暖かい日も増え、子どもと一緒に公園に出かける機会も増えたことだろう。その公園でユニークな形状や構造の遊具を見たことはないだろうか。もしかしたらそれは、子どもたちのことを考えた「インクルーシブ遊具」かもしれない。

インクルーシブは日本語に直訳すると「包括的」という意味で、性別、年齢、言語、障がいの有無などにかかわらず、一緒に楽しめることを重視する考え方。これを目指したのがインクルーシブ遊具だ。

インクルーシブ遊具「ツインサンドボウルテーブル」
インクルーシブ遊具「ツインサンドボウルテーブル」
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例えば「ツインサンドボウルテーブル」もそのひとつ。テーブルと砂場が合体した造りで、あえて高低差を設けたり、中央部を狭くして砂が流れるようにしている。身長や年齢に違いがあっても、近い目線・空間で楽しみやすくなっている。

大手開発元「株式会社コトブキ」(本社・東京)によると、インクルーシブ遊具は欧米発祥で、日本には2020年ごろから広がり始めたそう。コトブキだけでも、商業施設、保育園、特別支援学校など、300施設以上に提供しているという。

回転したり、乗ったりして楽しむ「オムニスピナー」
回転したり、乗ったりして楽しむ「オムニスピナー」

東京都内では「としまキッズパーク」(豊島区)などに設置されており、豊島区の担当者は、導入の狙いとして「運動能力などが異なる子どもたちの多種多様な遊び方に対応できる」と話した。

好評を得ているようだが、一般的な遊具とはどう違い、どう遊ぶのが望ましいのだろう。開発の狙いや期待を、コトブキの担当者に聞いた。

遊び場で“学ぶ機会”を平等に提供したい

――インクルーシブ遊具の考えはどんなもの?

子どもは遊びを通じて、体の動かし方やコミュニケーションを学びます。ただ、遊び場でその機会が公平に提供できているかというと、そうではありません。一定の運動能力や体格がなければ楽しめない、危険性が伴うものもあります。インクルーシブでは性別、年齢、言語、障がいなど関係なく、誰もが一緒に遊べ、楽しさを共有できることを目指します。


――インクルーシブ遊具ならではの特徴は?

遊びのバリエーションや難易度が豊富で、コミュニケーションが取りやすいところですね。黙々と体を動かして登ったり滑ったりするものだけではなく、誰かが遊具を操作すると反対側が動いたりする遊具もあります。遊具の上下で「管」を通して会話できるもの、触ると音が鳴るものなど、単純に体を使って遊ぶだけではない、多様な楽しさがあるのが特徴です。

網の上に登ったり、下から揺らして楽しむ「セレベル」
網の上に登ったり、下から揺らして楽しむ「セレベル」

――実際の遊具にはどのようなものがある?

当社では「ツインサンドボウルテーブル」のほかにも「セレベル」というものがあります。網のようなロープが、地面から生えたような構造で、ロープに登って移動する、下から揺らすなどの楽しみ方ができます。高い場所に登れる子、登るのが難しい子が同じ場所で楽しめ、お互いを応援したり、感覚を共有したりできるのが特徴です。

仮設の遊び場を作り利用者の意見も参考

――開発はどのように進めている?

プロトタイプを作成後、場所を借りて仮設の遊び場を一定期間作り、利用者に安全性や問題点を聞いて、改善点を反映します。重視しているのは、設計者の憶測で物づくりをしないことですね。例えば、車いすが高い場所に登れるよう、遊具に「スロープ」をつけたとすると、子どもがすべり台などで降りて車だけが残る、通路で渋滞が起きることも考えられます。こうしたところは、実際に話を聞いてみないと把握しづらいものです。

遊びや楽しさを共有する機会が生まれやすいという
遊びや楽しさを共有する機会が生まれやすいという

――インクルーシブ遊具のメリットは?

遊びや楽しさを共有する機会が生まれやすく、子どもが「いろいろな個性がある」と感じるきっかけになることですね、個性を認め合う社会を作ることにつながると思いますし、遊びを見守る大人たちも、気づかされることがあるのではないでしょうか。


――遊具関連で解決したい、課題はある?

遊具は高い場所にデッキがあることが多いですが、そこまで登れる子、登るのが難しい子がいるため「高さの違い」で隔絶が起きることがあります。一方で、遊びの難易度を下げるだけだと遊具としての楽しさが少なくなることもあるので、難しい部分です。

遊具を置けばいいわけではない

――私たちが公園などで配慮できることは?

自治体と一緒にアンケートを取ったことがありますが、子どもがその保護者が公園に行きたくない理由は「心理的不安の大きさ」が目立ちました。周りの子に迷惑をかけるのでは、周りの子から嫌な思いをするのでは、といったものです。保護者からは子どもが安全に使えるトイレ、休める場所が近くにほしいという意見もありました。遊具を置けばいいわけではなく、その場所をインクルーシブに使える空間にすることが求められると思います。


――子どもたち、親たちに伝えたいことはある?

現状は「インクルーシブ遊具」という言葉が先行していると思います。もちろん、遊具は使いやすいように工夫をしていますが、大事なのは使う人の気持ち、周囲の理解です。設置で解決するわけではなく、そこからがスタートだと思います。楽しみ方を考えることが「遊び」だと思うので、子どもたちには(安全性を守った上で)自由に遊びを見つけてほしいですね。保護者には、お子さんを遊び場にたくさん連れてきてほしいですね。



インクルーシブ遊具の設置はあくまできっかけ。誰もが楽しめる遊び場であるには、大人も含めた訪れる人たち、一人一人の意識が大切になりそうだ。
(提供:株式会社コトブキ)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。