令和時代の財政の在り方とは?
「財政」と「怪物」… この2つの言葉を並べてみると全く相いれない印象を持つかもしれない。
しかし、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)が19日、麻生大臣に手渡した意見書、「令和時代の財政の在り方に関する建議」ではギリシャ神話の怪物が紹介されていた。
その名は「セイレーン」。
セイレーンは古代ギリシャの詩人・ホメロスが書いた叙事詩「オデュッセイア」に登場する美しい女性の顔を持つ怪物だ。美しい容姿に加えて、その歌声で船乗りたちを惑わし船を崖に衝突させてしまう恐ろしい生き物として描かれている。
麻生大臣に渡された意見書は、厳しい状況が続く日本の財政、その健全化に向け有識者の提言をまとめたものだ。
では、なぜこの美しき魔物が少し“場違いな”ところに登場したのだろうか?
事の発端は2018年の春。財政審のメンバーがオランダの財務省に視察に行った際に、大臣室に絵が飾られていたという。その絵の題名は「セイレーンの誘惑」。絵には「オデュッセイア」の主人公・オデュッセウスがセイレーンの誘惑に屈することのないように、自らを帆柱に縛り付けさせて、数々の困難を乗り越えながら故郷にたどり着く様子が描かれている。オランダ財務省は、財政健全化という難しい航海では、誘惑に負けない強い意思が必要という戒めの意味を込めて、この絵を飾っているという。
意見書に込められた“有識者”の思い
意見書では財政健全化を航海に例えて、こう記している。
「ある者は航海は難しくないのだと甘い幻想や根拠なき楽観を振り撒くかもしれない。(略)誰しも、受け取る便益はできるだけ大きく、被る負担はできるだけ小さくしたいと考えるがゆえに、そうした主張はいつも魅惑的に聞こえるであろう。しかし、現在の世代が航海に乗り出し、確かな航跡を描かなければ、将来世代に残される負担や将来世代が直面するリスクは否応なく増す。」
財政が抱える問題に目を背けることなく正面から向き合い、財政健全化を進めるべきだと訴えている。
また意見書では、これまで税の財政運営が、現在の世代が受ける利益を拡大させる一方で、税負担を軽減、もしくは先送りしているとして、「将来世代へのツケ回しに他ならない」と厳しく指摘している。財政審の榊原会長も会見で、令和の時代を「将来世代へのツケ回しに歯止めを掛ける時代にしなければならない」と強調した。
「歯止めを掛ける」ため、国民に当事者意識を持ってもらおうと財政審は5月、13年ぶりに地方公聴会を開催したほか、財政についての意見募集を初めて行った。
意見書ではこうした取り組みを続けるべきだとしているが、我々国民の側も受け身ではなく、積極的に税政の議論にかかわる意思を持ち続けることが、財政健全化への「航海」をより可能なものにするのかもしれない。
そして「今だけよければいい」ではなく、自分たちの子供や孫たちのために何ができるか―。意見書にはこうも記されている。「現在の世代が『セイレーンの誘惑』に屈したとき、崖に衝突する船に乗っているのは将来世代であるかもしれない。」
執筆: フジテレビ 経済部 財務省担当 日比野 朗