“やがて来る老後”をイメージできる、体験型イベントが開催されている。イベントでは75歳以上の高齢者が案内人を務め、参加者は理想の老後を模索。専門家は、このような体験が社会的対話を促進し、世代間の理解を深め、ビジネスの現場でも役に立つと評価している。

「老い」を体感・思い描く体験型施設

“人生100年時代”に向け、多くの人が不安を抱える老後の自分。6月30日まで開催されている「ダイアログ・ウィズ・タイム」は、体験や会話を通じて老後のイメージを見つめ直すイベントだ。参加者に老後のイメージを聞いてみると、「漠然と怖い」「不安なイメージ」といった声が聞かれた。

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案内人・ふきさん(87):
初めまして、ふきと申します。今日一日、よろしくお願いします。

イベントの案内人は全員75歳以上の高齢者だ。黄色に染まった部屋にも理由がある。

案内人・ふきさん:
白内障なんかを患うと、そういう目になる人が多いです。それをイメージしてこういう色にしています。

手足に重り、視野が狭くなるゴーグル、聞こえづらいイヤーマフを着用し、階段の上り下りを体験してみると…。

階段の上り下りを体験する上中キャスター
階段の上り下りを体験する上中キャスター

上中勇樹キャスター:
足元がかなり見にくい。一歩一歩がちょっと怖いですね。

高齢者の世界を身をもって体感した後は、自分自身の老後を思い描く時間。参加者は写真の山の中から、年齢を重ねた時になりたい姿を選んでいく。

参加者:
ずっと色んな人とニコニコお話ししていたい。

参加者:
自然の一部として、一緒になっちゃう感じ。

理想の老後について話す上中キャスター
理想の老後について話す上中キャスター

上中勇樹キャスター:
自然の中でゆっくりと読書や趣味であったりとか…。

一人一人異なる理想の老後について、お互いの意見を聞くことで、より老後に対するイメージが膨らむという。

案内人と食事をしながら語り合う様子
案内人と食事をしながら語り合う様子

他にも、案内人と体を動かす部屋や、食事をしながら語り合う部屋などがある。1時間半に及ぶ「老い」の再定義を目的とした体験型施設について参加者は――。

参加者(30代):
今回、アテンドしてくれた人も高齢な方ですが、今までたくさん経験しながら挑戦をしてきたと思うので、これから年を取っていく中の1つの目標になった。

参加者(20代):
今回の経験を通して、“老い”って楽しいし、わくわくするものだなと思って。年を取るというネガティブなイメージがなくなった。

ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」事務局・佐川久美子シニアマネージャー:
核家族化が進むと、身近でおじいちゃんやおばあちゃんの話も聞いたことがないとか、遠くに行かないと聞けないことが多いと思うので、ここに来て高齢者の話を聞くことによって、年を取ることが怖くなくなるとか、尊敬できる人なんだとか、若い世代にもわかって欲しいと思う。

世代超えてこそ良い仕事ができる

「Live News α」では、エコノミストの崔真淑(さい・ますみ)さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
今回の取り組み、どうご覧になりますか。

エコノミスト・崔真淑さん:
私もぜひ体験してみたいと感じました。というのも、高齢化とともに若年層と中高年層の対立が起きやすくなっています。しかし、重要なのは対立ではなくて、政策関係者に対してどのような社会にしたいかを提案するための建設的な議論です。こうした経験ができることで、建設的な議論も進むのではないかと感じたのです。実は、こうした体験やそこで得られる気づきなどは、ビジネスの現場においても役に立つのではないかと感じました。

堤キャスター:
それは、どういうことでしょうか。

エコノミスト・崔真淑さん:
働く人も経営者も、事業を進める上で、世代を超えて互いに支えあってこそ、いい仕事ができることに気づく契機になるのではと思いました。

例えば、少子高齢化によって日本の成長や生産性はどうなるのか、従業員の高齢化による企業への影響が検証されていて、経済産業研究所から発表されています。従業員の平均年齢の上昇は40歳頃までは生産性にプラスですが、45歳を超える頃からマイナスの影響が出始めると報告されています。

この傾向はサービス産業よりも製造業でより強くなるといいます。ではどうしたらいいかと言えば、生産性を補うだけのイノベーションを産みだすことが重要だと研究では指摘されています。

安定雇用で技術・知識をつなぐ

堤キャスター:
具体的には、どうしたらいいのでしょうか。

エコノミスト・崔真淑さん:
実は、意外かもしれませんが、従業員の平均年齢の上昇は、特許取得における量や質においてプラスの傾向が確認されています。ただし、こうした作用は企業が従業員の特性を把握し、安定的な雇用形態があってこそです。

今、非正規雇用で働く若い世代が多いですが、これは労働市場の柔軟化や企業の雇用調整の円滑化を図るためとされています。しかし、技術やノウハウの蓄積・継承にはマイナスになるため、非正規雇用の比率が過度に上昇すると、生産性の伸びを損なう可能性もうかがわれます。

年齢を重ねた世代から、若い世代へとあるものを繋いでいくためにも、こうした経験の充実と雇用の安定も同時に図っていけるといいと思います。

堤キャスター:
歳は誰もが平等に重ねるものです。人の数だけ人生があり、経験の数だけ人は輝きを増すと私は思っています。こうした機会をきっかけに、自分を見つめたり、年齢を重ねることへのイメージが変わっていくのかもしれません。
(「Live News α」5月6日放送分より)

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