食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

植野さんが訪れたのは千葉県の房総半島。

勝浦市では勝浦漁港で水揚げされた新鮮な魚介料理と郷土料理の「あじさんが焼き」、そして関東有数のたけのこスポットである大多喜町ではたけのこ掘りに挑戦した。

アクセス良く海の幸・山の幸が豊富な房総半島

東京から特急で約1時間半、車でも、東京湾アクアラインで1時間40分ほど千葉県、房総半島の「勝浦市」。

房総半島といえば、漁港で水揚げされるかつおや、金目鯛、イセエビなどの海の幸に豊かな大地と温暖な気候が育む野菜に山菜、今が旬のたけのこなど山の幸も豊富だ。 

日本三大朝市の一つ、勝浦朝市

まず訪れたのは、勝浦駅から徒歩10分の「勝浦朝市」。

日本三大朝市のひとつ、勝浦朝市が始まったのは、約430年前の1591年(天正19年)。

当時の勝浦城主が、漁業や農業などの振興を図るために開設したのが始まりだという。

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朝どれの魚介や干物、農作物など、1年を通して旬の食材が並ぶ、勝浦市民の台所だ。             

勝浦漁港は、全国有数のかつおの水揚げ量を誇り、釣ったその日に水揚げされるカツオは「日戻りカツオ」と呼ばれ新鮮でもちもちとした食感、爽やかなうまみが特徴。

植野さんは、早速かつおの佃煮を購入して実食。さらに、手作りの野ぶきの煮物にも手が伸びていた。

新鮮な魚介類が食べられる 「やまご食堂」

勝浦朝市から徒歩2分の「山五鮮魚店」。

勝浦の漁港で水揚げされた魚介類がその日のうちに店頭に並ぶ。

そこに併設するのが「やまご食堂」。鮮魚店の一部を食堂に改装した店だ。

店内から隣の鮮魚店の様子もうかがえる。

鮮度抜群の魚介をふんだんに使った料理を味わいに、地元の人から朝市帰りの観光客まで多くの人が訪れる。

まず植野さんが食べたのは、一番人気のアジフライ。

注文を受けてから3枚におろして、たっぷりの衣で、表面をカリカリに揚げる。

続いては、金目煮付け。

とれたての金目鯛を、醤油、生姜、砂糖で約10分、味が染み込み過ぎないように煮付けていく。

鮮魚店を継ぐも食べているお客さんの笑顔が見たくなる

店主・水野秀史さんの父・孝さんが約50年前に開いた山五鮮魚店が「やまご食堂」の原点。

勝浦で生まれ育った秀史さんは子供の頃から魚をさばき、店をお手伝い。

いつか店を継ぐものだと思っていたようだが、「店を継ぐ前に、ちょっと東京で遊びたい」と秀史さんは20歳で上京。

魚料理を出す店で働きながら、東京生活を満喫していた。

店主・水野秀史さん
店主・水野秀史さん

ところが「父親が体調崩して人手が足りなくなっちゃったので帰ってきました」と秀史さん。

1992年、30歳で店を継ぎ、父・母と共に鮮魚店を営んでいた。魚を買っていくお客さんの背中を見ているうちに秀史さんの中で「食べているお客さんの、笑顔が見たい」という思いが湧き上がる。

2018年、鮮魚店の半分を食堂へとリニューアル。厨房からお客さんの顔が見える作りにした。

秀史さんは「魚を売りっ放しだったんですけど、どんな顔をしてお客さんが食べるのかが見たくなったのが発端です」ときっかけを語る。

父・孝さんは2年前に旅立ち、母・圭子さんは、今も元気に店番をしている。

そして、本日のお目当てがやまご食堂の「あじさんが焼き」だ。

漁師たちが船の上であじ、さんま、いわしなどを 生姜やみそと一緒に叩いて食べるなめろうを、山で仕事をする時、貝殻につめて持っていき、山小屋で蒸したり焼いたりして食べたとされる房総半島の郷土料理。

山の家で食べた料理ということで、「山家(さんが)焼き」になった。

一口食べた植野さんは「あじの旨味がほわっと口の中に広がって生姜とネギの香りがあじの旨味をさらに引き立てる」と絶賛。 

大多喜町の色が白い「白タケノコ」

続いて植野さんは「大多喜町」へ。大多喜町は面積の7割を森林が占める山間の町で農業の盛んな地域だ。

中でも粘土質の豊かな土壌で育った大多喜町のたけのこは「白タケノコ」といわれるほど色が白く、苦味、えぐ味、アクが少ない良質なタケノコ。

今回協力してくれたのは、大多喜町で100年以上続く農家の6代目、磯野孫栄さん。

田んぼでは「コシヒカリ」を育て、他にも「ユーリカ」という日本ではまだ珍しい品種のブルーベリーなど、様々な農産物を手掛ける農園を運営。

竹林では3月中旬から5月初旬まで新鮮なたけのこを出荷し、たけのこ掘り体験もできる。

そこで植野さんもたけのこ掘りに挑戦。

たけのこを傷つけずに掘るには、その向きを見極めるのがポイント。

たけのこの多くは湾曲しているので、反り返っている外側ではなく最後は内側にクワを入れることで、根本からキレイに切れる。

新鮮なたけのこ料理が食べられる「郷土料理たけのこ」

新鮮なたけのこを手に入れた植野さんが訪れたのは、いすみ鉄道「総元」駅から徒歩3分、「郷土料理たけのこ」。

営むのは、女将の小高みつ子さん。店では竹林を所有し、毎朝、新鮮なたけのこを収穫し、料理に使っている。

お店の看板メニュー「たけのこ御膳」も注文。梅干し入りの酢味噌でいただく、たけのこの刺身。香ばしさがたまらない、焼きたけのこ。

甘く炊いた、たけのこの田舎煮など、様々な調理法で、たけのこのおいしさを余すことなく味わえる。他にも、たけのこの酢の物。めんま。

山菜の天ぷら、小鉢と漬物、甘味がついて、ボリューム満点のたけのこ御膳だ。

やまご食堂「あじさんが焼き」のレシピを紹介する。