東日本大震災が発生した2011年3月11日、一隻のカーフェリーが仙台港に停泊していた。地震の発生と大津波警報を受けて緊急出航したフェリーは、松島の沖合で大津波と遭遇。その瞬間が、写真に収められていた。大津波と対峙し、緊迫した船内の様子を、当時を知る乗組員の方が証言してくれた。

仙台港に停泊中 東日本大震災が

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 仙台と名古屋、そして北海道の苫小牧を結ぶ「太平洋フェリー」。現在、3隻のカーフェリーが就航していて、いずれも船体の長さはおよそ200メートル。乗用車およそ100台の他に大型トラックも150台以上積めるため、物流面でも大きな役割を果たしている

 2011年3月11日、フェリー「きたかみ」は苫小牧で積んできた荷物を降ろし、仙台港に停泊していた。その最中、東日本大震災が発生した。

海上でも感じた強い揺れ 「緊急出航」へ

当時二等航海士・早川題隼さん
当時二等航海士・早川題隼さん

 太平洋フェリーで当時二等航海士として業務にあたっていた・早川題隼さん。航海士には、一等から三等まで階級があり、いずれも船長をサポートしながら船の操縦や見張りを行うほか、一等と二等の航海士は入港や出港の際には甲板に出て、現場作業の指揮も行う。

 あの日の「きたかみ」は、乗客はすでに下船し、船内は乗組員のみ。作業も無く部屋でそれぞれ休憩していた時に、揺れ始めた。揺れを感じた早川さんはすぐにブリッジ(操舵室)に向かったというが、海に浮かんでいてもかなり揺れ、徐々に揺れが大きくなってきたという。「きたかみ」はすぐに船長の指示で「緊急出航」することになった。

 当時、船尾を担当していたという早川さんは、開いているランプドアを格納するために船尾へ走った。船尾のドアを閉めるには3分ほどかかる。いつでも閉められるよう船長からの指示を待つ間、早川さんには焦る気持ちもあったという。

「(船尾)に着いた時には「3~6メートルの津波」となっていたが、船長からの指示を待っている間に「6~10メートル」の数値に変わった」その変わった時に『ここにいたらちょっとやばいのかな? 早いところ出港、(船尾を閉めるケーブルを)巻きたいな』という気持ち」   (当時二等航海士・早川題隼さん)

レーダーに映る「大津波」その時船内は 

当時のレーダーの様子(提供:太平洋フェリー)
当時のレーダーの様子(提供:太平洋フェリー)

 船長の指示で船尾を閉め、再び操舵室へ戻った早川さん。そこで目にしたのは、レーダーに映る大津波だった。

当時の「きたかみ」の様子(提供:幸洋汽船)
当時の「きたかみ」の様子(提供:幸洋汽船)

 「当時は波がどんどん本船に近づくスピードが速かった。(黄色い点)は、全部近くにいて仙台港から避難する船が、大津波警報を聞いて沖に避難しようとしていて当時はかなり船混みだった。他の船がどちらの方へ向かっているというのを船長に伝えながら、船長が最適なコースを選んでいく…(雪が降って)視界も悪かった中、その仕事をこなす」
(当時二等航海士・早川題隼さん)

 地震の発生から1時間10分が経った、午後3時56分に、「きたかみ」は10mほどの高さがある津波の第1波と直角に向き合うことに。横から波を受けると、転覆の恐れがあるからだ。

 「当時私はブリッジでレーダーを見ていた。第1波に関してはすぐに波が当たったので、通常、窓からは海面が見えるが、操舵室の窓から空しか見えなくなった。そして、波をやり過ごしたら、今度は窓から、海面しか見えなくなるぐらい落ちる」
(当時二等航海士・早川題隼さん)

 大きな波がきたのは合わせて4回。乗組員はみな体を完全に抑えるように手すりにつかまって乗り切り、36人いた乗組員は全員無事だった。早川さんはそのような経験をするのは初めてだったという。

震災を経験したからこそ リーダーの「あるべき姿」

苫小牧での「きたかみ」の様子(提供:太平洋フェリー)
苫小牧での「きたかみ」の様子(提供:太平洋フェリー)

 「きたかみ」はそのまま翌12日には苫小牧へと向かい、今度は緊急支援の車両や物資を運ぶ役目を担った。船が港に着いた時は、すでにかなりの台数が集まっていて、乗組員はみな1台でも多く、早くという思いで仕事にあたったという。

 あれから13年が経ち、早川さんは、一等航海士に昇格したのち、現在は運航管理部の課長として様々な場面で指揮を執る立場になった。早川さんは、震災を経験したことで船におけるリーダーのあるべき姿を再認識したという。

 「あの時私が感じたのは、当時の一等航海士や船長がそういう状況になっても落ち着いて指示を出していた。そういう状況でも平常心を保てるならば、的確な指示が出せるということ」
(当時二等航海士・早川題隼さん)

(仙台放送)

仙台放送
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