ちまたにあふれる「○○年齢」

「肌年齢」「血管年齢」...ちまたには「○○年齢」といった言葉があふれている。
私たちはこの数字を気にかけるのが好きなようだ。広告でも「この人実は××歳!」とあれば、秘密を知りたくもなる。実年齢より若く見られて嫌な思いをする大人は少ないはずだ。

では、そんな皆さんに質問。あなたの「主観年齢」はいくつですか?

いつまでも若々しくありたいものだが...(画像はイメージ)
いつまでも若々しくありたいものだが...(画像はイメージ)
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これは気持ちの若さを表したもので、“自分自身が客観的に見た年齢”のことだ。

実年齢より若いと考えた人に朗報。この主観年齢が、脳機能に影響を与えることが、近年の研究で証明されつつあるのだ。

主観年齢が“若い”人は、脳も若い

この研究結果は2018年、韓国の研究チームが米国の学術機関「Frontiers in Ageing Neuroscience」で発表したもの。

発表内容によると、研究チームは59~84歳の被験者68人に、MRI(核磁気共鳴画像法)検査を行い、脳の内部を撮影。脳の神経細胞が集中する神経組織「灰白質」の密度を調べるとともに、実年齢と比較した主観年齢や記憶力などを調査した。

そうしたところ、主観年齢を実年齢より「若い」と答えた被験者は、「同じくらい」「老けている」と答えた被験者に比べて、灰白質の密度が高かったほか、記憶力も良く、うつの傾向も低いことが分かったという。


MRI検査のイメージ
MRI検査のイメージ

灰白質の神経細胞は記憶能力や運動能力に影響を与え、加齢とともに衰えることで、脳の老化の要因となるという。上記の結果からは、自分が「老けている」と思う人は脳も老化しやすく、反対に「若い」と思う人は脳も若いことが見てとれるのだ。

心の持ちようで脳を健康に保てるのなら、誰もが心がけたいことだろう。「人生100年時代」といわれる中、いかに健康に人生を楽しむかのヒントにもなりそうだ。
しかし、いざ言われてみると具体的にどんなことに取り組めば良いのかはよくわからない。

脳科学者として、16万人以上の脳をMRI解析した、東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授にお話を伺った。

若いと感じると心身が「正のスパイラル」に入る

瀧靖之教授
瀧靖之教授

――「主観年齢」が「脳」に影響するという研究結果はどう思う?

非常に興味深く、理にかなっていると思います。主観的な年齢が若い方は恐らく、自身の脳・体が若く保たれていることを実感しているのではないでしょうか。自身が健康と感じるからこそ、運動や知的活動を続けられ、それはさらなる健康につながります。心身が「正のスパイラル」に入っていると言えるでしょう。

自身を「若い」と感じている方と「老けている」と感じている方の差は、加齢とともに大きくなるのではないでしょうか。


――「若い」と「老けている」、それぞれの考え方が脳に与える影響はある?

「若い」と思うことはポジティブな思考、「老けている」と思うことはネガティブな思考につながり、脳に影響を与えます。

脳の神経細胞は生まれたときから増えず、これが減ることで老化が進むのですが、唯一「海馬」からは神経細胞が生まれます。これを「神経新生」と呼ぶのですが、ストレスフルな状態だと、ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の血中濃度が増え、この神経新生を抑えてしまうのです。そうすれば神経細胞が生まれず、記憶や感情面などに悪影響があります。

反対にポジティブな思考は、物事に対する好奇心や積極的なコミュニケーションなど、脳にとって刺激ある行動につながります。そうすると、脳の柔軟性である「可塑性」も発達して、認知能力や頭の回転の速さなどに良い影響を与えます。

脳を健康に保つためには、ストレスを抑え、ポジティブな思考を持つことが大切でしょう。

動脈硬化が脳に悪影響を与える

――脳年齢・脳機能が衰える要因は?

脳科学では、脳機能が衰える理由としてさまざまな要因が考えられます。
例えば、飲酒をするとアルコールが体内で「アルデヒド」に変わり、これが老化を促進させます。また喫煙をすると、肺の「肺胞」が壊れ、脳に酸素が届きにくくなります。このような生活習慣に共通する「動脈硬化」が脳には良くありません。

動脈硬化が進むと、血液中の酸素やブドウ糖が脳内まで拡散しにくくなり、神経細胞のエネルギー不足につながります。これが続くと、神経細胞の減少につながってしまうこともあります。


――脳の健康を保つためには、どうすれば良い?

