「ビジョン示し対比したい」新調スーツで代表質問に臨んだ枝野代表

菅内閣発足後、初めての国会論戦がスタートした10月28日。菅首相の答弁力が試されると同時に、新党となった野党第1党・立憲民主党にとっても真価が問われる日となった。

この日、安住国対委員長は、菅首相の2日前の所信表明演説を「館内放送の業務連絡」「味気ない、熱意のない演説だ」だと酷評し、枝野代表らによる代表質問で徹底的に攻勢をかける意向を強調した。

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その枝野代表は代表質問の約1時間前、議員会館内のコンビニへ足を運んだ。いつも同じコンビニで昼食を買うルーティン通りの行動だ。この日選んだのは『かき揚げ丼』。選んだ理由について聞くと、「新発売だったから。おいしそうだったし」といつもと変わらない自然体だった。

ただ、いつもと違うところがあった。それは枝野代表の外見だ。9月に新党を立ち上げて以降、人生で初めてヘアマニキュアで髪を染め、髪型も変え、スーツを新調したのだ。枝野氏は、自室で真新しいスーツに腕を通しながらこう語った。

「野党第1党の党首なんだからもうちょっとヨレヨレじゃないスーツを着ろと、蓮舫さんをはじめ周りの人に言われました。身体にピタッと着ているので引き締まる感じです。(代表質問では)リーダーとしてこの国をどうしたいかというビジョンが総理の所信にあまりなかったので、そこをしっかり示して対比していきたいと思います」

枝野代表は、合流後の新党の党内から声を吸い上げるため、10月中旬、政策通の議員らを交えてブレーンストーミングを行い、質問項目の論点整理を始めた。さらに、自ら地方を回って集めた声を整理し、各地での自身の演説を振り返りながら、現場の声を国会に届けるための代表質問を練り上げて、この日の代表質問に臨んだ。

枝野氏が時間をかけて訴えたビジョン「命とくらしを守る共生社会」

そして始まった衆議院本会議での代表質問。演壇に立った枝野代表は、学術会議問題など菅政権の政治姿勢の追及に先だち、新しい立憲民主党の目指す社会像について時間をかけて演説した。

「一人ひとりの『命とくらしを守る』ために目先の効率性だけにとらわれず、『人を幸せにする経済』を目指します。新自由主義に代わる新しい選択肢として、政治が責任をもって支え合いの役割を果たす『共生社会』の実現を掲げます」

このように、党のビジョンを掲げた枝野代表は、その具体策として「医療や介護、子育て支援や教育など、命や暮らしを守る上で欠かせない基礎的なサービス=ベーシックサービスの充実」、「地域に密着した暮らしとしての農業」、そして「風力や地熱の活用で地域経済の活性化を図る『自然エネルギー立国』の推進」などを訴えた。

枝野代表は今回の代表質問の半分を、自らの“所信表明”と位置づけていて、そこには新党の代表として政権交代の選択肢を国民に示す狙いがあった。

コロナ・学術会議・脱炭素社会と原発…菅首相との論戦詳報

その訴えを終えた枝野代表は、ここで政権追及モードに一転し、コロナ対策と経済対策、学術会議の会員任命問題、脱炭素社会の実現と原発政策などについて、菅首相の考えを質していった。以下が枝野代表と菅首相の質疑の要旨だ。

<コロナ禍における消費税の減免を含む減税の必要性>

枝野代表:
「年収一千万円以下の方々への所得税の時限的な免除、その効果の及ばない困窮者の皆さんへの現金給付、そして消費税の時限的な減免に踏み切るなど、聖域を設けることなく、あらゆる政策をハイブリッドに組み合わせて実行することを提案します。私は、こうした大胆な政策を速やかに実現するのであるならば、野党の立場からも、その政治責任を共有する覚悟です。総理、政府と与野党での真摯な協議の場を設けませんか」

菅首相:
「所得税の免除については、低所得者には効果は及ばず、消費税については社会保障制度のために必要な財源と考えています。中小企業については、雇用政策などとも連携しながら経営資源の集約化による事業の再構築やデジタル化含めて中小企業の足腰を強くするための政策を推進し応援してまいります。いずれにせよ政府として与野党各党とこの国会の場で経済回復に向けた方策を含め真摯で建設的な議論行って参りたいと思います」

<学術会議問題>

枝野代表:
「総理は、提出された105人の名簿を見ていないと発言していますが、6人を任命しなかったのは総理ご自身の判断ではないのですか?誰が、どんな資料や基準をもとに判断したのですか?任命しなかった理由は何なのですか?明確にお答えください」

