民間の日本人として初めてレーダー製造工場を見学

「イージス・アショア」そのものの性能や、最近の国際情勢をふまえ、専門的な見地から配備計画の今後に迫っていく。
「専門的な見地」ということで、軍事評論家・岡部いさく氏と、防衛問題にくわしいフジテレビ・能勢伸之解説委員に聞いた。

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岡部さんは2019年12月、民間の日本人としては初めて、イージス・アショアに搭載予定のレーダーを製造するロッキード・マーチン(LM)社の工場を見学した。

(Q.米のロッキード・マーチン社で何を見た?)
軍事評論家・岡部いさくさん:
米・ニュージャージー州で、ニューヨークから車で約2時間のところにあるロッキード・マーチン社の工場を見学した。この施設では、イージス艦に使われる『SPY-1』というレーダーを造っていて、さらに新しい技術のレーダーの製造と開発とテストが行われていた
(Q.日本のイージス・アショアのレーダーの製造は始まっていた?)
日本のイージス・アショアのためのレーダー『SPY-7』の製造は行っていないようだ。ただ、『SPY-7』と同じ技術を使った米本土防衛用の巨大レーダー『LRDR』を製造していた

『SPY-7』というのは、これまで『LMSSR』と伝えていた日本のイージス・アショアに搭載予定の新型のレーダーのことで、11月にアメリカ政府に認定され、新たに『SPY-7』という名前が付いた。
岡部さんによると、ロッキード・マーチン社の工場では、まだ『SPY-7』の製造は始まっていないが、アラスカに配置されるアメリカの本土防衛用のレーダーと同じ部品が使われるという。
少し話が難しいが、つまりは製造中のアメリカのレーダーと全く同じ材料で、その材料の組み合わせ方を変えることによって作られるのが『SPY-7』だという。
ロッキード・マーチン社の2020年のカレンダーには、『SPY-7』のイメージが描かれている。前方に黒い線が伸びているものが『SPY-7』で、形は四角いという。

これはあくまでもイメージだが、メーカーとしては注文通りに粛々と製造するのが当然。 製造に向けた実務作業は着々と進んでいる。

イージス・アショア配備めぐり再調査 どこが候補地に?

防衛省はここまで、イージス・アショアの本体、レーダー、レーダーを取り付ける建物の設計など、配備にかかる契約を交わしてきた。
そして2020年度予算には、迎撃ミサイルの発射装置を取得する費用も盛り込まれる。
ただし、いずれも「特定の配備地を前提としていない」、つまり「あくまでもどこに配備するか決めるのはこれから」と強調している。

防衛省の再調査は2019年度いっぱいとされているため、配備候補地については、さまざまな臆測が飛び交っている。
新屋演習場もあわせて、北側の候補地は3県で20カ所ある。
秋田県の佐竹敬久知事は「新屋見直しだからって万歳じゃない」と発言し、「住宅地から一番遠い場所を選ぶべき」ともしていて、やはり住民、県民の安心・安全が第一という姿勢を崩していない。
それに加えて、「安全・安心を守る」という観点から、佐竹知事はこんな発言もしている。

佐竹知事:
SM-3ブロックIIA(日本採用の迎撃ミサイル)が、何十年もあのままでいくはずがない。配備される5年後くらいになると新しいバージョンができている。そのときに新しい装備のための増設などできるかどうか。5年、10年で兵器はどんどん変わる。だから、最初からある程度面積が必要だし、周辺環境も配慮しなきゃいけない

現状の配備計画は、北朝鮮の弾道ミサイルに対する防衛が念頭に置かれているが、北朝鮮の技術の進歩や世界情勢の変化にともない、求められる防衛システムも変わってくるのではないか...という。

フジテレビ・能勢伸之解説委員:
新たな脅威というのは、確かにイージス・アショアの配備計画が持ち上がった時には、あまり考えられていなかった脅威。それも視野に入れるべきだということになると、計画全体の見直しにも発展する話

軍事評論家・岡部いさくさん:
低い弾道で大気圏内の高いところを飛ぶ、デプレスト軌道で飛んでくるミサイル。あるいは、中国が実戦配備しているという極超音速滑空兵器。マッハ5(時速6,000km)以上のスピードで滑空しながら、しかも自在にコースを変える。
これに対して、LM社の説明では『SPY-7』は大気圏内を不規則に飛んでくる兵器もとらえられる。ただし 、どんなミサイルで迎撃するのかというと、そのミサイルはない。
だから、今の防衛省の説明のままの仕様のイージス・アショアでは対応できない

「適した土地」とは…配備計画全体の見直し可能性も

2人の見解では、知事の言うように、将来のバージョンアップを見据えて配備計画全体が見直される可能性もあるのかもしれない。
そうなると、より「適した土地」というのが難しくなってくる。
どこまで条件が加味されるのかというところになるとみられる。
新屋演習場を除く19の国有地では、秋田県内は能代市内、男鹿市内、由利本荘市内、にかほ市内のあわせて9カ所が挙げられている。
青森県は、自衛隊の演習場を含む、全て日本海側の6カ所が候補地に挙げられている。
山形県は、全て日本海側の市町村だが、4カ所の国有地が検討のテーブルにのった。
この19カ所が浮上した最初の説明の時は、いずれかの条件に合わず、「不適」とされた。

この時の条件は、第1に「日本海側に位置し、なるべく平たんで1㎢以上ある」こと。
これをクリアすると、第2に「周辺にレーダーの遮蔽(しゃへい)となるものがないか」ということが調べられる。これは、のちに電波を遮るとした山の角度が間違っていたことが判明した。
そして第3に「電力や道路などのインフラ環境が整っているか」。
それを全て満たしたところで、初めて「住宅地からの距離」が検討されていた。

菅官房長官の発言で、住宅地との距離は重要な考慮要素になるという話があったが、再調査の結果、「住宅地との距離」が第1条件になる可能性はあるのか。
再調査後の配備候補地の選定基準が変わるのか、現時点ではっきりしたことはわからないが、新屋演習場は一番近い民家まで約300m。
これが近いのか遠いのか…。それぞれ捉え方は異なると思うが仮に防衛省が、これを「近すぎる」と判断しなかった場合は、世界的にも珍しいケースになるという。

軍事評論家・岡部いさくさん:
例えば、アメリカ軍のレーダーLRDRは、人里離れたアラスカに造られる。同じイージス・アショアでも、ルーマニアに配備されているものは野原のど真ん中。写真を見ても、周りに民家は写っていない。
もし、新屋演習場に配備するとなったら、これまでの軍事レーダーの中では、最も近くに民家がある施設になるんだろう

佐竹知事は、2019年最後の定例会見で、揺るぎない新屋反対の意思を示した。
次に配備の適地とされるのが、再び新屋演習場なのか、新屋演習場以外の国有地なのか、はたまた全く別の場所なのか。

再調査の期限は2019年度いっぱいだが、いずれの結論がもたらされたにしろ、2020年は今後を左右する重大な局面を迎える。

(秋田テレビ)

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