韓国の売春婦『バッカスおばさん』が3年で3倍に

『バッカスおばさん、3年で3倍に急増』

最近、このようなニュースが韓国のメディアで報じられた。
2016年には、この“バッカスおばさん”を題材にした映画が韓国国内で上映されている。
“バッカスおばさん”とは、一体何者なのか。

「バッカス」とは韓国で最もポピュラーな栄養ドリンクの名前で、日本でいうリポビタンDのように国民に親しまれる存在だ。
それが「おばさん」とつながると、意味は一変。
韓国では、高齢の娼婦のことを指す。

「バッカスを売りながら売春を持ちかけてくる」「性行為を行った後にバッカスを勧めてくる」など、由来には諸説あるが、人目をはばかり表向きにはバッカスの売り子を装いながら、街角で売春を持ちかける高齢者のことを意味している。

 バッカスおばさんは、どのような場所でどのように活動しているのか。
そして、冒頭で触れたように近年急増している背景には、何があるのだろうか。

その実態を探るべく、ソウル市内を歩いた。
 

行き場を失った独居老人が集まる公園

公園に集まる高齢者たち    撮影:横田 徹
公園に集まる高齢者たち    撮影:横田 徹
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ソウルの中心地にあるチョンミョ市民公園。
ここには毎日、100人以上の高齢者が集まり、日向ぼっこや世間話、囲碁などを楽しむ姿が見られる。
ここで時間を潰しているのは、身寄りがなく行き場を失った独居老人たち。そのほとんどが男性だ。

現在、韓国では65歳以上の高齢者が人口の14.3%を占めており、その半分は貧困層だという。
儒教思想が根付く韓国では、年長者を敬い、家族を扶養することがかつては当たり前だったが、近年は長引く経済不況もあり、家族が高齢者を養う経済力は失われているという。

廃品回収で稼ぐ高齢者    撮影:横田徹
廃品回収で稼ぐ高齢者    撮影:横田徹

さらに就職難も深刻で、大卒者の就職率は64%。
3人に1人は職にありつけない状況だ。
たとえ仕事に就けたとしても、64%が非正規雇用だという。
仕事をしていない子や孫から、少ない年金をせびられる高齢者も少なくない。

家族に見捨てられたり、あるいは自ら家を出るなど、自宅に居場所がない高齢者たちが、こうして公園に集まってくるのだ。

「3万ウオンでどう?」

路上に立つバッカスおばさん    撮影:横田 徹
路上に立つバッカスおばさん    撮影:横田 徹

この公園にもかつてはたくさんのバッカスおばさんが現れ、男性たちに声をかけていたというが、現在その姿は見えない。
聞けば、数年前に公園の管理人から締め出されてしまったという。

一人の高齢男性から、歩いて5分ほどの大通りにバッカスおばさんがいるとの情報をもらい、早速その場所へと向かった。

教えてもらった大通りには、60〜70代と思われる女性たちが5人ほど、誰かを待つような素ぶりで立っていた。
きちんと化粧をして、大きめの鞄をたすき掛けしている以外は特徴のない、どこにでもいるような高齢者だ。

本当に彼女たちはバッカスおばさんなのだろうか。

翌日も同じ場所に行ってみると、同じ顔ぶれの女性たちが同じ場所に立っていた。
一週間ほどその場所に通い、同じ女性たちの姿を確認した。
意を決して、その中の一人に声をかけた。

すると、茶髪で真っ赤なコートを着たその女性が、意味深な笑みを浮かべて聞いてきた。

「3万ウォン(約3千円)でどう?」
 

「孤独が怖い」独居老人たち

バッカスおばさんが利用するホテル街   撮影:横田徹
バッカスおばさんが利用するホテル街   撮影:横田徹

やはり彼女はバッカスおばさんだった。
裏通りにある寂れたホテルの一室で話を聞いた。

67歳だと言う彼女には同居の娘がいるが、娘は母親がこの仕事をしていることを知らないという。

 ーーどのような経緯でこの世界に入ったのですか?

「商売をしていた旦那が詐欺に遭い、そのストレスで酒を飲み過ぎて病気になり、亡くなったの。その後、貯金をギャンブルで使い果たして借金が増えてしまったから、仕方なく街角に立つようになった」

 ーーお客さんはどういった人が多いのですか?

「ほとんどは一人暮らしのおじいちゃん。男は命がある限りは、行為したがるようね。でも最近は、おばさん好きの性癖をもつ若い子の相手もするのよ」

 ーー報酬はいくらほどもらっているのですか?

「私の場合は、3万ウォン(約3千円)以下はお断りしてるけど、中には2万ウォン(約2千円)でもOKという女性もいる」

 ーーバッカスおばさんが増えているようですが、高齢男性があなたのような女性を求める理由は?

「若い女性と付き合おうとしたら、ご飯を奢らないといけないし、プレゼントや映画代などとにかくお金がかかるでしょ。お金のない高齢者、行き場のない男性を相手してくれる女性は、私たちしかいないのよ」


取材を終えると、彼女はまた街角へと戻って行った。

誰かとつながっていたい。孤独が怖い。人に触れたい−−。
公園に集う人々の姿と、彼女の言葉が、高齢社会の切実なリアルを表していた。

(取材&撮影:報道カメラマン 横田 徹)
 

横田徹
横田徹

報道カメラマン