宝塚歌劇団の劇団員が死亡した問題で、劇団を運営する阪急阪神HDは、28日午後4時から緊急会見を開き、遺族側と合意書を締結したと明らかにした。

同時刻から、東京で遺族側も会見を実施している。

宝塚歌劇団を巡っては、去年、宙組に所属する劇団員の女性(当時25)が死亡しているのが見つかった。 自殺とみられている。

劇団側は当初、過密なスケジュールなどで劇団員に心理的負荷がかかっていた可能性を認めた一方、いじめやパワハラは確認できなかったとしていた。これに対し、遺族側は「到底納得できない」として、劇団幹部や上級生らによる15件のパワハラがあったと主張。劇団側は遺族側の証拠の提示を受けて、事実上の再調査を行うことになった。再調査の結果、2月の段階では、遺族側の発表によると劇団側は15件のパワハラのうち、7件のパワハラについてはほとんどの内容を認め、2件を否定していた。

■遺族主張のパワハラ行為認める

会見を行う阪急阪神HDの幹部 左から宝塚歌劇団・村上浩爾理事長 阪急阪神HD・嶋田泰夫代表取締役社長 大塚順一執行役員
会見を行う阪急阪神HDの幹部 左から宝塚歌劇団・村上浩爾理事長 阪急阪神HD・嶋田泰夫代表取締役社長 大塚順一執行役員
この記事の画像(6枚)

これまで、遺族側と劇団側は複数回協議を重ねてきたが、28日、午前11時に阪急阪神HDの角和夫会長や嶋田泰夫社長が遺族と面会し、謝罪した上で合意文書を締結したということだ。遺族側が主張していた15件のパワハラについては、話し合いの結果、14項目に整理し、最終的に劇団側は遺族側が主張するパワハラ行為を認めた。

■「取り返しのつかないことをした」と社長

会見で謝罪する阪急阪神HD嶋田泰夫社長
会見で謝罪する阪急阪神HD嶋田泰夫社長

嶋田泰夫社長は緊急会見の中で、「宝塚歌劇の舞台の上で、活躍することを夢見て、希望をもって入団されたご本人が、どのようなお気持であったか、また、その活躍を楽しみにされ、温かく全力でサポートしてこられたご遺族の皆様がどのようなご心情であるかを思いまするに、取り返しのつかないことをしてしまいましたことにつきまして、申し開きのしようもございません。改めてこの場をお借りいたしまして、ご遺族の皆様に心より謝罪を申し上げたいと思います。誠に申し訳ございませんでした」と謝罪した。

■「合意は従来の阪急劇団側の不当な対応を変更させ、調査チームの結論を覆したもので意義は大きい」と遺族側

東京で会見した遺族側の川人博弁護士
東京で会見した遺族側の川人博弁護士

また同時刻に東京で会見した遺族の代理人弁護士は、「阪急・劇団の依頼を受けて11月に発表された調査報告書はパワハラがなかったという誤った見解を示し、阪急劇団はそれを受けて自らや行為者のパワハラの存在を否定してきたが、今回の合意は従来の阪急劇団側の不当な対応を変更させ、調査チームの結論を覆したもので、意義は大きい」と述べた。

■劇団側が認めた14のパワハラ

劇団側が認めたパワハラ行為は以下の14項目だ。

1.断ったのに上級生がヘアアイロンで髪を巻こうとし額にやけど。やけどを負わせた上級生から真摯な謝罪がなかった。
2.上級生が首飾りの作り直しなど深夜に及び労働を課した。
3.上級生が新人公演のダメ出しで人格否定のような言葉を浴びせた。
4.宙組幹部が呼び出し その後宙組全員の集まりを開き、過呼吸状態に追い込んだ。
5.宙組プロデューサーがそうした集まりの場を設定したこと。組替えの要求を無視したこと。
6.ヘアアイロン事案について 劇団が「事実無根」と HPで発表。
7.劇団が過大な業務量を課し、長時間労働をさせた。
8.宙組の幹部が本来必要ない「振り写し」について一層の過重な業務を課した。
9.宙組の幹部が 「お声がけ」について 一層の過重な業務を課した。
10. 演出家が怠慢や不備により到底対応不可能な業務を課した。
11.宙組の幹部が配役表に関して、指導・叱責し深夜まで帰宅できず。
12.宙組の幹部が「振り写し」に関し、大声で宙組の組員の前で叱責。
13.宙組の幹部が 「下級生の失敗は全て あんたのせいや」など 叱責を繰り返した。
14.宙組上級生が「お声がけ」に関し詰問や叱責を続け罵倒した。

