667gで生まれた男の子が2年半の入院を経て、生まれて初めて自宅がある長崎・五島市に渡った。長期入院を支えたのは「ペンギンハウス」と呼ばれる寄付とボランティアで運営されている施設だった。

生まれて初めて外の世界へ

2024年3月19日、長崎大学病院の小児科病棟から1人の男の子が「退院」した。お父さんとお母さん、それに病院のスタッフに付き添われ家族が暮らす五島市へ向かったのは朝陽(あさひ)くん(2)だ。生まれてからずっと病院で過ごした朝陽くんにとっては初めて見る「外の世界」だ。

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朝陽くんの父親:うれしそうな顔見られて安心している。もうちょっと怖がるかなと思ったので船が嫌かもしれないですけど

朝陽くんの母親:マイペースで動じてない。嬉しいが不安がいっぱい

感動…そして絶望感も

朝陽くんが生まれたのは2021年の7月21日。一般的な出産時期は妊娠から40週前後だが、妊娠27週で生まれた「超早産児」だった。

朝陽くんの母親:五島の病院で早産の可能性があると言われ長崎大学病院に1カ月ぐらい入院して、そこから緊急の帝王切開で産んだ

画像:朝陽くんの両親提供
画像:朝陽くんの両親提供

朝陽くんの父親:ぱっと見て女性のスタッフが見せてくれたのは手の大きさぐらい。なんて言うか…よく言えばすごいなと。そんな小さい体で生まれてくるんだということと、絶望感は正直あった

身長は30センチ、体重は667gと小さく生まれたわが子に両親が贈った名前は「朝陽」だった。

朝陽くんの父親:上の子も太陽の『陽』がつく。あたたかい…下の子に関しては朝陽みたいにあたたかい笑顔でっていう気持ち

家族にのしかかる様々な負担

国のまとめでは朝陽くんのように2500g未満の小さな赤ちゃん、「低出生体重児」は10人に1人とされている。朝陽くんと同じ2021年に長崎県内で生まれた子供のうちの約1割の810人が2500g未満でこのうち8人は500g未満だった。

医療の進歩により出産時の救命率が上がる一方、「小さな赤ちゃん」には病気や障害のリスクがあり健康管理も難しいと言われている。朝陽くんは生後1カ月で肺炎を起こし生死の境をさまよった。

いまは人工呼吸器をつけ、胃ろうで栄養を補給しながら懸命に生きている。そんな息子の入院生活をお父さんとお母さんが支えている。3歳上のお兄ちゃんを五島で育てながら2週間に一度、長崎市を訪れ、朝陽くんに付き添ってきた。

朝陽くんの母親:ずっとNICU(新生児集中治療室)、いまはGCU(回復治療室)にいてお日様の光浴びれないというか、外の空気を吸っていない。肺が大きく、丈夫になるのは成長するしかないと言われていて、あとは本人の生命力次第

体力面な負担や精神面の負担だけではなく酸素ボンベなどの機器を揃える費用は約60万円、治療費や交通費などは毎月10万円に迫る。

入院を支える家族のケアのため

そんな家族に手を差し出したのが長崎大学病院のすぐ近くに開設された「十八親和ペンギンハウス」だ。

十八親和銀行が長期の治療や入院を余儀なくされた子供と家族のために、空き店舗を宿泊施設として改装した。

子供が遊ぶスペースも
子供が遊ぶスペースも

2階建ての建物には5つの部屋がありキッチンや洗濯機、乾燥機を備え、休憩場所としての利用もできる。

ボランティアスタッフが運営を担っていて、料金は何人で利用しても1日千円だ。

朝陽くんの母親:すごい助かっている。交通費も高いので。上の子と来たときに遊ぶところもある

朝陽くんの父親:プライべート(個人の感情)を重視してくれて(通院中は)色々な感情があると思うのでうれしいこともあるだろうし、病院に行ったら悲しいことも聞かされて帰ってくるんでそのあたりを重視してくれるのがここの魅力やなって思う

2024年2月までにのべ121、家族670人が利用しこのうち6割が県内の離島で暮らす家族だった。

施設を運営する「長崎ペンギンの会」夛田ひとみさん:主要都市は色々なものがいっぱい、選択肢もたくさんあるが地方で島を抱えていたらそこが狭まり往復の時間、往復の運賃がかさんでいくっていうのは誰にも分からない、当事者しか分からないんだなと痛切に感じる

娘を亡くした夫婦の思いがカタチに

長期入院の子供と家族を支える十八親和ペンギンハウスには「前身」となった施設がある。

立ち上げたのは長崎市に住む野添恭士さんだ。

野添さんは次女・亜美さんが生後5カ月で急性リンパ性白血病になり長期にわたる入院を支えた。

長崎ペンギンの会 代表理事 野添恭士さん:つらい治療だったのでずっと、だんだん進行して弱っていく姿を4年間見ていて本当に代われるものなら代わりたいという気持ちでずっといました

4年にわたる闘病の末、亜美さんは亡くなった。

その4年後の2001年、野添さんは夫婦で長崎市内にある企業の社宅を借りて難病の子供とその家族を受け入れる「ペンギンハウス」の運営を始めた。その思いは今の「ペンギンハウス」につながっている。

長崎ペンギンの会 代表理事 野添恭士さん:病室はプライバシーもないところで過ごしているし精神的な面で、こういった施設があればここでゆっくりしてストレスを解消してもらうのが一番大事かなと

施設は企業や団体、個人の援助を受けて小さな命の大きな一歩を支えている。

家族4人の新たな生活がスタート

生まれてずっと病室で過ごした息子とともに、自宅に戻る両親にこれからやりたいことを聞いた。

朝陽くんの母親:家族4人で公園とか行ってみたいです

朝陽くんの父親:この子を交えてあったかい1年をとりあえず過ごしたいですね。笑えるような…それぐらいですかね

2年半の入院生活を乗り越えた朝陽くん。この春、家族4人での新たな生活が始まった。

(テレビ長崎)

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