東京・八王子市にある片側2車線の道路のど真ん中に、“高齢者マーク”が貼られた一台の白い車が停まっていた。

後続車両が車を避けるように徐行する中、近くの郵便局で用事を済ませて現れたのは白髪の高齢男性だった。

悪びれる様子もなく、平然と車に乗り走り出す高齢者の心理状況について、明星大学心理学部の藤井靖教授に聞いた。

自分の判断こそが正論

ーーなぜこのような行動をとる?

高齢者による重大事故の一番大きな原因は「安全の不確認」です。

道路のど真ん中に車を停めて、後続車に対して危険かどうかを考えず、車にもどる時も走行中の車を確認していません。

明星大学・藤井靖教授
明星大学・藤井靖教授
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そして車に乗る時も、対向車線から車が来ているかを確認するべきですが、それもせずにゆっくりと乗り込んで発進しています。

私はこれを、「自分は正しい症候群」と呼んでいますが、自分の感覚や判断こそが正しくて、仮に他の人に迷惑をかけても自分の責任ではなくて、環境や状況など他に責任があると考えてしまう心理のことをいいます。

郵便局から戻ってきた高齢者ドライバー
郵便局から戻ってきた高齢者ドライバー

今回のように、郵便局に行こうとして道路の真ん中に停車しても、「近くに駐車場がないから悪い」とか、自分にとって車を寄せにくい場所だから「道路に問題がある」など、環境や他人のせいにする思考です。

道路のど真ん中に停められた車
道路のど真ん中に停められた車

ーー「自分に責任はない」という考え?

車の運転は法律や道路標識などでルールが決まっています。

一方で、マナーや暗黙の了解などで道路交通状況は成り立っています。

そのため、「自分は正しい」という考えが強い人が、自分の感覚で判断して運転すると、他の人からは「何であんなことするの?」という行動が生まれてしまいます。

左側の感覚に苦手意識の可能性

しかしなぜ、全く左側に寄せず、道路のど真ん中に停車していたのか。

藤井教授は映像から、左側に寄せることに対する苦手意識があるのではないかと推測する。

車の左前にはコーナーポールが
車の左前にはコーナーポールが

ーーこうした行動をとる人の特徴は?

基本的には認知機能や運動能力に課題がある人だと思います。

車の後ろのバンパーが凹んでいるので自分でバックした際にぶつけた可能性があります。

また、車の左前方にコーナーポールが立っています。これは運転に自信が無かったり、左側の感覚に課題があると思っている人がつけるポールで、左側の車幅の感覚が取りやすくなります。

よって、もともと寄せることに対して苦手意識があったり、過去にぶつけたり、事故を起こした履歴がある可能性があります。

周りを気にせず車に乗り込むドライバー
周りを気にせず車に乗り込むドライバー

ーー「自分は正しい症候群」は老若男女問わずある?

どちらかというと年齢が高い人に多くみられます。

しかし年齢を問わず、運転マナーをそれぞれの価値観にもとづいて判断しようとすると「自分こそが正しい」と考える人が一定数いるのは事実です。

自分の考えていること、判断したことが正論であって、それ以外のことは全て間違っていると考える在り方です。