今回から導入の特定枠とは?

第3回目となる「初めての選挙」18歳のための基礎講座ですが、今回のテーマは「特定枠」についてです。今回の選挙から「特定枠」が導入されましたが、一体どういうものなのでしょうか?

第1回では「参議選挙って何?」を解説
第2回では「参議院の選挙制度」を解説しました。
その際に比例区については、個人名の票数を競う「非拘束名簿方式」だと説明しました。

しかし、今回の選挙から、この「非拘束名簿方式」から除外して、各党や団体が優先的に比例で当選をさせたい候補を決められる制度も導入されました。これが「特定枠」と呼ばれるもので、いわば「指定席」のような制度となっています。ただ、主要な7政党でこの制度を利用しているのは「自民党」だけです。自民党は2人の候補者を特定枠とし、それ以外では、政治団体の「れいわ新選組」が2人、「労働の解放をめざす労働者党」が1人をそれぞれ特定枠の候補としました。

「特定枠」では、有権者に個人名で名前を書いてもらわなくても、当選や落選が勝手に決まるため、その候補者は、電子メールなどで投票の呼びかけなどはできるが、選挙事務所を置くことや個人演説会、選挙カーを使用すること、ポスターなどを張ったり、ビラを配ったりすることなど、個人名を浸透させるような選挙戦は制限されています。

この記事の画像(5枚)

また、この特定枠の人の名前を投票用紙に書いたとしても政党に1票が投じられたと同じ事になります。

この法律の改正がなされたことについては、総務省も「全国的な支持基盤を有するとはいえないが、国政上有為な人材又は民意を媒介する政党がその役割を果たす上で必要な人材が当選しやすくなる」と説明しています。

一体なぜこの制度は導入されたのでしょうか?

“1票の格差”と“合区”

実はこの背景には「1票の格差」という問題があります。

「1票の格差」とは何かというと、参議院選挙で比例区のほかに、都道府県単位で議員を選ぶ「選挙区」の制度に関連しています。
選挙区は現在、32ある1人区から、東京の6人区まで定数に幅がありますが、都道府県単位で選挙を行うと、どうしても候補者が当選するのに必要な票の数に差が出てしまいます。有権者が少ない選挙区は、有権者が多い選挙区に比べて、少ない票で議員が選ばれることになります。

簡単に言えば、100万票で1人当選できる地域と、20万票で1人が当選できる地域があった場合は、その1票の格差は5倍になります。つまり選挙区によって1票の価値に差がついてしまっているのです。

それでは、定数を調整していけばよいのではないか?と思う人もいるかもしれませんが、そんなに簡単ではありません。日本の人口が減少する中で、人口の多い地域の1票の格差を是正するためとはいえ、議員定数を増やすということには、世論の反発もあり国会議員はなかなか踏み切れません。これまでも人口が少ない県の定数を減らし、多い地域の定数を増やして調整が進められてきました。

しかし、ついに各県から3年に1度の参議院選挙のたびに、最低1人の国会議員(6年間で2人)を当選させることが限界を迎え、2015年に「合区」という制度が導入されました。合区は人口の少ない県を合わせて一つの選挙区とするもので、「鳥取県と島根県」、「徳島県と高知県」が一緒の選挙区となったのです。

合区県から怒りの声

この議論をリードした自民党は合区について「緊急避難」と説明しましたが、自民党が歴史的にも強い地盤を持つ地域だっただけに、合区された4県の政治家などからは、自分たちの県から代表者が出せないことへの懸念や、早期の合区解消を訴える声が相次ぎました。

こうした議論を経て2018年に決まったのが、議員定数を6年間で行われる2回の参議院選挙を通じて、埼玉選挙区で定数を2増やし、「合区」された地域の議員を救済する「特定枠」として比例の4議席を増やす法改正でした。

ただ、この制度は自民党に対しての救済色が色濃く、その地域からそもそも国会議員を出していない野党からは批判の声も挙がりました。

自民党は、合区された県にはそれぞれ国会議員を抱えています。例えば「島根・鳥取」が合区されれば、島根県か鳥取県から選出された議員の、どちらかが選挙区で出たとしても、もう1人は宙に浮いてしまいます。そのため、島根県の議員が「鳥取・島根」選挙区で出るときには、鳥取の議員は特定枠で優先して当選させるという制度を盛り込むことで、「全ての都道府県から代表者を出す」ということを実現しようとしたのです。

一方で、表向きは批判を強めていた野党側も、本音では選挙区でも比例区でも定数が増えることには、歓迎の声も漏れている現状もありました。こうして特定枠が導入されたのです。

次回は、選挙当日、なぜ開票100%ではない状態で、当選確実と報道できるのか?という疑問について解説します。

執筆:フジテレビ政治部 与党担当キャップ 中西孝介
【イラスト:さいとうひさし】

7月21日の投開票日の夜は、【Live選挙サンデー 令和の大問題追跡SP(よる7時56分~)】
MCの宮根誠司・加藤綾子が、古市憲寿・石原良純ら手加減なしの痛快ゲスト陣と共に令和の主役たちの素顔や、私たちに身近な新時代の大問題を徹底取材。怒濤の開票速報を展開しながら、各党首や候補者に「今聞きたいこと」を本音生直撃する。プライムオンラインでも、開票や全国の候補の当落の最新情報をリアルタイムでお伝えする。

↑「参院選2019」の記事をすべて読む
中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。