皇位継承などテーマに“行動する”自民党の有志会合が発足

6月12日、自民党の青山繁晴参院議員ら保守色の強い5人の議員が国会内で記者会見し「日本の尊厳と国益を護る会」の発足を発表した。

「日本の尊厳と国益を護る会」発足記者会見(6月12日)
「日本の尊厳と国益を護る会」発足記者会見(6月12日)
この記事の画像(8枚)

この会の目標は三本柱として「父系(男系)の皇位継承」、中国や韓国資本による不動産買収が進む現状から「外国資本による土地買収の拡大防止と回生」、いわゆる「スパイ防止法の制定」を掲げ、必要性に応じて立法措置を目指すとしている。また、今ある法律に関しても、外国人労働者の受け入れを拡大する「改正入管法」や「アイヌ新法」などについて、改善や修正の必要があれば積極的に取り組むとしている。

発起人の1人である青山氏は「一番大事なことは、自由民主党がやるべきを、やらざるままになっていること。それをどうにかしたいということなので、立場の違いとか、意見の違いを乗り越えて、確かにやらなければいけないことを、この長期政権でもやっていないという問題意識はかなり共通している。敵を増やすためや、敵を作るために会を作るのではなくて、一致できる点だけを探していく。対立点を浮き彫りにするんじゃなくて、一致できる点だけを探していく」と述べた。

自民党・青山繁晴参院議員
自民党・青山繁晴参院議員

山田宏参院議員も「行動する。何かを形にするというのが、この会の目標だ」と強調した上で、「重要なものが見落とされる傾向があると思う。そういうものの議論を促進させていく。自民党自体が、大事な問題を、みんなの賛成を得られていないからということで、ずるずるずるずる後回しになっていく傾向があるんじゃないか」と述べた。重要な問題や危機に直面しているにも関わらず、自民党内の議論が遅滞している状況を、この会の設立によって変えたいという思いを吐露した形だ。

山田宏参院議員
山田宏参院議員

旧宮家の皇籍復帰を求める声も挙がる

この会が第一に掲げた目標は「父系(男系)による皇位継承の永続と安定のための最善の諸策を講じる」ことだ。

皇位継承をめぐっては「男系天皇」「女系天皇」そして「女性天皇」と3つのキーワードが出てくる。「男系天皇」とは父方に天皇の血を引く天皇であり、「女系天皇」とは、天皇本人の性別に関わらず母方のみに天皇の血を引く天皇のこと、「女性天皇」とは文字通り女性の天皇のことだ。

皇室は、初代の神武天皇以来、2600年以上126代にわたって「男系」での皇位継承を行ってきたとされる。つまり、天皇の父親の父親という風に、父親だけをたどっていくと、神武天皇に行き着く系統で皇位を継承してきたということになる。

そして今、男性皇族の減少による皇位継承の危機が指摘される中で、「女性天皇」の容認、さらに父親をたどっても神武天皇に行き着かない「女系天皇」にまで拡大して容認するべきだという意見が出ている。

一方、今の皇室典範では認められていない「女性天皇」は過去に8人存在しているが、この全ての「女性天皇」は父親をたどれば、神武天皇の行き着く「男系女性天皇」になっている。仮に「女性天皇」を認めることも重大なことだが、「女系天皇」を認めることは、男系を維持するか否かの点で、さらに大きな差異があると言え、皇位継承議論の重要なポイントとなっている。

今回、記者会見で青山氏は「男系」ではなく「父系」という言葉を使った。このことについて青山氏は「男系・女系というのは誤解を招く表現で、本当は父系か母系であり、母系になると、いわゆる王朝の交代を引き起こしかねませんから、父系をきちんと守っていこうと。男女差別に基づくものでは全くありませんので、あえて父系と言う言葉を問題提起の1つとして提示をしている」と説明した。

そして女系天皇を認めない立場から、皇位継承の安定化策として提起されている、「旧宮家の皇籍復帰」については、会として意見を取りまとめていないため温度差はあるものの、前向きな意見が相次いだ。

