【前編】『安倍ちゃん、高村首相の下で閣僚やれよ』安倍政権は日本を取り戻したのか

仕事と関係ない話ができる仲

ある日の「新報道2001」で、
「安倍首相はボンボンなのに、プーチンとかトランプとか不良と付き合うのがうまい」
とコメントしたら結構ウケたので、安倍さんに会った時にそう言ったら、
「だって不良には麻生さんで慣れてるから」
と答えたので、周りにいた人達が大笑いした。
 
別の時に番組で
「安倍さんは猛獣使いとしてトランプの調教を世界から期待されている」
とコメントしたら米紙ニューヨークタイムズに
「フジテレビ日曜朝の平井というコメンテーターは、安倍のことをアニマルトレーナーと呼んでいる」
と引用されたこともあった。

(写真:内閣広報室提供」
(写真:内閣広報室提供」
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平成28年(2016年)11月、米国でドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれた。
そのわずか10日後に安倍さんはニューヨークに飛び、トランプタワーで会談、すっかり意気投合した。
翌年2月にはフロリダの別荘に招かれてゴルフをするまでに仲良くなっていた。
 
初ゴルフでは1ラウンドの後、さらにもうハーフ回った。
「ワンハーフきつくなかったですか」
と聞くと、
「アメリカの大統領からもうハーフやろうって言われたら断れないよ。別にそこまでゴルフが好きじゃない。日本のために必死でやったんだよ」
と笑いながら答えてくれた。
男のこういう付き合いというのは友情が育つものである。
 
安倍さんがトランプとゴルフをしていたのはちょうど日本時間の日曜朝で、「新報道2001」の本番中だった。
安倍さんについて回っていた外務官僚がたまたま知り合いで、
「首相のスコア教えろ」と頼んだのだが、
「僕とSPしかいないので僕がしゃべったってバレるからだめ」
と断られてしまった。
それはそうだ。

僕と外務官僚のやりとりを横で聞いていたのか、安倍さんは直後に番記者に電話をくれて、
「さっきバーディー取ったよ」
と教えてくれ、無事放送することができたのだった。

安倍さんに
「トランプってどういう人ですか」
と聞くと、
「仕事の話をした後に仕事とは関係のない話をできる人っているじゃない。トランプさんはそういう人だね」
という。
 
横にいた側近が
「仕事の話しかできないのはオバマだよな」
とつぶやき、安倍さんは
「そんなことないよ」
と言ったが、目が笑っていた。

安倍さんをシラケさせたオバマ前大統領

オバマ前大統領は安倍さんが就任後すぐに訪米を提案したら「忙しい」と断ってきた。
しばらく間を置いてもう一度聞くと「45分だけ会う」という。
ランチはなし。
温厚で冷静な菅義偉官房長官が「いくら何でもひどい。もう行くのはやめよう」と珍しくキレたのに対し、安倍さんは「まあオバマさんも忙しいから」となだめた。
 
交渉の末に会談時間は1時間に延び、ランチもセットされたが、会談の映像を見ると両者の表情は硬かった。
その後オバマが訪日した時に「寿司が好きだ」と言うので、日本一の寿司屋『すきやばし次郎』に連れてったのだが、オバマは席に座るなり、いきなりバインダーをカウンターにバン!と置き、「TPPの車の関税は...」などと仕事の話を始め、人間関係を築こうとしていた安倍さんをシラケさせた。 
 

2014年4月 すきやばし次郎にて安倍首相とオバマ前大統領の非公式夕食会(写真:内閣広報室提供)
2014年4月 すきやばし次郎にて安倍首相とオバマ前大統領の非公式夕食会(写真:内閣広報室提供)

それに比べるとトランプとの食事は楽しい。
2人は酒を飲まないのでダイエットコークを飲みながら盛り上がる。
トランプはサービス精神が旺盛な人で、同じテーブルで萩生田官房副長官(当時)が前菜を残しているのを見ると、
「ハギウダさん、フロリダにはストーンクラブというおいしいカニがあるから食べないか」
と声をかけ、自らボーイさんに頼んで持ってこさせたり、昭恵夫人に
「キーライムパイというおいしいデザートがあるよ」
と持ってこさせたり、ほとんどおせっかいなオヤジである。

その後同じフロリダの別荘に来た習近平は強気の外交をした。
トランプにとってはタフな会談だったらしい。
習がフロリダを発ったらトランプはすぐに安倍さんに電話してきて、
「習が今帰った。シンゾー、君がいなくて寂しいよ」と言った。
ほとんど恋人かストーカー、そんな感じである。
しかもトランプの片思いである。
 
外交、経済、すべてにかなり頓珍漢なトランプに、毎回一から説明しなければならず、さすがに安倍さんがうんざりして外務省に、
「トランプにちゃんと事前にレクするように米国側に言ってくれ」
と文句を言ったことがあった。
外務省はその通りホワイトハウスに伝えたが答えは
「悪いがトランプは俺らの言うことは聞かない。だからシンゾーさんよろしくお願いします」
ということだったという。

これらの事実をどう評価するか。
米国大統領は何を言い出すかわからない。
外交、安保、経済、本当に心配なことが山ほどある。
しかしこの2人の友情(愛情?)があれば、何かトラブルがあってもフォローのしようがあるのではないか。
あんな奴だからこそ友達になっといてよかった、ということではないか。

2013年6月 ロック・アーン・サミット
2013年6月 ロック・アーン・サミット

さてもう1人の不良、プーチンの魅力について安倍さんに聞いた事がある。
ある年のG8(ロシアが追放される前)で、シリアの生物兵器使用疑惑が出たときだった。
首脳会合で、オバマやドイツのメルケルがロシアの介入を批判したが、プーチンは馬耳東風。
カナダの首相が生物兵器使用に言及するとプーチンはひと睨みして、
「イラクの時も君達は同じ事言ったけど、見つからなかったよな」と言った。
場はシーンとした。
 
さらにプーチンは「戦争は勝たなきゃだめだ」と続け、反論する者はいなかった。
この時安倍さんはどうしていたのか聞くと、
「うん、僕はね、翌日にプーチンとのサシの会談が入ってたから、ずっと黙って聞いてたの。」
と涼しい顔をしている。
この人、したたかだなと思った。

プーチン大統領への片想い?

