党首選の大本命

メイ首相の辞任を受けたイギリスの与党、保守党の党首選が10日はじまる。新たな党首、すなわちイギリスの新しい首相には一体誰が選ばれるのか。実はすでに大本命と目される人物がいる。事前の世論調査では、ボリス・ジョンソン前外相が、39%と他を引き離して圧倒的な支持率で独走しているのだ。

ジョンソン氏とはどんな人?

ボリス・ジョンソン氏54歳。
2010年のオリンピックの時のロンドン市長で、トレードマークは寝ぐせ頭。
大の自転車好きで、交通渋滞が深刻なロンドンに自転車のシェアリングを導入。
この自転車はジョンソン氏のファーストネームを取ってボリスバイクの愛称で親しまれている。

インテリでありながら豪放磊落、イギリス国民が敬愛する第二次世界大戦時の首相ウィンストン・チャーチルの再来とも称される政治家なのだ。
一方で失言王としても知られ、ブルカ(イスラム教徒の女性の服) を「郵便ポストみたい」とからかったり、ヒラリー・クリントン氏について「精神科病院のサディスティクな看護師のよう」と例えて物議をかもすなど、数々の失言で政治家の資質を疑われて来た。

今なぜジョンソン氏?

そんなジョンソン氏。今なぜ支持を集めているのか。
実は保守党はイギリスのトランプとも呼ばれるナイジェル・ファラージ氏率いる離脱党に支持者を奪われていて、このままでは与党の座を転落しかねない情勢なのだ。

ファラージ氏は歯に絹着せぬ物言いでEU離脱を煽り立てた張本人で、EUと妥協するメイ首相を激しく非難することで支持を広げてきた。先月の欧州議会議員選挙では離脱党が保守党を上回り首位の議席を獲得している。

こうした中、同じく離脱派の急先鋒であるジョンソン氏が保守党のリーダーとなることで、離脱党に奪われた支持者を取り戻せるのではないかと期待されているのだ。

「ジョンソン首相」でEU離脱はどうなる?

では、もしジョンソン氏が党首に選ばれ、首相になったらどんなことが起きるのか。
ロンドン在住で、EUの危機を欧州各国を歩いて取材しているジャーナリストの木村正人氏はジョンソン氏が首相になった場合のシナリオを次のように予想する。

在英ジャーナリストの木村正人氏
在英ジャーナリストの木村正人氏
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木村正人氏:
ジョンソン氏はジリ貧の保守党を復活させるために一気に解散総選挙に打って出るだろう。
しかし強行離脱に反発する勢力も支持を伸ばしていて、選挙で敗北し、野党に転落するリスクも出てくる。

つまりボリス氏の保守党が選挙に勝てば、一気に強硬離脱への機運が盛り上がるが、木村氏の指摘するように敗れた場合には一転、離脱は取りやめになる可能性も出てくるのだ。

党首選は「どんでん返し」がつきもの

また、党首選を巡って気になる指摘も。

木村正人氏:
保守党の党首選は歴史的に下馬評が覆ることが多い。ジョンソン氏は2016年の国民投票で虚偽の主張をしたと刑事告発されていて、土壇場でさらにネガティブな情報が出てくれば、どんでん返しもありうる。
その場合、強行離脱に慎重なマイケル・ゴーブ環境相らが勝利する可能性もある。

もし、そうなれば再びEUと「合意の上での離脱」を模索する可能性も出てくる。
つまり、党首選の結果次第でEU離脱の方向性も大きく変わってくることになり、その行方から目が離せない。

【執筆:フジテレビ報道局「Live News days」元ロンドン支局長 勝又隆幸】

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勝又隆幸
勝又隆幸

フジテレビ報道局社会部長。1995年の入社以来警視庁、司法、警察庁クラブなど、事件記者を10年。
2010年からロンドン特派員として、ロンドン五輪、ロイヤルウェディングのほか、リビア、シリア、ウクライナで紛争取材にあたり、マレーシア航空機撃墜現場から中継取材も。
その後ニュース番組プロデューサーなど経て、2023年から現職。