NECが創薬事業に本格参入
NECといえば、国産パソコン創成期から現在まで様々な名機を世に送り出してきたことは、多くの人がご存じだろう。
そんなNECがこの度、医薬品を研究する「創薬事業」に本格参入すると発表した。
NECと医薬品の組み合わせはちょっと意外な気もするが、実はこれまでNECは「電子カルテ」やセンサーを活用した「見守りシステム」などのヘルスケア事業に取り組んできた。
創薬事業への参入は、ヘルスケア事業強化の一環だという。
その第一弾としてNECは最先端の「AI」を活用し、頭頸部がんと卵巣がん向けの「ネオアンチゲンワクチン」をパートナー企業の仏トランスジーンと共同開発すると5月27日に発表した。
このワクチンは、人間が本来持っている「免疫システム」を使ってがんを治療するというもので、患者ごとに別々のものになるという。
NECはすでに、米国FDAから本治験実施の許可を取得していて、イギリスとフランスでも申請している。
がんは日本国内で最も多い死因であり、様々な治療法が研究される中、患者一人一人に適したワクチンの開発というのは大きな期待が集まりそうだ。
どのように患者ごとに異なるワクチンを作るのか?そもそも「ネオアンチゲン」とは何のことなのか?
NECの担当者に聞いてみた。
「ネオアンチゲン」はがん細胞のみにみられる
――ネオアンチゲンワクチンってなに?がんを予防するの?
本件のワクチンは予防ではなく、治療を目的としています。
ネオアンチゲンとは、がん細胞の遺伝子変異に伴って新たに生まれた「がん抗原」のことです。
正常な細胞には発現せず、がん細胞のみにみられ、また、その多くは患者さんごとに異なります。
――このワクチンは何をするの?
もともと患者さんがもっている「免疫システム」に、「がん抗原(ネオアンチゲン)」を認識させる機能があります。
――つまりこのワクチンを投与すると「ネオアンチゲン」を持つ細胞を「免疫システム」が認識して攻撃するということ?
その認識で問題ありません。
がんにのみ存在する抗原をターゲットにするため、免疫が正常細胞を攻撃する可能性が低いと考えられています。
AIを使って“自分専用”の薬を作る
――AIは何に使われるの?
AIを活用した予測システムで、患者さんそれぞれが持つ多数の候補の中で、有望なネオアンチゲンを複数選定し、ランキングします。
この複数の候補の情報もとにワクチンを合成し、患者さんに投与します。
――AIを使わないと見つけられないの?
ヒトのDNAは約30億の塩基対で構成されており、治療の都度、患者さんごとにその時点のがん細胞の目印を見つけ、短期間で個人ごとに最適なワクチンを作ろうとすると、AIなしでは本治療を行うことは困難です。
――このワクチンは他の人には効果がほとんどない?
基本的にはその理解です。
一人ひとりに合った別々の薬を製造します。
――ネオアンチゲンワクチンは1回の治療で何回使う?1回の値段はいくら?
投与回数は臨床試験のデザイン次第で、今後決めていきます。
価格は現在未定です。
がん領域の治療コストは複数の要素(有効性、物価)によって異なります。
保険機関などと交渉して決定します。
――このワクチンの臨床試験(治験)は日本で行わないの?
今のところ計画はしていませんが、今回の臨床試験の結果次第では、日本での開発も考えたいと思います。
自分の体にできた「がん抗原」を攻撃するためだけに作られるワクチンと聞くと、想像するだけで効果がありそうだ。
1日も早い実現を望みたいが、NECは、2025年には創薬事業の事業価値を3,000億円まで高めることを目指しているという。