「気候変動」が新たな争点に

2020年の大統領選挙への出馬を表明したトランプ大統領
2020年の大統領選挙への出馬を表明したトランプ大統領
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アメリカのトランプ大統領が、来年11月に行われる大統領選で再選を目指す考えを正式に表明した。新たなスローガンは「Keep America Great(アメリカを偉大なままに)」。今後、選挙戦を本格化させ、自身が掲げた公約実現を強硬に進めるものとみられる。

前回の選挙戦では、メキシコ国境の壁建設などの過激発言で旋風を巻き起こし、劇的な勝利を遂げたトランプ大統領だが、次の選挙の争点は何なのか。4月下旬にNBCニュースとウォールストリートジャーナルが実施した世論調査によると、移民政策、雇用創出に続く形で注目されるのが気候変動問題だ。日本でニュースになる貿易問題への関心は2%に過ぎない。

■政府が優先的に取り組むべき課題は?(NBC&ウォールストリートジャーナルによる調査)

ヘルスケア 24%
移民 18%
雇用創出 14%
安全保障 11%
気候変動 11%
国家債務・歳出 11%
銃規制 5%
貿易協定 2%

日本ではあまり争点化しない気候変動問題だが、アメリカでは共和党と民主党で大きくスタンスが異なり政治イシューになる。トランプ大統領は、パリ協定脱退表明以降も、オバマ政権の環境規制を次々と後退させ、環境問題に背を向けている。そのため「気候変動は信じない」と公言する有権者も多い。一方、民主党側は包括的な環境対策「グリーン・ニュー・ディール」を打ち出すなど、選挙戦の新たな対立軸として積極的に取り組みをアピールしている。

「爆弾サイクロン」の襲撃

実は、この問題で、トランプ大統領の支持基盤を揺るがす新たな事態が起きている。

今年3月、「爆弾サイクロン」と言われる歴史的な暴風雨が中西部ネブラスカ州などを襲った。ミズーリ川が氾濫し、発生から3カ月が経つ今も一帯の大豆、コーン畑は浸水状態となっている。中西部の農家といえば、共和党の伝統的な支持基盤だ。その農家が壊滅的な打撃を受けている。

ミズーリ川の氾濫で水没する大豆・コーン畑
ミズーリ川の氾濫で水没する大豆・コーン畑

この洪水被害は、気候変動の影響と指摘されている。ネブラスカ大学で気候変動を研究するマーサ・シュルスキー准教授によると、一帯では、気候変動により、近年冬がより寒く、春に雨量が多い傾向で、大量の雪解け水が発生するようになった。3月には、爆弾サイクロンによって川に大量の氷が押し寄せ、ダムが決壊するという異常事態も発生した。シュルスキー氏は「このような傾向は今後強まると予測される。気象条件だけをみれば、洪水の可能性はさらに高まる」と警鐘を鳴らす。

押し寄せたコーンの茎などの残骸で通行止めになる高速道路 
押し寄せたコーンの茎などの残骸で通行止めになる高速道路 
大量の氷の塊が押し寄せて決壊したスペンサーダム ネブラスカ州
大量の氷の塊が押し寄せて決壊したスペンサーダム ネブラスカ州

トランプの「無策」を批判する農家も

こうした状況を受け、被害にあった農家が気候変動へ関心を寄せ始めているのだ。

ネブラスカ州北部で6代続く農家を営むアンソニー・ルジスカさんの土地には、洪水によって大量の氷の塊が押し寄せ、自宅や畑が壊滅的被害を受けた。古い時代に建てられた屋敷や手作業で作った小屋、飼っていた牛や豚300頭も失った。アンソニーさんは「政治のことは詳しくわからない」と言葉を濁す一方、「気候変動は起きている。振れ幅がひどくなっていて、時に非常に暴力的だ」と語る。

(写真:Lorie Kreycik Knigge)
(写真:Lorie Kreycik Knigge)
家族は無事避難したものの、自宅は浸水し住めない状態に
家族は無事避難したものの、自宅は浸水し住めない状態に

ネブラスカ州中部で5代、100年にわたり農家を営むクレイ・ゴビアさんはトランプ大統領の「無策」を厳しく批判する。クレイさんの畑も、最近の大雨で水浸しの状態が続いている。水浸しの状態が数日続けば、大豆やコーンはダメになってしまう。クレイさんは「伝統的な共和党の政策を支持するが、気候変動で対策を取らないトランプ大統領には投票しない」と断言する。次の大統領選では、民主党候補の政策にも関心を寄せている。

また、周辺には、前回の選挙でトランプ大統領に投票したものの、貿易戦争と大雨でトランプ支持をやめると話す農家も多いという。

「農家にとって天候がいかに大事か忘れていた」と話すクレイさん
「農家にとって天候がいかに大事か忘れていた」と話すクレイさん
ネブラスカ州で100年以上農家を営むゴビア家 現在5代目
ネブラスカ州で100年以上農家を営むゴビア家 現在5代目

候補乱立の民主党は

バイデン候補(左)サンダース候補(中)ハリス候補(右)
バイデン候補(左)サンダース候補(中)ハリス候補(右)

一方、民主党は、現在23人が出馬を表明する乱立状態となっている。経済が好調なうちはトランプ大統領が勝つだろう、とする見方も多い。しかし、再選を目指すトランプ大統領との一騎打ちを想定した最新の世論調査では、民主党の主要候補が軒並みトランプ大統領を上回る支持を集めている。

■トランプ大統領との直接対決ではどちらに投票するか?(6月11日キピニアク大学調査)

ジョー・バイデン 53% トランプ大統領 40%
バーニー・サンダース 51% トランプ大統領 42%
カマラ・ハリス 49% トランプ大統領 41%
エリザベス・ウォーレン 49% トランプ大統領 42%
ピート・ブティジェッジ 47% トランプ大統領 42%

6月26~27日には、民主党の主要候補がフロリダ州マイアミで初のテレビ討論会を行い、大々的に政策をアピールする。 一方、トランプ大統領はこれに対抗する形でライブツイートを計画しているという。

次の選挙戦で気候変動が大きな焦点になることは確実だ。トランプ大統領の支持基盤を揺るがす地殻変動につながるのか、注目が集まる。

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】

瀬島 隆太郎
瀬島 隆太郎

フジテレビ報道局政治部 元FNNワシントン支局