1月13日に台湾総統選 結果次第で中国との対立深まる可能性も

今年2024年はアメリカ大統領選挙などが予定され、日本を取り巻く国際環境が大きく変わる可能性を秘めた1年となる。その中で真っ先に注目されるのが、1月13日に行われる、台湾の次のリーダーを選ぶ総統選挙だ。選挙戦は、中国と距離を置く蔡英文政権の路線を引き継ぐ与党の民進党、中国との関係改善を主張する野党の国民党、そして第3勢力である民衆党の各候補が競っている。

防衛省の研究機関「防衛研究所」で中国研究室長を務める飯田将史氏
防衛省の研究機関「防衛研究所」で中国研究室長を務める飯田将史氏
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「中国は、独立志向の民進党の頼清徳候補が当選すれば、中台間の軍事的緊張が高まると警告している」

FNNの取材に対し、こう指摘するのは防衛省の研究機関「防衛研究所」で中国研究室長を務める飯田将史氏だ。中国の外交・安全保障政策の専門家で、防衛研究所で20年以上にわたって研究を続けている。その飯田氏は台湾総統選について「結果次第では、2024年の日本を含む東アジア地域の安全保障にも大きく影響する」と話す。

実は筆者自身も2017年に特派員記者として中国・北京に赴任し、約4年間にわたって関係者への取材を重ねてきた。その中で聞いた頭にこびりついている発言がある。

「中国が台湾と戦った場合に日本はどう対応するのか」

これは私が北京で実際に取材した中国当局関係者の発言だ。この関係者を取材する際に必ず聞かれたのが「台湾有事」、つまり中国による台湾侵攻が起きた場合の日本の対応についてだ。

そして、多くの中国側関係者が「台湾は中国の一部であり、絶対に譲ることができない核心的利益だ」と主張していて、メディアを通じてアメリカと同盟国である日本をけん制しているとも感じた。実際に中国は、常に台湾とその後ろ盾となるアメリカを意識し、核やミサイルなど様々な面で軍事力を急速に強化している。

中国は空母など海軍力を向上 「山東」での発着艦の平均回数に変化も

台湾の総統選挙をめぐる中国の対応はたびたび注目されていて、1996年の総統選の際には、台湾独立をけん制する中国がミサイル演習を強行し、アメリカは空母の派遣で対抗するなど、一時的に緊張が高まった。

私は北京赴任時に、ある中国関係者から「その時にアメリカとの空母など海軍力の差が歴然となった。中国はあの時の教訓で海軍力増強に力を入れ始めた」と聞いた。

中国は初めて保有した空母「遼寧」に加え、2隻目の「山東」も運用していて、3隻目の「福建」も就役に向けて準備を進めている。

そこで注目するのは「山東」でのある変化だ。海上自衛隊は2023年、「山東」が日本の周辺海域で航行しているのを確認し、警戒監視にあたった。防衛省は4月、9月、11月にその詳細についてそれぞれ発表した。実は、ある防衛省幹部によると、4月と11月では空母「山東」の運用能力に違いが見て取れるというのだ。

空母は多くの戦闘機やヘリを艦載し、海上での航空基地の役割を担う。その能力の目安の1つとして発着艦が挙げられる。

防衛省の発表によると、「山東」では、4月7日から24日までに艦載する戦闘機とヘリが合わせて約620回発着艦、10月28日から11月5日にかけては戦闘機約420回、ヘリ約150回、合わせて約570回の発着艦を行ったことが確認された。

両方とも600回前後の発着艦になるが、注目すべきはその期間だ。4月は2週間強で約620回だったのに対し、11月はそれより短期間の9日間で約570回に上っていた。

防衛省幹部は、「1日あたりの平均回数が増えている。天候や条件などもあって一概には比較できないが、空母の運用能力を向上させているのではないか」と分析している。こうした中国空母の能力向上の可能性について、先述の中国専門家である飯田氏はある見方を示した。

「中国は空母を使って台湾を挟み撃ちにして攻撃することも考えているのではないか」

中国の狙いは空母活用で台湾を挟み撃ちか 4月の訓練で実戦を想定

飯田氏は「台湾側の発表を見ると、中国は4月の訓練で山東から20機近い戦闘機を発進させ、台湾の東岸方面に接近させた。それと同時に中国本土からも多数の戦闘機や空中給油機、無人機などを飛ばし、実戦を想定した訓練を行った」と話す。

実は、台湾は空軍の重要な基地を中国本土とは逆の東側に設置していて、この基地は中国本土からは攻撃しづらい面があるという。飯田氏は、「そのため中国が空母を太平洋上に展開できれば東側からも攻撃でき、中国本土と空母からの挟み撃ちが可能となる」との見方を示す。

また、飯田氏は、台湾有事に向けた中国の軍事力増強について「日本にも影響がある。中国は尖閣諸島も含め日本の周辺でも軍事活動を活発化させている。中国が空母によって西太平洋で作戦能力をさらに高めることになれば日本の太平洋側に対する軍事的圧力も高まりかねない」と警鐘を鳴らす。その上で、「こうした課題に対応する上でも防衛力強化を進めていく必要がある」と語った。

日本政府は2024年、台湾総統選の影響もにらみながら、中国の動向を念頭にした防衛力の抜本的強化の取り組みを続けることになりそうだ。
(政治部 防衛省担当 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(防衛省担当)元FNN北京支局