菅首相:
「今回の任命は、任命権者たる内閣総理大臣がその責任をしっかりと果たしていく中で、日本学術会議の推薦に基づいて任命を行ったものであります。その上で、個々人の任命の理由については人事に関することでありお答えは差し控えますが、任命を行う際には総合的・俯瞰的な活動、すなわち専門分野の枠にとらわれない広い視野に立ってバランスの取れた活動を行い、国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべきということ、さらに言えば例えば民間出身者や若手が少なく出身や大学にも偏りが見られることも踏まえて多様性を念頭に、私が任命権者として判断を行ったものであります」

<脱炭素社会と原子力発電への依存>

枝野代表:
「総理が2050年までの脱炭素社会実現を打ち出したことは歓迎します。しかしそのために、原子力発電への依存を強めることがあってはなりません。2050年の脱炭素社会において、発電における原子力の依存度をどのように見込んでいるのか」

菅首相:
「徹底した省エネ再エネの最大限の導入に取り組み原発依存度を可能な限り低減する、これが政府の方針です。2050年カーボンニュートラルは簡単なことではなく温室効果ガス8割以上を占めるエネルギー分野のとりくみは特に重要であり、再エネのみならず原子力を含めてあらゆる選択肢を追求してまいります」

<目指す社会像と政治姿勢>

枝野代表:
「総理のいう自助と共助と公助を順番に並べる考えは、端的に言って昭和の成功体験にとらわれた時代遅れのものではないでしょうか。日本をどんな未来へと導こうとしていますか? あなたはどこを見て、誰の声を聞いて政治をしていますか?苦しんでいる国民の声は届いていますか?『政治に私たちは見えていますか?』という声に、あなたはどう答えますか?」

菅首相:
「今回の演説ではデジタル化、グリーン社会の実現、地方の活性化、すべての方が安心できる社会保障、日米同盟を基軸とした積極外交の展開など政策の大きな方向性をお示ししました。その根本を貫く考え方が自助・共助・公助、そして絆です。まずは自分でやってみるそして家族や地域で助け合う。その上で政府がセーフティネットでお守りをします。まずは国民から信頼される政府をめざすことが大事であり、そのためにも行政の縦割り、既得権益、そして悪しき前例主義を打破し国民のために働く内閣として改革を実現してまいります」

菅首相はさらに、「私は常々国民から見て当たり前のことを実現すべく取り組んで参りました。今後も現場の声に耳を傾け、何が当たり前なのかしっかり見極めた上で大胆に改革を実行してまいります」と強調した。

「これだけで辞職もんだ!」答弁を聞き終えた枝野氏は菅首相を厳しく批判

菅首相の答弁を少し前のめりで聞いていた枝野代表は、しかめ面と苦笑いを繰り返していた。その後、議場から出てきた際には、質問用紙を入れたお気に入りの乃木坂46のクリアファイルを手に、すがすがしい表情をしていた。

そして記者団に対し、学術会議問題に関する菅首相の答弁について「全体の105名の名簿を見ていないのに、『バランスをとって自分が判断した』と言う。もう支離滅裂のご答弁を堂々となさったと言わざるを得ません。これだけでも辞職もんだ!」と語気を強め批判した。

野党の一定の合流を成し遂げたものの、安倍前首相の辞任により高い支持率の菅新内閣に対峙しなければならなくなった枝野代表。その中で感じていたのは、自らが国民に政権交代の“選択肢”を示さないといけないという危機感だったのではないだろうか。

「主張」と「提案」と「追及」を使い分けた代表質問を終えた枝野代表からは、“選択肢”としてこの国の目指す社会像をしっかりと示すことで党の存在感を一定程度アピールできたという自負を感じているようだった。

ただそれが国民に十分伝わったかというと、この代表質問だけでは不十分であり、これから始まる本格的な国会論戦の中で、党として示していく必要があるだろう。特に、一問一答形式で質疑が行える予算委員会の場で、国民生活に直結する菅政権の課題を指摘し、立憲民主党が政権交代の選択肢と認められるような論戦ができるのか、勝負どころである。代表質問の最後に枝野代表は「あなたのための政治」を強調した。国民が直接審判を下す衆議院総選挙が1年以内に迫る中、枝野代表の正念場は続きそうだ。

(フジテレビ政治部 大築紅葉)