受動喫煙が問題になる中、あるIT会社社長の宣言がネット上で議論をよんでいる。

「今後、喫煙者は一切採用しないことを決めました。」


この宣言をしたのは、プログラミング教育事業などを手がけるIT会社「div」の真子就有社長。
4月28日にツイッターで、「法の範囲で個人の生き方は自由です」としたうえで、「健康」「生産性」「周囲への影響」という観点で会社にとって良いことが何もない、と持論を述べている。

さらに、ブログでも喫煙者を採用しない理由を詳しく説明。健康面のリスクに加えて、たばこ休憩は非喫煙者からの不満になりやすく、「非喫煙者から不満の声が上がることのほうが問題であり、生産性を落としている」などの理由を挙げている。


星野リゾートなども以前から「喫煙者は採用しない」ことを明言していて、また、受動喫煙対策をめぐっては、政府が3月に「健康増進法改正案」を閣議決定し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて今国会での法案成立をめざしている。

こうした世の中の流れの一方で、「喫煙者は採用しない」という採用方針は、法的に問題はないのだろうか。また、「喫煙しない」というウソが採用後にバレた場合はどうなるのか。
弁護士法人L&Aの伊勢田篤史弁護士に聞いた。
 

「喫煙者は採用しない」は合理性が認められない可能性がある

ーー「喫煙者は採用しない」という会社の方針、法的に問題はないのでしょうか?

一般的に、企業においては広範な採用の自由(労働条件の自由)が認められております。

受動喫煙についての社会的意識の変化もあり、本人も条件を承諾した上で応募しているのだから問題ないと思われる方も多いでしょう。
しかし、労働法という観点から検討してみると、そんな簡単な話ではありません。

採用条件については、憲法上規定されている職業選択の自由等にも鑑み、合理性が求められているものと考えられます。
なお、合理性の有無については、各企業の個別具体的な労働環境等に照らして評価されるものといえます。

喫煙者を全社一律に採用しないという採用条件については、ケースバイケースですが、合理性が認められない可能性があります。

 
 
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まず、喫煙者という言葉自体の定義から考えなくてはなりません。
喫煙者といっても、日中たばこを吸わなくても大丈夫なライトスモーカーから、日中問わずたばこを吸わずにはいられないヘビースモーカーまでが対象となり、非常に多義的です。
この喫煙者という言葉自体の定義を明らかにする必要があります。

例えば、喫煙者をライトなスモーカーを含むと定義した場合、看護師さんや営業職の方等のように、ちょっとした匂い等が問題となるような労働環境であれば、「喫煙者は採用しない」という採用条件についても合理性があると評価される可能性があります。

しかし、こういった匂い等が特に問題とならない労働環境等において、特に日中にたばこを吸うこともなく勤務に支障がないにもかかわらず、「喫煙者は採用しない」という採用条件を設定するケースにおいては、合理性が認められない可能性があります。

一方で、喫煙者をヘビースモーカーと定義した場合、タバコ休憩等による労働環境への影響を理由に「喫煙者は採用しない」という採用条件を設定すること自体、合理性を有する可能性があります。

ただし、既存の労働者に、就業時間中、タバコ休憩をとるようなへビースモーカーが存在しないという状況が必要になります。

なぜなら、既存の労働者がタバコ休憩をとっているにもかかわらず、新入社員だけがタバコ休憩を認められないというのは合理性がないものと判断される可能性があるためです。
 

「喫煙しない」とウソをついて採用されたら、解雇されることも

ーー「喫煙しない」とウソをついて採用され、その後、喫煙者であることがバレた場合、解雇されてしまうのでしょうか? その場合の解雇は、法的に問題はないのでしょうか?

就業規則における懲戒解雇事由に該当すれば、会社側より解雇される可能性があります。
 
しかし、ケースバイケースですが、解雇が無効となる可能性もあります。
 
まず、解雇が有効となるためには、少なくとも①採用条件が合理的と評価される一方で、②解雇することが社会的に相当といえる必要があります。

①については、上記のとおり採用条件の合理性が判断されるものといえます。

そのため、「喫煙者は採用しない」という採用条件における「喫煙者」の定義をどう考えるかがポイントとなります。「喫煙者」の定義次第では、各企業における労働環境との兼ね合いで合理性がないものと判断される可能性があるからです。

②についてですが、例えば「喫煙者」をヘビースモーカーと定義した場合、2つの問題点があります。

まず、「喫煙者(ヘビースモーカー)であることがバレた」という状況ですが、たった1回の喫煙を発見しただけで、ヘビースモーカーと評価できるものではありません。
「どうしても付き合いで1服たばこにつきあっただけで、普段は吸わない」という反論をされた場合には、「普段も吸っている」ことを企業側で立証する必要があり、非常に難しい立証を迫られます。

次に、仮にヘビースモーカーで、就業時間中に頻繁にたばこ休憩をとっていたことが判明した場合ですが、いきなり解雇することが社会的に相当とされない可能性もあります。
たばこ休憩を注意することで、業務に支障が生じないようにすることができる可能性があり、いきなり解雇することが過度な処分とされる可能性があるからです。

法的に問題がある採用基準は?

ーー法的に問題がある採用基準にはどのようなものがあるのでしょうか?

人種・信条・性別・社会的身分又は門地等を採用基準とする場合には、法的な問題があるといえるでしょう。
なお、上記のとおり、合理性のない採用基準についても法的な問題がある可能性があります。

伊勢田篤史
弁護士法人L&A パートナー弁護士・公認会計士 
慶応義塾大学経済学部卒。大学在学中に公認会計士試験合格後、大手監査法人勤務を経て2014年弁護士登録(67期)。東京弁護士会所属。法務と財務の両面から、企業経営に関するコンサルティングを行っている。

 
 
プライムオンライン編集部
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