新宿・歌舞伎町の「トー横」と大阪・ミナミの「グリ下」。
多くの若者が集まる繁華街として知られるこの場所には、家庭や学校に居場所がない中高生などが全国から集まる。そして、薬のオーバードーズ(=過剰摂取)や犯罪に巻き込まれるケースが増えているという。

春休みシーズンを前に28日、「トー横」を拠点に活動する「日本駆け込み寺」と「グリ下」で活動する「ひとりぼっちにさせへんプロジェクト」の代表者などが新宿区役所で子供達への支援強化のため協定書を交わした。

「東西連携」にはワケがある

東西の支援団体が協定を結んだのには理由がある。

「グリ下」で活動する「ひとりぼっちにさせへんプロジェクト」の代表理事である田村健一弁護士(43)は「東京・大阪・北海道・福岡など各大都市には子供達が集まる、同じような『界隈』という場所があり、その『界隈』に全国から子供達が集まる。だからこそ、本当に根本的に解決するには1つの団体では解決できない」と強調。「2つの団体が連携することで、手を差し伸べるきっかけを多く作りたい。民間企業や自治体も含め、オールジャパン体制で支援の輪を広げていきたいと思う」と話した。

「ひとりぼっちにさせへんプロジェクト」代表理事・田村健一弁護士
「ひとりぼっちにさせへんプロジェクト」代表理事・田村健一弁護士
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実際に両団体ともそれぞれが200社以上の企業と提携し、就労支援やイベントなどを行っているということで、協定を結ぶことで単純計算でも400社以上の企業とのつながりができることになる。

今後はこれまでの活動と併せて、自らが陥った環境から抜け出した成功者の生の声とか、なぜそこに逃げ込んでしまったのか、どういうきっかけだったのか等、子供達の経験や抱える悩みなどをSNSなどで発信するほか、いち早く必要な支援につなげるための仕組みづくりを目指すという。

『本気の大人』を目にしてスイッチが

そして田村弁護士が子供たちの支援を行うのにもワケがある。

田村弁護士は10代から夜の街をさまよい「自分も今でいうトー横キッズだった」と話す。大学生になってからはギャンブルにはまり数百万円の借金を抱えることに。そんなある日、当時の国会議員・与謝野馨氏と新宿・四谷で偶然すれ違った時に「国の借金が何百兆円とか新聞に書いてあるけれどこんな書き方じゃ国民に伝わらない。違う書き方があるだろう」と訴え、自ら計算した1人当たり・1世帯当たりの借金額などを伝えたという。

すると、そのまま与謝野氏の事務所に連れていかれ「経済財政戦記」(著・清水真人氏)を渡され…この出会いから田村弁護士は与謝野氏の私設秘書になった。「与謝野氏や先輩秘書達という『本気の大人』を目にして自分の中でスイッチが入った」と当時の気持ちを話す田村弁護士は、「知らない大人との出会いでスイッチが入る子供を増やしていきたい」と熱く語る。

トー横キッズの楽しみは…お酒、たばこ、OD、セックス

「僕らトー横の楽しみと言えば、お酒、たばこ、OD(=オーバードーズ)、セックス、この4つだと思っているんです。これは全部未来につながらないんです」

田村弁護士らとともに子供たちの支援を行う種村豊氏は現在20歳。大人たちと子供たちとの間をつなぐ存在だ。自らもトー横キッズとして過ごした経験から、トー横に集まる子供たちに「一瞬の快楽から未来ある喜びへの転換っていうのを促したいと思っている」と強い口調で訴えた。

種村豊氏
種村豊氏

オーバードーズは“サブカル”というか…

実際にオーバードーズをする多くの子供たちに接してきた日本駆け込み寺の天野将典代表理事(46)は、「今の子の多くは、オーバードーズがサブカルというか楽しみになっていて、そういう(楽しみとしている)子供たちは抜け出そうと思うと早く抜け出すことができる。しかし、辛いとか悲しいとかでオーバードーズを始めた子は、依存しているのでなかなか抜け出せない」と話す。

「日本駆け込み寺」天野将典代表理事
「日本駆け込み寺」天野将典代表理事

かといってオーバードーズの原因を探ろうにも子供たちの心が閉じた状態では話を聞くことすらままならないという。天野氏は繰り返し繰り返し電話、対面、LINEでの相談を受けながら子供たちの心が開きかける瞬間を根気強く待つという。

天野氏のスマホにはそんな子供たちとの“やりとり”があふれている。

新宿に救いを求め、絶望、命を失う…子供たちを救うために

「何かしらの理由で新宿に救いを求めに来て、その新宿で絶望するようなことがあって、最終的に新宿で命を失っていく、それは地元の人間として絶対止めなくてはと思った」新宿区の吉住区長は、こう危機感を示した。新宿区は、警備員を雇い深夜から朝方にかけての歌舞伎町の見回り、福祉事務所による宿泊支援、日本駆け込み寺など民間団体への補助金など様々な青少年への支援を行う一方で「役所がやっても近づいてこないので、民間の皆さんのソフトなアプローチによって、そういったことが必要」として、両団体を支援することで官民がタッグを組んで子供達への対応をさらに進める考えを示した。

子供たちは大人達を一切信用していない

東京都議会で最大会派のひとつ都民ファーストの会のトー横問題を考えるプロジェクトチームの座長を務める尾島絋平都議は、政治行政がトー横に取り組むことの難しさをこう話す。

「子供たちは、前提として大人達を一切信用していない。今回、トー横やホスト売掛問題がたくさんメディアでとりあげられ政治がのっかってきているのを白々しいと思って見ている。「いまさら何だ」と。彼らは政治や行政に頼ろうと思っていない。彼らのしてほしいことを聞きもせず一方的に押し付けても届かない」

尾島絋平都議
尾島絋平都議

尾島都議は、まずは子供たちと同じ目線、同じ“ノリ”で話すことから始め、政治行政がやろうとしていることが彼らのニーズと合致しているのかを確認し政治行政の自己満足に終わらないようにしなければならない、と強調した。

そして、政治行政、歌舞伎町関係者、トー横にいる子供たちがどうしたいのか、それぞれの思いを、コミュニケーションをとりながら一致させていくことが重要だが、必ずしもすべて一致させる必要はないし実際問題として完全な一致は不可能だ、と話す。

トー横やグリ下に集まる子供たちの出身や背景は様々だから1人1人の最適解はそう簡単にはみつからないだろう。そうであるがゆえに、まずは子供たちの思いを丁寧に1つ1つ聞いて、大人の押し付けではなく、子供たち自らが望む助けを求めることができる環境づくりが、難しいけれど重要なのではないか。

小川美那
小川美那

「お役に立てれば幸いです」 見てくださる皆さんが“ワクワク&ドキドキ”しながら納得できる情報をお伝えしたい! そのなかから、より楽しく生き残っていくための“実用的なタネ”をシェアできたら嬉しいなあ、と思いつつ日々取材にあたっています。
フジテレビ報道局社会部記者兼解説委員。記者歴20年。
拉致被害者横田めぐみさんの娘・キムヘギョンさんを北朝鮮でテレビ単独取材、小池都知事誕生から現在まで都政取材継続中、AIJ巨額年金消失事件取材、TPP=環太平洋経済連携協定を国内外で取材、国政・都政などの選挙取材、のほか、永田町・霞が関で与野党問わず政治・経済分野を幅広く取材。
政治経済番組のプログラムディレクターとして番組制作も。
内閣府、財務省、金融庁、総務省、経産省、資源エネルギー庁、農水省、首相官邸、国会、財界(経団連・経済同友会・日商・東商)担当を経て現在は都庁担当。