青山氏は会見で、戦後の1947年に11の宮家がGHQによって一方的に皇籍離脱させられた経緯について触れ、旧宮家の皇籍復帰も「選択肢に入るべきだ」と述べた。その上で、旧宮家の職業選択の自由や、その意志を尊重することは重要だと指摘すると共に、「政府与党から勝手に戻ってくださいという性質のものではない」として、会として現時点では、皇籍復帰という具体的文言までは踏み込んでいない点を説明した。

一方、同じ発起人の鬼木誠衆院議員は「男系で継承されていくということ、父系で継承されていくことが大変大事であると我々は考えている。男系をどうやって続けていけるのかという案の中に、旧宮家の皇籍復帰ということが色々な形で実現可能だと思っております」と述べ、より前向きな考えを表明した。

鬼木誠衆院議員
鬼木誠衆院議員

野党からは「女系天皇」や「女性天皇」など認める見解も

皇位継承をめぐっては、今は上皇となられた先代天皇陛下の退位を実現する特例法の付帯決議で「政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること」とされている。

政府は「即位礼正殿の儀」などが行われる、今年の秋以降に検討を始める考えだが、野党側は今月、政府・与党に先んじて見解をまとめた。

立憲民主党は6月11日、女性・女系天皇の容認を柱とした「論点整理」を取りまとめた。
この中では「男系男子による継承を維持することは、皇位継承を極めて困難にする上、偶然性に委ねる余地があまりに大きい」と指摘した上で、「男系による皇位継承を支えてきた社会的背景や社会的倫理規範が変化した以上、男系に固執するあまり、歴史と伝統の根幹をなす皇統そのものを途絶させることは甘受できない」と訴えている。また、皇族減少に歯止めをかけるための「女性宮家の創設」の必要性も強調している。

立憲民主党・常任幹事会(6月11日)
立憲民主党・常任幹事会(6月11日)

国民民主党は同じ11日に、女系天皇については「国民意識はまだ熟していない」として結論を先送る一方で、男系の女性天皇を容認する皇室典範改正案の概要をまとめた。また、共産党はすでに女性・女系天皇を容認する立場を表明していて、日本維新の会も女性宮家に関する議論を開始している。

皇室典範改正案に関する国民民主党の会見(6月11日)
皇室典範改正案に関する国民民主党の会見(6月11日)

こうした野党に対して、自民党内での議論が進んでいないことについて、「護る会」の一員の山田宏氏は「本来は自民党が出していかなければいけない」と述べていて、会として率先して議論をリードし、党内論議を活性化させていく意向を示している。

自民党内の議論をリードすることはできるのか

会見で青山氏は「一致点を見つける」という言葉を繰り返し使っていた。「旧宮家の皇籍復帰」や「女性宮家反対」という文言は、会の目標には書かれておらず、あくまで「最善の諸策を講じる」としている点も、対立ではなく「一致点を見つける」ことが目的だからだ。

そのため、野党の案についても青山氏は「女性天皇と、女系天皇、どう違うかという国民に対する問題提起が行われたという意味では、本来自由民主党がやらなければいけないことも含めて、野党の側からこういう案が出てきたということは歓迎したいと思う。そのまま賛成するわけにはいきませんが、一致点が見つかるきっかけにはなると思います」と評価する発言をしていた。

青山氏は皇位継承をめぐっては、年内に会としての提言をとりまとめ、政府や自民党に対して申し入れをしていく考えを示している。

また、皇位継承問題以外では、外国資本による土地の買収の問題や、スパイ防止法に関しても来年中には提言をとりまとめていく考えを示した。さらに改正入管法を巡って入管を視察したり、外国人の土地所有問題をめぐって韓国資本による不動産買収が進む、長崎県・対馬市や、自衛隊の基地の周辺などを視察することを検討する考えも示された。

青山氏は「今まで超えられなかった与党協議の壁、あるいは自由民主党の中の討論の一致点を探す壁、それを破ることが一番大事になると思っています」と強調した。

今後、この「護る会」がどういった動きをし、様々な課題の議論にどんな影響を与えていくか注目される。

(フジテレビ政治部 自民党担当キャップ 中西孝介

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。