日本人記者からの“皮肉な質問”に

注目の日本対サモア戦、試合前日である2019年10月4日、記者会見でちょっと面白い場面に遭遇した。場所は豊田スタジアム

次戦で日本に負ければ1次リーグ敗退がほぼ決定的なサモアチームは、日本戦について「決勝トーナメントに行きたい気持ちは持っている。そのために日本は倒さなければならない相手だ」と発言。

その直後、日本の記者から次のような質問が飛んだ。

「公開された練習の冒頭部分でスマホをいじっていた選手がいた。こうした光景をみるのは非常に珍しい。他の国でもこういう場面をみたことがない。このことをコーチはどう思うか」と。

記者は言外に、「そんな気持ちで日本に本気で勝とうと思っているのですか」というニュアンスを含んだ質問をしたのだ。

これに答えたサモアのコーチの答えは、私の予想を裏切るものだった。
コーチは最初、質問の意味がわからないとし、「もう一度質問していただけますか」と述べ、2度目の質問のあと、内容をおおよそ理解したような表情をして、言葉を選びながら次のように答えたのだ。

サモア代表 ロジャースコーチ:
私は、選手がそんなことをしていることに気が付きませんでした。ただ、スタジアムがあまりに大きくて美しくて…こんな素晴らしい施設で試合ができることは感激で、初めての経験の選手も多いと思う。この感激を自国にぜひ持って帰って伝えたいと思い、写真を撮っていたのだと思う。これがマナー違反、日本の文化に合わなかったとしたら謝りたい。

 
 
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記者の質問は「そんな観光気分で日本に勝てるのですか」という、やや皮肉をこめた質問だったはずだ。

かつての「ラグビー強国」の厳しい現状

この時、私自身が15年前にサモアへ行った時の光景が頭をよぎった。現在は変わっているかもしれないが、当時は国の機関でさえ、4階か5階建ての建物。それ以上高い建物は存在しなかった。本当に海がきれいな、のどかな雰囲気の島国だったことを覚えている。

だから、私は会見でコーチが“釈明”するのを聞いて、「そりゃ仕方ないわな」と妙に納得してしまったのだ。

サモアは、ラグビーの世界ランクが15位(2019年10月2日現在)の国。人口はわずか20万人(2018年現在 外務省資料)ながら、95年大会ではベスト8に進出した経験を持つ。しかし、近年は人材の流出も激しく、2017年には『サモアのラグビー協会が破産』という記事もみられるなど、悪いニュースが目に付く。多くのサモアの選手たちが、今回のような環境で試合ができるチャンスはほとんどないのだろう。

日本戦にフランカーで出場予定のクリス・ブイ選手:
フィールドに出て驚いた。こんな高いところまでスタンドがあるなんてこんなに大きなスタジアムでプレーしたことがないから楽しみだ

彼らにとって「完全アウェイ」は関係ない。45000人の観客で埋め尽くされた美しいスタジアムで、いい試合をし、それを母国に持ち帰り、ラグビーを“復活“させることが重要なのだ。さらに日本という国を、サモアの選手が感じた“日本の良さ”を、もっともっと拡散してほしい。

最後にサモアのコーチに私から言いたいことがある。
「日本で練習中にスタジアムをスマホで撮影することは、決してマナー違反でなく、そんなことを禁止する日本の文化もありませんよ」と。

(フジテレビ報道スポーツ部 坂本隆之)

坂本 隆之
坂本 隆之

1990年入社後、カメラマン・政治部・社会部・スポーツ部・番組プロデューサー・クアラルンプール、ベルリン、イスタンブールの支局勤務を経て現在はマルチメディアニュース制作部長。バルセロナ・長野・シドニー・リオ五輪やフランス、ドイツW杯の取材経験あり。