「楽しくアクション!SDGs」と題して、持続可能な社会のために何ができるか、SDGsを見つめなおす。今回は、みんなの「もったいない」を集めて、岩手の職人たちが織り上げるセーターに迫った。
13人の職人がつくる“岩手のカシミヤ”
岩手・北上市に工場を構える最高級カシミヤ製品店「UTO」。繊細なカシミヤ製品がオーダーメイドできると、今、注目を集めている企業だ。
この記事の画像(16枚)ユーティーオー・宇土寿和社長:
世界でどこにも多分ないだろうという“オーダー”をやるっていう形は、唯一だと思う。
最高級のカシミヤ製品は、その品質の良さに世界からもオーダーが入る。
ユーティーオー・宇土寿和社長:
ウチなりの世界一を求めて、それを世界で認めていただけるのが一番いい。
原料には、大阪から仕入れる世界最高級のカシミヤ糸を使用し、生地を編む最初の工程以外は、全てが手作業。それをわずか13人の職人が支えている。
その高い技術は世界に認められ、2023年には世界中のセレブ御用達、ロンドンの高級紳士服店「HUNTSMAN」での販売が決定した。さらに、オーストラリアの高級店「J・H・CUTLER」からも声がかかるなど、“岩手のカシミヤ”が世界に広がりを見せている。
ユーティーオー・宇土寿和社長:
世界一の原料を使って自分たちで手作りすれば、ちゃんと戦える土俵に上がれる。
変わらない品質でアップサイクル
こうした中、新たに始めようとしているのが、カシミヤのアップサイクルだ。
品質が良く、10年以上着用することができるカシミヤニットだが、長く着られることができるゆえに、「シミなどの汚れがついてしまい、着られなくなってしまったが、捨てるのはもったいない」といった悩みの声が寄せられた。
その声に応えるのが、アップサイクルだ。
まず、着られなくなったカシミヤニットをオンラインで募集。集めるのは、UTOでかつて生産された最高級のカシミヤニットのみとなっている。
200枚集まったら、職人が手間暇かけて、ボタンや収縮した糸を取り除き、綿に戻して再びカシミヤの糸へ。最高級のカシミヤ製品だからこそ、変わらない品質でアップサイクルできるという。
ユーティーオー・宇土寿和社長:
大谷翔平選手じゃないが、どうせやるんだったら世界一になりたい。(世界一が)東北の岩手から出ているというかたちが、一番うれしい感じがしますね。
SDGsがリブランディングの好機にも
「Live News α」では、エコノミストの崔真淑(さい・ますみ)さんに話を聞いた。
堤礼実キャスター:
カシミヤ100%のアップサイクルセーター。これが出来上がると、心まで温かくなりそうです
ね。
エコノミスト・崔真淑さん:
ニットを長く使えるものへと新しい命を吹き込むSDGsな取り組みと、企業利益を両立させているビジネスは、本当に素晴らしいことだと思います。
そしてこのビジネス展開は、多くの中小企業にとっても参考になることが沢山あると思います。具体的には、中小企業の製品やサービスにSDGsを取り込むと、2つの課題をクリアできるかもしれない、そんな可能性を秘めていると思っています。
堤キャスター:
SDGsが中小企業の力になるとは、どういうことでしょうか。
エコノミスト・崔真淑さん:
一つは、中小企業の悩みの一つである「ブランディング」です。
大企業と比べると、どうしても相対的に知名度が劣るのに、広告宣伝も思うようにならない場合が多いと思うんです。そこで、中小企業の製品やサービスに、地産地消や地元の伝統工芸をリブランディングするなどSDGsな要素を組み合わせると、消費者の購入を促す契機になるのではないかと思います。
SDGsサポート利用で企業成長を
堤キャスター:
もう一つのメリットについては、いかがですか。
エコノミスト・崔真淑さん:
中小企業の課題といえば、やはり資金調達があります。各種統計を見てみると、中小企業を取り巻く環境は若干改善してきてはいます。しかし、資金調達環境や金融機関の貸出態度はそれほど改善しておらず、むしろ、若干悪化しているところもあります。
そんな中、SDGsな取り組みを資金面で支える社債、「SDGs債」というのが注目されています。今、中小企業によるSDGs債の発行を、公的制度や、金融機関がサポートする仕組みが拡充されつつあります。
大和証券によると、SDGs債の国内発行額は増え続けていて、2023年度は6兆円規模になるかもしれないとも指摘されています。
堤キャスター:
地球への優しさは、企業が成長するためのカギでもある訳ですね。
エコノミスト・崔真淑さん:
SDGsというと、企業にとってコストになる印象があります。しかし実際はその逆で、そうした要素を取り込むことが、成長、そして世界進出においても、中小企業の成功には必須なのかもしれません。
堤キャスター:
多くの人の思いが詰まった世界に1枚だけの洋服は、私たち消費者にとっても、より長く大切に使いたいと思わせてくれますよね。こうした温かい1枚から、いろいろな輪が広がっていくといいなと思います。
(「Live News α」2月5日放送分より)