2026年に完成を目指し進められている首里城正殿の再建工事。遠く離れた富山県や福井県でも職人たちが尽力している。

北陸から沖縄に思いを寄せる職人たちを取材した。

大変名誉なこと 自分の力を最大限に発揮したい

日本有数の木彫刻の街として知られる富山県南砺(なんと)市。

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伝統工芸品の井波彫刻は、荒彫りから仕上げ彫りまで200本以上のノミを使い分けるなど高い技術を誇っている。

そこで50年以上、仏像などを彫り続けているのが砂田清定さん。

彫刻師 砂田清定さん:
一生に1回か2回しか使わないノミも特注で造ったりしています。そうしないと、リアルに彫れないです

以前、首里城の美福(びふく)門の修復を担当した砂田さんは、その確かな技術と経験を今回の首里城復元にも活かす。

砂田さんは「大変名誉なことなので、自分の力を最大限に発揮したいという思いでいっぱい」と意気込む。

砂田さんが任されたのは、美しい弓なりの屋根が特徴的な「唐破風(からはふ)」の妻飾り。

金の龍や瑞雲など美しく繊細な彫刻は「首里城の顔」。

彫刻師 砂田清定さん:
自分の想いだけじゃなくて、今までの首里城を支えて来られた方、何回も燃えて、そのたびに彫刻なり建築をやってこられた方々の想いに寄り添ってやっていきたいです

大正時代に撮影した写真も参考に

唐破風の妻飾りを忠実に再現するためにまず取りかかったのが下絵の製作だ。

平成の復元の下絵をベースに、新たに琉球の文化や芸術の研究者・鎌倉芳太郎が大正時代に撮影した写真も参考に描いていく。

彫刻師 砂田清定さん:
大正時代の写真が出てきたもので、それにより忠実に近づけたいというのが沖縄の考え方だと思います。絵を描くのと彫るのとをいつも一緒に考えているので、それを説明しながら一緒にやっています

下絵を描きつつどのように彫りで表現するか、イメージを膨らませる。

富山に戻るとすぐに彫りの工程にとりかかるわけではない。

彫刻全体のイメージを掴み、ひと彫りひと彫りに迷いを無くすために、下絵をもとに粘土を使って忠実な模型を作っている。

砂田さんは「繋がりがどうなっているのか見通す力もいります。途中で迷うのが一番嫌なので、迷いをなくすため」と説明する。

富山の龍は指が3本 首里城の龍は4本

砂田さんが特に力を入れているのは「龍」のデザインだ。

彫刻師 砂田清定さん:
日本の神社・仏閣の龍と違って、沖縄はちょっとスマート・細身なんだよね。だから鋭い動きをするんだろうなと。宙を舞うんだろうなといったことも想像もできますね

富山の龍は目が半開きで指が3本なのに対し、首里城の龍は目が見開き、指も4本という違いもある。

彫刻師 砂田清定さん:
(沖縄には)いろんな文化が入ってきたんじゃないかなと。文化的には大陸、シルクロード、そういうものも多分入っている龍の顔ですね

沖縄の歴史や文化を学びながら製作する砂田さんのもとを、この日、沖縄県内の大学教授などが訪れ、粘土原型の仕上がりを確認した。

琉球大学の西村貞雄名誉教授は「沖縄の特徴、琉球王朝の特徴を一生懸命活かそうとしている姿勢に感心しています」と話した。

砂田さんは「首里城再建、復活というのは沖縄県民の方々も思っておられるので、力になりたい」と視察に訪れた人たちに思いを語っていた。

専門家のアドバイスをもとに、砂田さんはこれから彫刻作業に入る。

2メートルの屋根の装飾を手掛ける職人

福井県でも唐破風の一部が製作されている。

眼鏡の生産などものづくりで有名な福井県鯖江市。

ここに小さな彫刻所を構えるのが、鈴木良一さんと美央さん夫妻だ。

キャリア35年、繊細な彫りで数々の賞を受賞する良一さんが手掛けているのは、「懸魚(げぎょ)」と呼ばれるおよそ2メートルの屋根の装飾品だ。

鈴木彫刻所 鈴木良一さん:
この状態になるまで約1カ月から1カ月半ぐらいですね、こういう丸み、こういう部分は、図案で出るものではないので、もとのニュアンスを崩さないようにやっていくよう心がけています

数種類のノミを巧みに使い分け、丁寧に仕上げてきた鈴木さん。
彫刻を通して琉球の歴史にも目を向けるきっかけになればいいと話す。

鈴木彫刻所 鈴木良一さん:
世界中の人に見てもらいたいという思いはあります。建物を見るだけじゃなくて、建物を見たことによって、みんなに琉球の歴史とか文化に興味をもってもらいたいというのがあります

沖縄の歴史や文化を象徴する首里城は、県内のみならず、遠く離れた北陸の職人たちの技術と情熱によってよみがえる。

(沖縄テレビ)

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