脳を健康に保ち、認知症を予防するには、大きく3つの取り組みが重要と言われています。それは「運動」「趣味・好奇心を持つこと」「会話でのコミュニケーション」です。このほか、バランスの良い食事や睡眠も大切です。

以前は食生活などの外的要因が強く影響すると考えられていましたが、現在は自分が感じる幸せ「主観的幸福感」が病気のリスクを下げることが分かってきました。脳の健康と関連する動脈硬化も例外ではないため、主観的幸福感を高めるべきでしょう。

そのためには、自分自身がささやかな幸せを感じることが大切です。運動や趣味をするにしても「やらなければ」ではなく、自分が好きなものを楽しく行うと良いでしょう。



「主観的幸福感」が病気のリスクを下げるということで、やはり脳の健康にとって主観は大事な要素のようだ。でも、中高年になると、容姿の変化や体力の衰えを感じて「歳をとったなあ」と感じることも多いだろう。
では、そうした変化を受け入れつつ「主観年齢」を若く保つ秘訣はあるのだろうか。

「主観年齢」を若く保つ秘訣

――主観年齢を若く保つためには、どうすれば良い?

趣味活動などを「楽しく、できればみんなで行う」という部分に尽きると思います。例を挙げるなら、旅行や料理、楽器演奏などは非常に有用ではないでしょうか。

旅行は目的地までの移動が運動になるだけではなく、行きたい場所やお店、国や地域の文化に触れることで好奇心も満たされ、多くの方とコミュニケーションする機会にもつながります。

料理も買い物が運動になりますし、調理過程では、お湯を沸かしながら野菜を切るような動作をこなしたり、包丁を扱う「巧緻運動」も行います。出来た料理をみんなで食べれば、コミュニケーションにもなるでしょう。

楽器演奏は、楽譜を見て覚える、楽譜の情報を処理する、弾くという全ての動作において、「ワーキングメモリ」「実行機能」「巧緻運動」「空間認知」など、脳の高次認知機能を多く使うのでお勧めです。

何より、これらの趣味はどれも楽しいです。主観的幸福感を高める点でも有用でしょう。


――自身の老化を感じたときは?「自分は若い」と思える方法はある?

悲観的に考えて良いことはないので、気持ちを切り替えることが大切です。老化が頭によぎることもあるでしょうが、そんなときこそ、趣味活動などの「好きなこと」を「楽しく行う」べきでしょう。熱中することで「老けている」というネガティブな感情から、「楽しい」というポジティブな感情に目を向けることができます。

具体的な方法としては、楽しいことや好きなことに携わる時間を、少しでも多く、日常生活に取り入れてはいかがでしょうか。嫌なことがあっても、楽しい時間が打ち消してくれます。

その点では、趣味を持つことがとても重要です。趣味がある方は続けるべきですし、ない方も何かを再開したり、興味あることに挑戦しても良いでしょう。料理などは手軽に始められます。

「好きなことを楽しく続ければ、予想以上に健康になれる」

――コミュニケーションを取る場合に気を付けることはある?

脳を活性化するためには「フェイストゥフェイス」でのコミュニケーションが大切です。
私たちは何気なく会話をしていますが、相手の表情や声の抑揚、仕草などを観察しながら言葉を選んでおり、思っている以上に頭を使っているのです。SNSではこの過程が省かれるため、直接話す機会を持つことも必要でしょう。

自分が役に立っているという「自己肯定感」を得ることも、主観的幸福感につながります。
コミュニケーションを兼ねて、複数人で趣味などに取り組んでも良いでしょう。


――脳年齢を気にする人に伝えたいことは?

「好きなことを楽しく続ければ、予想以上に健康になれる」ことを伝えたいですね。脳を活性化しようと思うと、ついつい「難しい問題を解かなければ」などと考えてしまいがちです。

もちろん難しい問題に挑戦することも、脳に良い効果はあります。ですが「自分の好きなこと」を楽しめられれば、より気軽に良い影響を与えられます。義務感に駆られて「自分は幸せ」と思うのではなく、楽しいことを心から満喫するべきでしょう。

複数人で楽しめる趣味を見つけるのも良いとのこと(画像はイメージ)
複数人で楽しめる趣味を見つけるのも良いとのこと(画像はイメージ)

脳科学の観点からも、主観年齢が脳年齢に影響を与えることは考えられるようだ。

脳の活性化のために、わざわざ普段やらない難しめの作業に取り組む必要はなく、自分の好きなことを楽しむポジティブ思考の方が手軽に効果があるということだ。
主観年齢を若く保ち、「人生100年時代」を楽しく生きるヒントに少しはなっただろうか。


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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。