160人が通う認定こども園に突然訪れた“最後の日”。 それは“ほとんどの保育士が退職する日”だった。

【動画】パワハラ保育園「コマが足りへんねん」保育士を「コマ」呼ばわり 絶対的権力者「80代の会長」が君臨

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保護者:本当にさみしい。「あいあい」がいいって言ってるんですけど、しょうがないですね。

保護者:あと1年だったので、お友達と先生とばいばい。すごくさびしがってました。

多くの園児もこの日を最後に退園。 理由は運営法人の会長による“パワハラ”だった。

保育士:ずっと前向きに、しんどくても、頑張ろうってやってきたけど、限界を超えてしまった。

取材を続けると、保育士からパワハラだけではない、新たな証言や、保護者の苦悩が浮き彫りになった。

■こども園からの突然の知らせ「受け入れの停止と大幅制限」

娘(2歳)を通わせるAさん:ほんまに大丈夫かなっていうのが一番。子供に何か危険なことがあったりとか、ちゃんと手が回るんかなとか。そこが一番不安で毎日考えていますね。

この1カ月、2歳の娘が通う保育園の混乱に振り回された挙げ句、不安を拭えず、不信感が募っている。

堺市西区の認定こども園「あいあい浜寺中央こども園」から、3月半ば、突然、「新年度から新規受け入れを停止し、在園児の受け入れも大幅に制限する事態」となったことが伝えられた。

理由は、保育士の大量退職で、正規職員の保育士12人中10人が年度末で退職し、受け入れられる園児の数が激減。 しかも、その原因は運営する社会福祉法人の女性会長(80代)のパワハラだという。

保育士(3月13日保護者説明会の音声データ):われわれのことをコマとおっしゃるんです。『コマがない、コマがそろわないから仕方がない』『お前は黙っとけ、ぐずぐず言うな、お金を出してるのは自分や』。このような発言が続いて、心と体が壊れてしまいます。だから、みんな次の道に進もうと決めました。

新年度まで2週間というタイミングで、突然、子供の預け先が宙に浮いた形となった保護者たち。 堺市が調整に動き、転園希望を出した95人は、別の保育園に通えることになった。

-Q.転園を決めた理由は?
息子(5歳)を転園させる保護者:お友達がすごく減ってしまうんだろうなってことと、大好きだった先生がほぼ全員いなくなってしまうこと。

子供2人を通わせ、愛着がある園を突然去らなければならなくなり、戸惑いを隠せない。
息子(5歳)を転園させる保護者:0歳からずっと通っていて、当然、卒園するものだと思っていたので。

一方で、転園を希望してもかなわず、「あいあい浜寺園」に残るしかない保護者も出てきた。Aさんもその一人だ。 近くに親族もおらず、夫婦共働きで、3人の子供を育てているため、2歳の末娘を保育園に預けないわけにはいかない。

娘(2歳)を通わせるAさん:2人で働いて暮らしてきているから、主人だけの収入となると、結局しんどくなってくる。不安に思いながら、(子供を預けて)働くしかないよね。

転園希望が相次ぎ、枠が空いた「あいあい浜寺中央こども園」も、40人程度と規模を縮小したものの、受け入れ先の一つになっていた。

娘(2歳)を通わせるAさん:本当に嫌で精神的に結構、参っていて。上(運営法人)が変わらん自体で、そういうところも不安やし、新しく(保育士が)全員変わって、常勤さんも少ない中で、どこまで安心安全に保育ができるのか、不安が一番大きいですね。

■最後の登園日 退職の保育士「申し訳ない」

3月29日、転園する園児、残る園児、退職する保育士がそろう、最後の登園日。

5歳児を預けていた保護者:寂しいですね。子供もお友達と先生たちとばいばいなので、すごく寂しがってました。

4歳児を預けていた保護者:先生たちに感謝しかありません。

息子(5歳)を転園させる保護者:ゆっくりお話ししたかったけど、すごい人がたくさん、おうちの人がいて、涙ぐんでる方とか、先生もそうですけど、“お別れ”っていう感じでしたね。

夜7時を過ぎても、別れを惜しむ姿があった。そして、退職する保育士が最後の勤務を終えて出てきたのは、午後11時になってからだった。

退職した園長:堺市内の保育園の皆さんには、本当にご迷惑をかけて、一番は子供たちと保護者に、本当にご迷惑をかけたのは重々みんな感じていて、それは本当に申し訳ないなって。

-Q.辞めるしかなかったのか?
退職した園長:ずっとみんな前向きに、しんどくても、力合わせて頑張ろうってきたけど、それの限界を超えてしまった。

■「会長の意見は絶対」行事がなくなったことも

さらに取材を進めると、複数の退職した保育士が匿名を条件に証言し、「限界だった」と語るこども園の状況が見えてきた。

退職保育士:コマ発言はしょっちゅうでした。むなしい気持ちになっていました。

退職保育士:行事の内容を、直前に変更されることが多々あった。その理由が、『男性の曲を使っているからダメ』など、子供のことを考えた理由とは思えなかったが、会長の意見は絶対。行事そのものが、なくなったことも。

運営法人の会長の横暴への憤り。

■深刻な人手不足で「このままでは事故が起きてしまう」

しかしそれよりも保育士を追い詰めたのは、深刻な人手不足だ。

退職保育士:朝や夕方には極端に人手不足で、大人数を1人で見ることに。泣いている子供をあやしに行くことも、トイレに自由に行かせることもできない。『保育士失格やな』と思いながら、仕事をしていました。

数年前から会長にその窮状を訴え続けていたが…

退職保育士:『コマが足りへんねんから仕方ないやろう』と、子供に事故が起きてから、人員補充を考えるようなことを言われた。事故がないように必死に保育しているのに。

退職保育士:毎日の仕事が不安で眠れなかったり、終業後に泣き出してしまったりする保育士も。

退職保育士:このままでは事故が起きてしまうのではと怖く、退職を選んでしまった。

さらに、保育士によると、2023年末ごろから退職希望者が出始めたものの、園側から慰留はされなかったとのこと。新たな採用もされず、新年度直前という最悪のタイミングで、園児が受け入れられないという事態に陥った。

■「事前に察知することは…なかなか難しい」

あくまで認可基準は満たしていたものの、時間帯による偏りや、現場から安全への懸念が上がっていることについて、「あいあい浜寺中央こども園」を認可する堺市は…

堺市子育て支援部 濱脇充部長:(職員から)何か市の方に相談をいただけておれば、事前に察知することが、できたのかなと思うんですが、そのあたりがなかった中で、把握するすべが、なかなか難しいかなと。本当に保護者の皆さんにご心配、ご迷惑をおかけしたなということで、もう二度とこういうことが起こらないように、われわれとしても、できることをやっていかないといけないと思っています。

残った正規職員がたった2人という、危うい体制で新年度のスタートを切った、「あいあい浜寺中央こども園」。

2歳の娘を預けるAさんは…
娘(2歳)を通わせるAさん:やっぱり保護者は分からないんで、(園の中は)見えないことなんで、そこが多分一番不安ですよね。今まで笑っていた先生が、そんなことあったんやっていうのがあるから。すごくいい先生たちで、いい園やなって思ってて、こういうことになってるから。ちょっと人間不信になるっていうか、不信感。

不安でも子供を預けるしかない保護者たち。もう一度、安心できる場所だと、信じられる日は来るのだろうか。

(関西テレビ「newsランナー」2024年4月11日放送)

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