2013年 日露首脳会談
2013年 日露首脳会談

実はこのG8の直前にオバマはシリアの生物兵器使用に対し、空爆をいったん宣言し、日本にも支持表明を依頼した。
この時プーチンは安倍さんに
「シリア政府でなく反政府側が生物兵器を使ったという証拠があるから、米国への支持表明はしない方がいい」と助言した。
この助言を受け日本政府は沈黙した。
結局オバマは議会に攻撃の是非を丸投げし、最終的に攻撃しなかった。
 
プーチンのことを語る安倍さんの眼はキラキラと輝いており、こちらは安倍さんの片思いに見えた。
少なくともオバマよりプーチンの方が好きなのは明らかだった。
他にもフィリピンのドゥテルテやトルコのエルドアンら不良タイプのリーダーのことを話すときは嬉しそうで、メルケルら知性派の時はやや距離を置いていた。

中国との微妙な関係

習近平については安倍さんが語ったのを聞いたことはない。
たぶんそこまでの人間関係がまだ構築できてないのだろう。
ただ側近によるとこの1年で劇的に習の愛想がよくなったという。
 
安倍さんは第2次政権1年目に靖国参拝した。
側近の今井尚哉秘書官が、参拝するなら辞めると言った、という話を聞いたので僕は安倍さんは参拝しない、と番組で予想し外れた。
安倍さんは参拝したが今井さんは辞めなかった。
 
安倍さんは参拝後、もう行かないから辞めるな、と今井さんに約束したのではないか。
その後靖国参拝はせず、日中関係は安定してきた。
参拝し続け、日中関係をボロボロにしてしまった小泉さんとの違いは大きい。
 
今井さんという人はいつも仏頂面で安倍さんの横に控えている。
記者から見ると怖い存在だ。
しかし2人の信頼関係は相当深い、と思う。
中国に関しては今井さんのグリップが良く効いているのではないか。

「韓国へは戦略的無視で臨む」

2012年8月 竹島に上陸し、警備隊と握手する韓国の李明博大統領(当時)
2012年8月 竹島に上陸し、警備隊と握手する韓国の李明博大統領(当時)

さて外交で一番の問題が韓国だろう。
第2次安倍政権ができた時は李明博政権だったが、すでに兄が逮捕されてレームダックになっており、そのせいか竹島上陸や天皇侮辱発言など反日に転じていた。
 
後任の朴槿恵は最初のうちはけんか腰で、安倍さんと会ってもそっぽを向いたりしていたが、米国から注意されたのか、態度を軟化させた。
 
そして日韓両政府は慰安婦合意を結んだ。
安倍政権らしくないなと思い、官邸に出向している外務省高官に聞くと、
「あれは外務省がやったことで、官邸は何もやってない。僕は反対だが、韓国がずいぶん折れたからまあいいんじゃないか」
と微妙な評価をしていた。
 
最後に言った、
「まあこれで朴槿恵が大統領でいるうちは韓国は慰安婦では何も言ってこない、という意味ではよかったよ」
という言葉が妙に引っかかった。

この後朴槿恵は逮捕され、大統領でなくなって、韓国はすぐに慰安婦でいろいろ言ってくることになる。
外務官僚の言葉を思い出し、なるほど、こういうことかと思った。
 
ただ慰安婦合意が優れているのは米国に裏書きさせているというところである。
これはさすが外務省だと思った。
これまでは例えばオバマ政権のライス国家安全保障担当補佐官が、慰安婦合意に関しては韓国寄りの発言をしたりしていたが、この合意以降、米政府や議会からその手の発言が出なくなったことは大きい。

後の展開はご存じのとおりである。
ある時新聞を読んでいたら「韓国には戦略的無視で臨む」という政府高官の言葉が引用されていた。戦略的放置と言う人もいた。
オバマが金正恩に対して使った「戦略的忍耐」のパロディーであろうか。
無視や放置に戦略も戦術もないと思うが、つまりまともに相手にしないということである。
 
慰安婦の後も徴用工やレーダー照射など日韓関係のトラブルは絶えない。
というか韓国から執拗にちょっかいを出してくる。
これに対し安倍さんはどうやら相手にしないことを決めた。
国際会議で会ったら挨拶はするが長い会話はしない。もちろん会談もしない。
別にそれで困ることもないのでそれでいいのではないか。

安倍政権というのは支持率が高いにもかかわらず「絶対に嫌いだ」という人も多く、好き嫌いが分かれる政権だ。
ただ安倍さんを嫌いな人でも、国際外交における安倍さんの存在感は否定できないだろう。
 
安倍さんの任期は2021年秋までだが、その後も例えば岸田さんを首相にして安倍さんは外相をやったらどうか、とコラムに書いたことがあるのだが、安倍さんは「僕が岸田さんの下でやるの?」と不満だったと聞いた。だったら年上の菅さんの下だったらいいのか。安倍さんの返事を聞いてみたい。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。