不法移民の「聖域」
この記事の画像(6枚) 米国には「聖域都市(Sanctuary City)」と呼ばれる自治体がある。
不法移民に対して寛容な政策をとっている「聖域」という意味での呼び名だが、むしろ不法移民の「保護区」のような存在だ。不法移民というだけで逮捕したり強制送還されることはなく、官憲が在留資格の有無を調査することも禁止している。その一方で「不法移民の基本的人権も守られるべきだ」と、米国民同様に医療保険や児童福祉、食料費補助(フードスタンプ)の交付も行われる。自治体によっては運転免許の交付までもが認められている。
米国が「移民の国」であるという歴史的背景と、人道主義から進歩的な自治体が名乗りを上げてサンフランシスコやニューヨークなど500の自治体が「聖域」を標榜している。
不法移民たちを「聖域都市」へ
そこで移民問題に悩んでいたトランプ大統領が、不法移民たちを「聖域都市」に送り込むと言い出した。
「民主党が大変危険な移民法の改正に同意しないので、不法移民を聖域都市に住まわせることを強く検討している」
トランプ大統領は13日(現地時間)こうツィートすると共に、続けてこうもつぶやいた。
「左翼過激派は開かれた国境と移民たちを手を広げて迎える政策を良しとしているのだから、これでとてもハッピーになるに違いない」
ある種の政治的嫌がらせでもあるわけだが、トランプ大統領のことなので本当に不法移民が送り込まれるかもしれないと聖域都市の方に衝撃がはしった。
「これは現実の政策ではない。脅しの作戦だ」(サンフランシスコ市長)
「トランプ大統領は人間を人質のように使う。大統領の空虚な脅しで聖域を変えるわけにはゆかない」(ニューヨーク市長)
「これはゲームではない。行政府の聖域都市に対する仕返しを強く弾劾する」(ポートランド市長)
心穏やかでない住民
聖域都市の市長たちは一応反駁したが、そこに住む住民は心穏やかでないものがあるようだ。
「移民たちの逆境との闘いを応援することは理解していますが、私の町(ロサンゼルス)は今でも問題を解決できずにいます。5万人余りの米国市民がホームレス生活を強いられ、貧困水準以下の生活で空腹に耐えているのです。カリフォルニア州がこういう人たち(その多くは復員軍人なのです)を救済できずにいるのに、もっと多くの人を助けるなんてできるでしょうか」
女優のシェールさんは民主党支持でトランプ大統領には批判的なことで知られていたが、15日にこうツィートした。
これに対してトランプ大統領はすぐに「やっとシェールに賛成することができた」とつぶやき返した。
移民問題に限らず、建前があまりにも本音と乖離すると、「おざなり」とのそしりを免れないことになるようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【関連記事:「木村太郎のNon Fake News」すべての記事を読む】