グローバルIT企業への課税のあり方が議論の的に
この記事の画像(4枚)インターネットを通じ、国境をまたいでビジネスを展開する巨大IT企業への課税のあり方がいま、大きな議論になっている。
やり玉にあがっているのは、頭文字をとって「GAFA」と呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンに代表されるグローバルなデジタル企業だ。
「恒久的施設なくして課税なし」
企業は、それぞれの国で法人税を納めているが、外国企業の場合は、国内に支店や工場といった「恒久的施設」と呼ばれる物理的拠点があるケースに限り、税金を課せるというのがいまの国際課税の原則だ。
たとえば、海外企業が日本国内の消費者に対し、サービスを直接提供し利益を上げても、国内に「恒久的施設」がなければ、日本の税務当局は課税することができない。
こうした仕組みのもと、グローバルなIT企業は、検索サービスや会員制交流サイト(SNS)などを活用したオンライン広告、さらには、音楽配信、さまざまなプラットフォームの提供といったビジネスを、世界中で展開しているのに、「恒久的施設」を置かない国々では税金を納める必要がない。
国境を越えて活動し莫大な利益を上げている一方で課税を免れている現状に対し、「税金逃れだ」との批判が強まっていて、今や時代遅れとなった課税ルールを見直そうという動きが広がりつつあるのだ。
恒久的施設のあるなしにかかわらず、税金を課せるようにしたうえで、サービス利用者のいる国にも多くの税収を配分するようにしようーこれが、いま進んでいる国際的な検討の内容だ。
どういう利益に税金を課すのか
大きな論点は、税金を課す基準を何に置くかだ。
イギリスが主張するのは、「ユーザーの参加実績」に応じて課税する案だ。
利用者がオンラインで検索したり、SNSで「いいね!」をクリックしたりすることが貴重なビッグデータになり、莫大な価値を生むことに注目して、ユーザーが価値創造に参加することで生じた利益について、ユーザーのいる国にも課税権を渡そうというものだ。
多くのユーザーを抱えていても物理的拠点がなければ、税金を徴収できないという不満を反映している。
一方、GAFAの本拠地があり、イギリス案で狙い撃ちされた格好になったアメリカは別の案を提唱している。
IT企業だけを標的にするのでなく、「ブランド力」に着目して、より幅広い業種を対象にするというものだ。
企業が、ある国で、マーケティングや投資などを通じて顧客基盤を強化してブランド価値を高め、それに応じた利益が出た場合、
その国が課税できるようにする。
この案だと、たとえば広告などでプロモーション活動が行われた結果、商品が売れて、利益が上がったケースも含まれることになり、ネットビジネスのほか、製造業なども広い範囲で対象になる可能性がある。
さらに、インドなど新興国からは、物理的拠点がなくても継続して売り上げを上げるなど、一定の条件を満たせば課税できるようにする案が示されていて、執行が簡単な解決策として議論されている。
また、実際に課税するにあたっては、対象となる利益を算定するやり方も決めておかないといけない。
「ユーザーの参加」あるいは「ブランド力」などにより形成された利益をどう見積もり、いかなる基準で各国に配分し、課税していくのか、整理する必要がある。
「タックスヘイブン」使った税逃れを許すな
国際課税をめぐっては、IT課税の仕組みづくりの検討をきっかけに、もうひとつ重要な議論が加速している。
それは、デジタル分野に限らず、グローバルに活動する企業が「タックスヘイブン」をはじめ、税金が免除されたり、税率を低く抑えている国や地域に、利益を集め、税負担を軽減しているケースに対応しようというものだ。
法人実効税率に、国際ルールで共通の下限を設定しておいて、企業が、その水準を下回る低税率国の子会社に利益を移した場合、子会社の所得を親会社と合算して課税できるようにすることが柱となる。
国家の主権にかかわるとされる「税率の設定」をめぐって、ここまで踏み込んで議論が行われるのは初めてで、多国籍企業の「税逃れ」の実態に、何らかの手を打たねばという国際的気運がそれだけ強まっていることを示している。
G20議長国日本の手腕が試される
巨大IT企業に、利益に見合う税金を納めてもらおうと始まった議論は、2020年の合意を目指し、今月8日・9日の福岡でのG20(20か国・地域)の財務相・中央銀行総裁会議でとりまとめが行われることになっている。
企業のどういう利益を課税のよりどころにし、どのような計算でどういった国で税金を払わせるのか。議論は、ともすれば、課税権のとりあいになりがちだ。
各国の利害が交錯する協議の場でどれだけ方向性を打ち出せるのか、議長国日本の手腕が試されることになる。