ロシアが打ち出す極超音速兵器と原子力核魚雷ポセイドン

原子力核魚雷ポセイドン
原子力核魚雷ポセイドン
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ロシア国防省が2月20日、映像を公開した原子力推進水中兵器「ポセイドン」について、プーチン大統領は、同日、「試験に成功し、航続距離は無制限」と発表した。

「ポセイドン」は、昨年3月1日、プーチン大統領自らが、開発中であることを公表したPetrel原子力動力システムを搭載した原子力巡航ミサイルや、ICBMに極超音速滑空弾頭を搭載するアヴァンガルド計画、さらにMiG-31戦闘機の改造機に搭載する極超音速ミサイル「キンジャール」などと並ぶ、一連の新兵器の一つである。
極超音速というのは、マッハ5を超える速度のことで、ロシアは、その速さで、米国を中心に開発、配備が進められている弾道ミサイル防衛棒を突破しようという意図だ。

 
 

ロシアの発表通りなら、ポセイドンは、原子力推進であるゆえに、最高速度70ノットで、「無限の航続距離」を持ち、核弾頭を搭載すれば、全世界の海、沿岸地域を核攻撃できることになる。
しかも、深度1000メートルまで、潜航可能とされ、一度、放たれれば、目標まで、自律的にコースや深度、速度を変えるため、捕捉・追跡は、困難になることが予想される兵器だ。

 
 
 
 

ポセイドン搭載原潜は、今春、進水

従来、ロシアが公開していたポセイドンの運用構想のCGでは、潜水艦の甲板の蓋が開いて、中から、長大なポセイドンが水中に浮かびあがるようにしてから、航行を開始するイメージだったが、今回、公開された映像では、容器に入っていたポセイドンが蓋のようなモノを破って、水中に出てくる。
容器の形状は不確実だが円筒型で、全長10メートル以上、直径1メートルともいわれるポセイドンが、容器ごと、潜水艦から水中に出て、魚雷のように射出されるのか、潜水艦の方に、通常の魚雷(直径約53センチメートル)よりはるかに太い特大の発射管が設けられるのかは分からなかった。
だが、魚雷のように射出されるなら、正体不明ながら、大陸間原子力核魚雷と呼ばれる所以だろう。
プーチン大統領は、2月20日、ポセイドンを搭載可能な原子力潜水艦1隻を今年の春にも進水させると言及した。

 
 

従来の軍備管理/軍縮交渉の分類になじまないポセイドン

 
 

従来の米露の軍備管理/軍縮交渉の対象は、例えば、戦略兵器制限条約(SALT)、戦略兵器削減条約(START)では、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、それに大型爆撃機に搭載される巡航ミサイル及び、それに搭載される核弾頭/核爆弾が、さらにINF条約では、射程500㎞から5500㎞の地上発射巡航ミサイル、弾道ミサイル及び、それに関連した施設が対象となっていた。つまり、ミサイルや、飛翔するモノが対象だったのである。

しかし、ポセイドンは、従来の戦略核兵器並みの威力、航続距離となりうるのに、”飛ばない”ので、従来の軍備管理/軍縮条約の対象とするのは、無理があるだろう。
つまり、既存の条約では、制限できそうにない新兵器ということになる。
戦略核兵器は、空中発射であれ、海中発射であれ、地上発射であれ、狙われた側にすれば、空から降ってくるものだったが、ポセイドンの実用化は、海中から忍び寄る核兵器という新たなジャンルの確立を意味する。ロシアの主張通りの性能を発揮するなら、米国のみならず、西側、特に海に面した国々にとって、脅威となりかねない。

プーチン大統領は、ポセイドンを交渉のテーブルに載せるか

米ソ、米露の軍備管理/軍縮交渉の歴史は、二大国が、同様のカテゴリーに分類できる兵器を保有、または計画しているという前提で、交渉が開始された。
しかし、米国をはじめとする西側諸国には、この「ポセイドン」に匹敵する原子力推進無人兵器は存在しない。
従って、米国、または、西側諸国が、ロシアに対して、このポセイドンを軍備管理/軍縮交渉の対象とするよう、ロシアに求めても、西側に、ポセイドンに匹敵する兵器がない以上、ロシアが応じるかどうかは、未知数だ。

また、プーチン大統領は、2月20日の演説で、射程1000㎞以上の地上攻撃用極超音速ミサイル「ジルコン」を、すでに、カリブル巡航ミサイルを搭載している軍艦や潜水艦に搭載する方針も示している。

プーチン大統領
プーチン大統領

プーチン大統領は、昨年に続き、2月20日の演説でも、新兵器の名称や性能を立て板に水のように語り、言葉をとぎらせなかった。
交渉の流れが、実務者レベルで行う前の首脳会談で決まるとすれば、プーチン大統領の交渉相手は、彼我の兵器システム、装備について、相当な知識の持ち主であることがもとめられるだろう。

(フジテレビ解説委員 能勢 伸之)
 

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能勢伸之
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フジテレビ報道局上席解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。