通称・整形ストリートに並ぶ「美容外科」の看板
通称・整形ストリートに並ぶ「美容外科」の看板
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ソウル屈指の高級住宅街・江南区。中でも狎鴎亭(アックジョン)というエリアは、大手芸能事務所も集まるほか、超高級マンションが林立するセレブタウンだ。この狎鴎亭には、通称「整形ストリート」と呼ばれる通りがある。通り沿いを歩くと、どこを見渡しても「美容外科」か「美容皮膚科」の看板が目に入るのだ。入居テナントの全てが美容医療機関というビルもある。

韓国国税庁によると、韓国内には1300以上の美容外科があり、そのうちの35%にあたる462施設が江南区に集中しているという。今、この「整形の聖地」を目指して、海を渡る日本人女性が急増している

入居テナントの全てが「美容外科」のビル
入居テナントの全てが「美容外科」のビル

費用は東京の4分の1 「安さには代えられない」

6月中旬に江南区で整形手術を受けた佐藤舞さん(22)。千葉県でエステティシャンとして働いていて、10日間の休みを取り、初めて韓国を訪れた。取材時は術後3日目で、まだ顔全体が腫れていた。佐藤さんは今回、鼻筋を高くした上で小鼻を縮小する手術と、額に丸みを出す脂肪移植の手術を受けたという。

韓国での手術に踏み切った理由はその“安さ”だ。「東京の有名な医院では費用が200万円と聞いて諦めました。でも韓国では50万円だったのですぐに決めました。少し不安もあったけど、安さには代えられません」

取材に応じた女性の顔には、生々しい手術痕が残る
取材に応じた女性の顔には、生々しい手術痕が残る

江南区のカフェで取材に応じた佐藤さんは、マスクを外し生々しい手術痕を見せてくれた。周りに大勢の客がいるにも関わらずだ。「日本だと、こんなこと出来ません。でも韓国であれば術後も堂々と街に出られるんです。顔全体を包帯で覆った女性もよく見かけますしね。腫れが引くまでの時間を、整形に寛容な韓国で過ごす、ということが大事なんです」

ツイッターなどのSNSでは最近、韓国で整形手術を行う日本人が情報交換するアカウントがあり、佐藤さんも事前にそこで下調べをしたという。取材後には「私と同じ時期に韓国で手術を受けた人をSNSで見つけたので、今から食事に行きます」と話し、街に消えて行った。

年間1万人が“韓国整形”、「日本人仕様」の医院も…

韓国保健産業振興院によると、2018年に韓国の医療機関を受診した日本人は、前年から1.5倍増加し4万2000人に達した。そしてこのうちの27%、約1万1000人が「美容外科」を受診している。日本に比べて費用が安価なことと、症例数の多さから手術の質が担保されているとの認識が、増加の背景にあると見られる。

“整形目的”で訪韓する日本人の波は、韓国側から見ると、またとない「ビジネスチャンス」だ。中には「日本人仕様」に切り替えて、市場開拓を進める医院もある。

日本人スタッフが常駐する整形外科(ソウル・江南区)
日本人スタッフが常駐する整形外科(ソウル・江南区)

江南区の「清潭オラクル皮膚科整形外科」は、現地の芸能人も数多く訪れる韓国有数の医院だが、近年は日本人患者の割合が高まっているという。日本人スタッフを常駐させるなど受け入れ体制を強化したことで、14年の開院当初より患者数は5倍以上に増え、5月は10~20代の若年層を中心に約150人が来院。取材時も19歳の日本人女性が「ほくろ除去」の相談に訪れていた。

この医院は、韓国の一般的な美容外科と比べても手術費用が安いのが特徴で、例えば「鼻筋を高くする手術」は日本円で15万円程度だという。日本の若い世代に向けて、リーズナブルな価格設定を積極的に打ち出すことも、戦略の一つだ。

日本人対応チームの室長を務める林みやこさんは「元々は韓国人向けの医院だったが、新たなマーケットとして日本人に狙いを定めた結果、売り上げも大きく伸びた。最近は日本人でも一度に複数ヵ所を整形する人が多く、単価も上がっている。日本人整形市場はまだまだ拡大していくはず」と分析する。

整形トラブルも急増、日本の専門家は注意喚起

こうした“韓流整形ブーム”は、術後のトラブルという弊害も生んでいる。東京都の「等々力皮フ科形成外科」では、韓国で整形手術を受けた人が帰国後に相談に訪れるケースが増えているという。その多くは「術後の腫れがなかなか引かない」「出来上がりが事前の説明と異なっていた」というものだ。

大久保正智院長は次のように注意を促している。「若年層は“安いから”という理由で韓国での手術に踏み切るようだが、果たして、事前のカウンセリングや術後のフォローは十分と言えるのか。日本では考えにくいが、韓国では初診日にそのまま手術をするケースも多い。海外での手術に伴う様々なリスクを日本人側も強く意識するべきだ」

国民生活センターにも同様の相談が数多く寄せられていて、18年に韓国であごの整形手術を受けた女性は、帰国後に日本の医院で「あごの骨が左右非対称になっている」と診断されたという。また腫れが引かず、視力低下の症状を訴える別の女性からは「韓国の医院側と書面でのやり取りがなかったため、トラブル発生時に対応してもらえるか不安だ」との相談もあったという。

取材を通して日本人の若い世代の中では、整形に対する抵抗感が薄れてきていることを改めて痛感した。この“韓流整形ブーム”は、しばらく続くだろう。ただ、整形手術などの「美容医療」は医療行為とはいえ、病気の治療や予防のためではなく、あくまで自身でその必要性を決めるものだ。医師とのコミュニケーションが上手くいかない恐れなど、様々なリスクが伴う海外で手術を受けなければいけないのか、慎重に検討するべきだろう。

【執筆:FNNソウル支局 川崎健太】

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川崎健太
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