小林製薬の「紅麹」を原料に使ったサプリメントを服用した人が、腎臓への健康被害などを訴え、これまでに4人が死亡、106人の入院が確認されている。(2024年3月28日時点)

問題となっている、機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」には、コレステロールを下げるために使う薬の成分と同じ成分が含まれ、血圧低下など生活習慣病にも良いと言われて使っている人も多いという。

通販や店舗で簡単に手に入るサプリメントの注意点について、いとう王子神谷内科クリニックの伊藤博道院長に聞いた。

サプリ、薬にはメリットとデメリット

ーー病院に問い合わせは増えている? 

26日の午後から、紅麹が成分として入っているサプリメントを摂取していた人たちからの問い合わせが散見されるようになりました。

幸い入院するような重症患者はいませんが、過去に飲んでいた方は多いなと思いました。

生活習慣病で脂質異常症の治療をしている人は、食事や運動に加えて、機能性表示食品などのサプリメントを併用している人が多いです。

いとう王子神谷内科クリニック・伊藤博道院長
いとう王子神谷内科クリニック・伊藤博道院長
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ーー病院側の対応は?

27日からは積極的に「紅麹で心配なことはないか」「飲んでいなかったか」を患者に聞くようにしています。

自ら言いにくそうな人がいる印象もあって院内には張り紙もしています。

内臓脂肪を減らすとか、コレステロール値を下げるというのはデリケートな部分があって、人によってはそういう薬を飲んでいたことを悟られたくないとか、言い出しにくい場合があります。

そのため、言いやすい雰囲気を作ったり、ニュースを見ていなくて事情を知らない人のためには張り紙をして情報を提供するよう促しています。

1~2週間はこの話題が続くと思うので、期間中は患者に声掛けをしようと思っています。

院内に張られた「紅麹」に関する張り紙
院内に張られた「紅麹」に関する張り紙

ーー今後の動向は?

しばらくは増えると思います。

いろいろな食品に波紋が広がっているので、紅麹に限らず、例えば、着色料として使われていた場合は、芋づる式に不安が増えることが予想されます。

「サプリメントはもう飲まない」という人もいますが、我々が保険診療で出している薬についても、後になって問題点がわかる場合があります。

小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」
小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」

サプリメントに限らず、通常の食品以外で口にするものは、処方薬を含めてある程度「何かが起こるかもしれない」という前提で、内服の「きっかけ」と「結果」を照らし合わせて、メリット、デメリット(副作用)を常に確認することが大事です。

今回は市販品なので、その後採血をするなど副作用を確認する機能が行き届いていません。

そこが怖い点で、少なくとも通院している患者さんにはサプリメントによる副作用はないか、過去に紅麹の摂取はないかを積極的に聞いています。

薬剤は“腎臓”に大きな負担

紅麹を内服したことで腎臓にダメージを負った患者の中には人工透析が必要な人もいるが、「腎疾患」の症状はいつ頃から現れるものなのか。

大阪市が回収命令を出した紅麹を含む製品
大阪市が回収命令を出した紅麹を含む製品

ーー「腎疾患」はどういった症状?

今回の原因物質が何なのかはまだわかっていませんが、本来の製造過程では起こり得ないことが起きている可能性が高いとのことです。

ばい菌やカビなどの不純物が入って、それらが産生する毒素が関係している可能性があるとの情報があります。

原因の究明はこれからだと思いますが、いずれにしても予想外のものが混入したことによって腎臓に負担をかけた可能性があります。

(イメージ)
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腎臓は体にとって不要な老廃物を捨てるという大きな役割を果たしていますが、そこのフィルターに不純物が引っかかってしまい毒性を発揮した時、腎臓は障害を受けてしまいます。

人間の老廃物は、多くが腎臓、一部は肝臓から尿や便に捨てられています。
その重要な排泄経路に毒性があるものがあれば、当然負担がかかります。

混入した異物が産生する毒素による直接的な障害なのかは、これからの調査でわかってくるのだと思います。

(イメージ)
(イメージ)

腎臓は老廃物を捨てる働きをしているので、どうしても薬剤によるダメージを受けやすい場所です。そのため医者は常に、どんなに体に良い薬であっても腎臓を守るための最大限の努力をしています。

例えば血圧の薬でも、どうやったら腎臓の機能を保ちながら良い治療ができるかを前提に、種類や容量を考えて日々の治療にあたっています。

腎臓は繊細なため、もし毒性の高い異物が入ってしまったのだとすると、長期に渡って服用した場合は、腎障害は十分に起こりうることだと思います。

人工透析室(イメージ)
人工透析室(イメージ)

ーー腎障害を起こしても初期では気付きにくい?

初期だと痛みもないし、熱も出ないので気付きにくいです。

ある程度腎臓の機能が悪くなってくると、老廃物が捨てられない状態になって、尿量が減ったり、体がむくむといった症状が出てきて、場合によっては人工透析が必要になります。

敏感な人は、ちょっと気持ちが悪いとか疲れやすいといった症状で早めに気付く場合があります。

しかし若い人や体力がある人は、栄養や睡眠が足りていない、仕事がきついと考えて、頑張りで乗り越えてしまい、症状に気付きにくい可能性があります。

対応が遅れれば死亡も

大手スーパーなどでは紅麹を使った商品の販売休止や自主回収の動きが加速しているが、自分が紅麹を含む食品やサプリを口にしていた場合はどうすれば良いのか。

伊藤院長は、近所の医療機関で血液検査を受けるなど、冷静な対応を促す。

「イオン」が自主回収を発表した7品
「イオン」が自主回収を発表した7品

ーー「腎不全」までの進行は早い?

腎臓の機能は「クレアチニン」という値があって、老廃物がたまる指標になっています。

この数値が「2」を超えてくると一気に症状が進むと言われています。

一時的に悪くなって回復するケースもありますが、日ごとに数値が上がる「腎不全」という状態になると、数週間の間に尿が出ない状態になってしまうので、透析が必要になります。

その判断が遅れれば、命を落とす危険性もあります。

(イメージ)
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ーーサプリを摂取していた人はどうすればいい?

まずは、飲むのをやめる。

そして、心配だったらかかりつけの医療機関に相談して血液検査などをする。

また、自分が飲んだり食べたりしているものが健康被害に関連するかどうかを知りたい時は、小林製薬に問い合わせてください。

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腎臓は大事な臓器ですが、代替する透析という方法もあるので、症状があっても皆が命を落とすわけではありません。

まずは冷静に医療機関に相談して腎臓の機能が保たれているかを確認してください。

健康診断でコレステロール値に異常が出ると、食事や運動で努力する人は多いです。

しかしそれだけではデータが改善しない場合、自分で購入できるサプリを活用する人もいます。

脂質異常症の割合は高くなっているため、気にせざるを得ない時代になっているのは事実です。