言われますよ。これがテーマになっただけで大きいんですよ!だけど伝わり方は進んでいるか進んでいないか(ばかりだ)」
 
「私は本当に、メディアの皆さんにお願いしたいと思うのは、政治という権力に対する監視、これがメディアの皆さんの基本的な役割なんですが、それが民主主義を高めていく最も大事なことだと思うんですけど、メディアの皆さんも権力ですよ。こういう報道しようと思ったら、その報じ方って決められますもん」
 
メディアの現状に決して満足してないことを重ねて強調しつつ、「今後議論しよう」とまとめ、苦言とも提言ともとれるメディアについての言及を終えた。

この一連の発言については、「メディアは批判的立場に重点を置き前向きに報じようとしない」という小泉氏のいらだちがにじんでいて、それは「たたく対象」という言葉に象徴されていると感じた。

「首相としての出番はない!」発言の真意は、苛立ちか意欲か

ここまでの質疑応答から生まれた独特な緊張感の中、司会から次が最後の質問だとの案内があり、「もしこの先、首相としての立場になったときのビジョンがあればぜひ聞かせてほしい」という質問が飛んだ。ここで小泉氏はこう口を開いた。
 
「まず、出番ないんじゃないんですかね」
 
この意外な言葉に続いて、小泉氏は発言の理由を語った。
 
「私が興味あるのは変革・改革・変化。現状維持には興味ありません。だけど今の日本を見ていると、大きな希望を持ってないんですけど、大きな危機感もないんです。なんとかこのままいきたいと思うことが本当に多い。そういうときに、大胆に変えることに血道をあげて、しかもスピードも伴って変えたい、そういったことを訴えている男に出番はないんじゃないですか」

日本全体が現状維持を求めるなら、「小泉進次郎首相」が誕生する機会はないと断言した形だ。そして今の日本に欠けていることを重ねて示し、未来に向けた変革への意欲を強調した。

「そんなに変えたくないよという状況であれば、出番はないでしょう。だから、まさにそういうことだと。その時の国民の皆さんの機運がどのようなものなのかによるんじゃないですかね。ただ私は、あまりにも日本は遅すぎるし、そして日本の立ち位置は世界の中から見たらこれから人口難が進んでいくわけですから。そして私は基本的に楽観的ですけども、人口減少は、そう簡単に止まらないと思います。ですので、増えるっていう前提で考えません。減るという前提の国づくりをやるべきだと、私の考え方です。だから世界なんです。縮んでいくマーケット資本を基本的なところに置くんではなくて、世界の中で日本は勝負をするんだと」

“今のままの日本なら自分に首相としての出番はない”という今回の発言は、メディアの現状への不信感を露わにした直後だっただけに、自らの思いや日本の現状への危機感が、自民党内やメディア、あるいは社会全体と共有しきれないという苛立ちが作用した結果だとも受け取れる。

一方で、“日本が変わろうとするなら、そして時代が変革を要求し自らが必要とされるなら、いつでも首相になる”という、将来の天下取りへの意欲的な発言ととることもできる。

小泉氏は最後に、いつもの雰囲気と口調で「人口減少を迎える日本は世界で勝負するしかない」と、自らの国家戦略を語り講演会を終えた。メディア側の1人として、報道のあり方を熟考していくと同時に、小泉氏が自らの訴える変革にどのように取り組み、実際に動かしていくのか引き続き注目したい。

(フジテレビ政治部 自民党担当 福井慶仁

福井 慶仁
福井 慶仁

フジテレビ 報道局社会部 元政治部