新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、クラスターが発生した学校や生徒がバッシングされる事態が相次ぎ、教育現場は感染対策のみならず風評対策にも頭を悩ませている。

さらに、科学的知見にもとづかない“行き過ぎた”感染対策が、子どもたちの学校生活に暗い影を落としている。感染対策と風評被害に立ちすくむ学校の現状を取材した。

休み時間に遊ばず授業で発言しない子ども

休み時間の外遊びも制限されている子どもたち
休み時間の外遊びも制限されている子どもたち
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「子どもが笑わなくなった」

ある小学校教員の全国ネットワークで教員が語ったのは、最近感じた子どもの変化である。

この学校では飛沫感染防止のために、給食中の会話だけでなく、休み時間の外遊びを制限して、静かに読書させている。

このため子どもたちの中には、「休み時間に遊ばなくなった。以前は走って外に出たけど、一緒に遊ぼうといわなくなった」子どももいるという。

授業中でも飛沫対策として、教員が一方通行で教え子どもの発言を極力抑えることもある。

都内の小学校校長は、「どの教室をみてもシーンとしていることが多いのですが、他の学校でも同じだと聞いて危機感を覚えています」と語る。

いま大事なのは子ども同士の人間関係づくり

この教員ネットワークでアンケート調査を行ったところ、「いま学校で優先されていること」のトップは感染予防で、次に教科の学習、そして子どもたちの不安解消だった。

一方「いま教師として大事にしたいことは」の回答は、「子どもたち同士の人間関係の形成」がトップだった。「子どもたちは授業中、大人しくなって発言が減っています。これは、間違えることが怖いからです。子ども同士で間違いを受け入れる関係がつくれていないのです」(小学校校長)

子どもたちは「ゴールデンタイム」と呼ばれる4月、5月を自宅に隔離されて過ごし、新しい友達と関係づくりをする大切な時間を失った。さらにいま学校では、学芸会や運動会などの学校行事が次々と中止や延期となり、連帯感や達成感を味わえる時間も奪われている。

連帯感や達成感を体感する大切な機会となる学校行事も中止や延期に
連帯感や達成感を体感する大切な機会となる学校行事も中止や延期に

教育現場では、感染対策と両立させながら学校行事を実施するために、知恵を絞ることが求められている。

子どもたちは、いまマスク着用で学校生活を送っている。しかし感染予防として必需であるマスクが、子どものコミュニケーション力を奪っている現状もある。

ある教員は子どもを見ていて、「マスクをしていて表情が読めないからか、なかなか友達と分かり合えない」と語る。さらに他の教員からは、「名前と顔を覚えない子が多い」と懸念する声もある。

子どもの学校内感染は5%、家庭内が6割

文部科学省によると、6月から7月末までに感染が確認された児童・生徒242人のうち、「家庭内感染」が137人で全体の57%を占め、小学生の感染者のうちの「家庭内感染」は70%だった。一方で、「学校内感染」は11人で全体の5%にとどまり、「感染経路不明」は24%だった。

さらに感染した児童・生徒のうち、症状があったのは50%で重症者はいなかった。

文科省では、コロナは未だ不明な点が多いとしながらも、「10 歳未満及び 10 代では、罹患率が他の年代と比べ低くなっており、発症割合、重症割合ともに小さい。15 歳未満の罹患率が最も高いインフルエンザとは大きく異なる状況」だと考えている。

学校や家庭では、こうした知見をもとに過剰に対応せず正しく怖がる。同時に子どもの健やかな学びを、最大限に保障することが必要だ。

移動教室のバスに学校名を表示できない

「子どもたちを連れて移動教室に行くのですが、バスに学校名を表示するかどうか決まっていません」

こう語るのは都内にある公立小学校の校長だ。移動教室では県外にバスで移動するのだが、現地で子どもたちが「東京から来るな」と心無い言葉をかけられ、傷つかないか心配しているという。

今月ラグビー部の寮でクラスターが発生した奈良県の天理大学では、ラグビー部以外の学生が教育実習先から受け入れを拒否されるなど差別を受けた。これに対して大学側と天理市の市長が、「大学全体に対し排除の行動を取ることは不当な扱い。社会の分断を招きかねない差別につながる」と異例の会見を行った。

クラスターが発生した天理大学ラグビー部の寮
クラスターが発生した天理大学ラグビー部の寮

また、サッカー部を中心にクラスターが発生した島根県の立正大淞南高校では、生徒の写真が無断でネット上に掲載され、生徒や学校への誹謗中傷コメントがついていたという。

感染者へ差別や偏見、誹謗中傷を許さない

こうした事態を受けて文科省では、萩生田文科相による異例のメッセージを公表した。

特に保護者や地域に対して、「感染者に対する差別や偏見、誹謗中傷等を許さない」として、「誰もが感染する可能性があるのですから、感染した児童生徒等や教職員、学校の対応を責めるのではなく、衛生管理を徹底し、更なる感染を防ぐことが大切」だとしている。

社会がクラスターを起こした学校を責め、誹謗中傷すれば、教育現場は疲弊し萎縮する。

「人々の優しさはウイルスとの闘いの強い武器になる」(萩生田文科相)

萩生田文部科学相
萩生田文部科学相

科学的知見にもとづかない自粛警察や同調圧力は、子どもの健全な成長と学びの場を奪うだけだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。