■宝塚歌劇団の再発防止策

宝塚歌劇団は、阪急阪神HDと阪急電鉄と連携し、同様の事態を二度と引き起こさないため以下の改革に取り組むとしている。

1. 興行計画の見直し(興行数・公演回数の削減)
興行数・公演回数の最大化に努めてきた結果、公演スケジュールが過密化し、出演者やスタッフに過重な負担が生じていたことを省み、興行計画を見直し、より充実した舞台を届ける環境を整備。
① 年間9興行から8興行体制への変更
・公演間のインターバルを増やし、前公演の千秋楽から次公演の稽古開始までの間に、一定期間の休日を確保。
② 1週間あたりの公演数を10回から9回に変更
・今の振付や音楽等の高度化に伴う出演者やスタッフの負担を軽減。

2. 組織的なマネジメントやサポートを強化するための体制・システムの整備
興行計画の見直しと併せて、以下の取組を含め、現場のサポートやケアを行う体制・仕組みを強化し、出演者やスタッフが良好なコンディションのもと活動に打ち込める環境を整備。
① 稽古スケジュールの見直しと時間管理の強化
・稽古スケジュールの見直し 演出の高度化・複雑化に伴い、公式稽古を補完するための自主稽古が増加している状況に 鑑み、上記興行計画の変更と併せて、稽古期間を延長する等、稽古スケジュールを見直し。
・新人公演の実施日程・運営方法の見直し 宝塚大劇場の新人公演の実施日を従前から1週間遅らせるとともに、新人公演の稽古開始 日を本公演初日後の休演日翌日からとする(2024年7月雪組宝塚大劇場公演より実施予定)。 また、新人公演の稽古の運営方法を見直し、出演者の負担を軽減
・活動時間管理の強化 より良い舞台づくりのために活動時間が長時間に及ぶ傾向にある状況に鑑み、劇団施設へ の入退館時間の制限を強化し、在館可能時間を短縮するとともに、客観的な入退館時間を 記録できる体制を整備。
② 劇団員の心身の健康管理体制の強化
・常設カウンセリングルームの開設や、専門医への相談ルートの拡充など、メンタルケアの体制を強化。
・診療所医師の勤務時間拡大等により、サポート体制を強化。
③ 現場の問題を把握し、意見を吸い上げる仕組みの強化
・劇団専用の外部相談窓口を開設し、劇団員の意見を経営層に届ける仕組みを整備。 ・各種相談窓口(既存相談窓口を含む)の劇団員への周知徹底と利用促進。
・職場環境(心理的安全性※)に関する匿名アンケートを実施 。
※健全に意見を交わし、生産的でより高い成果を生み出すことに注力できるチームや組織の状態
④ 内部監査体制の強化
・阪急電鉄の内部監査部に宝塚歌劇団担当を配置し、定期的に劇団に対する業務監査を行 う体制を整備。

3. 劇団員及び関係者の意識改革・行動変容を促す取り組み
宝塚歌劇団には、技芸の伝承や安全に舞台を務めるための様々なルールや慣習がありますが、 中には、古くからの伝統や慣習が積み重なり、非効率になっているケースや、過剰な気遣いや負担が生じているケースもあることから、常に時代に合わせてルールや指導方法を見直し、意識改革を図りながら伝承する体制をつくる。
① 過去から伝承されてきた慣習・しきたり・指導方法の見直し
・舞台人としての技芸やマナーの向上等のため、劇団員の中で伝承されてきたルールや指導 方法について、非効率・不必要となったものを廃止・合理化・改善。
・匿名で投稿できる意見箱を設置し、要望事項に対して劇団員の 代表や関係先と協議の上、順次改善を実施。
② 出演者・スタッフの役割分担の見直し、人材育成の強化 ・ハラスメント研修、リスペクト研修、コーチング研修など、各種研修を拡充。
・稽古用小道具の準備や段取りに関する役割の見直しにより出演者(下級生)の負担を軽減。
・IT ツールの導入により、各種連絡・情報共有・データ共有等の円滑化・効率化を図り、出演者やスタッフの負担を軽減。

4. 劇団の改革を実効性の高いものとするためのサポート体制の整備
・阪急電鉄において、外部有識者で構成されるアドバイザリーボードを2024年4月1日付で設置し、改革の内容について、専門的知見から助言をいただき、今後の劇団運営に生かす。
メンバーは、ガバナンスや内部統制、法律関連、組織風土改革や心理的安全性、 演劇制作など、様々な専門家が参画。
・持株会社である阪急阪神HDにおいてはコンプライアンスの強化等に向けた取り組みを進める。また、取締役会や監査部門による監視機能を強化。
・併せて、近年のリスク管理の重要性の高まりを受けて、グループ全体のリスク管理の統括機能を担うため、阪急阪神HDにおいて、社長直轄の組織として「リスクマネジメント推進室」を2024年4月1日付で新設し、同室においてグループにおける潜在的なリスクの有無の確認や、 グループ内各部門におけるリスクの評価に対する客観的な検証等を行うことで、グループ全体のリスク管理を強化。
劇団についても、この体制のもとで、より適切にリスクを管理。

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。