介護する側の準備はできている?

総務省によると、国内の高齢者人口は2018年時点で3,557万人にのぼり、総人口の1億2,642万人から見ると「4人に1人が高齢者の時代」を迎えた。近ごろは「人生100年時代」と呼ばれ、仕事や趣味に活躍するお年寄りも目立つが、寿命が延びれば身体機能や脳機能は衰え、介護が必要な日もくるかもしれない。

国内の総人口と高齢者人口の推移(グラフは総務省の「国勢調査」と「人口推計」を元に作成)
国内の総人口と高齢者人口の推移(グラフは総務省の「国勢調査」と「人口推計」を元に作成)
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果たして、介護する側はその準備ができているだろうか。「介護保険」「要介護認定」といった言葉は見たり聞いたりすることはあれど、「どんなもの?」と質問されたら説明するのは難しい。支援サービスもあるが、申請方法や利用条件などが細かく定められ、一見では理解できないこともある。

親が元気だと「介護はまだ先の話」と考えてしまいがちだが、ある日突然、寝たきりになってしまうことも考えられる。若年層にとっても他人事ではない話題だ。また、「老々介護」といわれるように高齢化が進んで、介護する側が体力的な不安を抱えることも考えられる。
身近な人が介護を必要としたとき、私たちはどう対応すれば良いのだろう。

ケアマネージャー(介護支援専門員)の職能団体「一般社団法人・日本介護支援専門員協会」で常任理事を務める、中林弘明さんに、知っておきたい「介護の基本」を伺った。

まず何をすべき?

中林弘明さん
中林弘明さん

介護が必要になったとき、最初に悩むのが「この先どうなるのか」という不安だろう。
これまでは触れる機会の少なかった「介護」が生活の中心となるが、基礎知識がなければ右も左も分からない。要介護者本人、介護する側どちらも戸惑ってしまいがちだ。

そんなとき、まずやるべきこととして、中林さんは下記2点の確認を勧めている。
1.要介護者の心身の状態はどうか(要介護となった原因や留意点、回復のめどなど)
2.要介護者本人や家族の困りごとは何か(困っていることや今後の生活に対する意向)

「要介護者本人が現状をどう感じているか、家族が何に困っているかを把握するべきでしょう。私たち専門家も『○○で困っている』という訴えがあってこそ、支援策を考えられます。介護する側は自分たちができること、できないことを整理しつつ、今後どうするかを専門家に相談するべきでしょう」(中林さん)

要介護者と介護する側、それぞれが現状を把握することが必要なようだ。だが、初期対応が一段落しても問題は山積。次は介護生活をどう送っていくかを考えなければならない。

「介護保険」を活用しよう

代表的な介護方法には、自宅を拠点とする「在宅介護」と、介護施設を拠点とする「施設介護」がある。どちらも一長一短で、在宅介護は住み慣れた場所で見守れるが、介護する側の負担は増える。施設介護は専門性の高いサービスを受けられる反面、コストが高くなってしまう。

要介護者の容態や経済的状況にもよるが、多くの家庭では在宅介護をしながら「ヘルパー」などの介護サービスを利用することになる。そんなときに活用したいのが、少ない負担で介護サービスを受けられる「介護保険」という制度だ。

介護保険とは名前の通り、介護が必要となった人の支援を目的とした保険制度。ケアプラン(介護の方向性)の作成サービスなどに加えて、要介護者本人の合計所得金額(年金収入を含む)に関連して、1~3割の負担で介護サービスを利用できる
低所得の人はその分、負担が減るような仕組みだ。

介護サービス利用時の負担割合の基準(出典:厚生労働省)
介護サービス利用時の負担割合の基準(出典:厚生労働省)

負担割合に影響する所得金額は、世帯人数によっても変わり、厚生労働省によると以下のようになる。

・3割負担
単身世帯:340万円以上
2人以上世帯:463万円以上

・2割負担
単身世帯:280万円以上~340万円未満
2人以上世帯:346万円以上~463万円未満

・1割負担
単身世帯:280万円未満
2人以上世帯:346万円未満
※第2号被保険者(40歳以上65歳未満)や生活保護受給者などは1割負担

ぜひ利用したい制度だが、ここで注意しなければならないのが、介護保険には適用条件があること。

ケアマネージャーは要介護者と介護サービス事業者の調整役となる(画像はイメージ)
ケアマネージャーは要介護者と介護サービス事業者の調整役となる(画像はイメージ)

「介護保険を適用した介護サービスは、介護が必要になったその日から受けられるわけではありません。『要介護認定』を受けたあと、ケアマネージャー(介護サービスの事業者と要介護者の調整役)が作成したケアプランに沿い、介護サービスの事業者と契約することで初めて利用できます」(中林さん)

では、介護保険の利用に必要な要介護認定とは、どのようなものなのだろうか。

「要介護認定」ってなに?

「要介護認定とは『介護が必要である』ことを証明する認定です。認定を受けるには、65歳以上で交付される『介護保険被保険者証』を持ち、要介護者が居住する地域の公共施設(役所や地域包括支援センター)にある申請窓口で申し込む必要があります。要介護者の心身の状況などを調べるため、申請から認定結果の通知までは30日ほどかかります」(中林さん)

そして、認定調査の内容は次のようになるという。

「認定調査には1次判定と2次判定があります。1次判定では、介護に必要な労力を時間化した『要介護認定等基準時間』をコンピューターで算出します。2次判定では、この結果が適切かを、有識者で構成する『介護認定審査会』で検討して最終的な『要介護程度』を判定します」(中林さん)

要介護認定にかかる審査・判定の流れ(出典:総務省 介護認定審査会委員テキスト)
要介護認定にかかる審査・判定の流れ(出典:総務省 介護認定審査会委員テキスト)

要介護程度は要支援1、2から要介護1~5までの7段階あり、重くなるとその分介護保険の支援も厚くなる
自立できると判断された場合、介護保険は適用されないが、再申請もできるとのことだ。

介護保険を利用するには段階を踏む必要があるが、認定が下りれば経済的負担は減る。介護が必要な状態となったら居住地域の公共施設を訪れ、要介護認定を申請することを覚えておきたい。

「介護する側」のケアも大切

制度を利用することは大切だが、介護生活が長期化すると、介護する側が負担に耐えられなくなる可能性が出てくることも忘れてはならない。場合によっては「介護うつ」や「虐待」に至ることもあり、注意を払わなければいけないが、どのようなことを心がければ良いのだろうか。

中林さんによると、このような事態を防ぐには早めの相談が何より大切という。

「介護は突然始まることが多く、家庭や仕事にも影響を与えます。仕事と両立できずに『介護離職』する方も少なくありません。介護が始まれば、先の見えない状態が“介護疲れ”となりますので、抱え込まないようにすることが大切です」(中林さん)

「地域包括支援センターなどでは、介護に関する相談や資料提供が受けられます。電話相談も受け付けているので活用するべきでしょう。決して無理をせず、介護保険などの制度・サービスをうまく活動することが、より良い介護につながります」

介護と仕事の両立に追われて「介護うつ」に陥る可能性も(画像はイメージ)
介護と仕事の両立に追われて「介護うつ」に陥る可能性も(画像はイメージ)

身近な人が要介護者になると、要介護者本人も介護する側も環境の変化に戸惑い、混乱してしまうこともあるだろう。自治体によっては「紙おむつ」の費用助成など、支援策を打ち出しているところもあるので、地域包括支援センターやケアマネージャーと相談しつつ、一人で抱え込まないようにしてほしい。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。