コロナ禍でストップしていた海外からの個人旅行が再開されて1年余り。

2023年上半期に来日した外国人観光客の数は、4年ぶりに1000万人を超え、コロナ禍前を回復した。中でも回復が早いのが台湾からの旅行者。2023年10月には63万人の韓国に次ぐ42万人余りが入国し、インバウンドの回復を牽引している。

リンリンさんがこの1年に投稿した動画リポートの数々
リンリンさんがこの1年に投稿した動画リポートの数々
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そんな中、「台湾女子ひとり旅」などの見出しで来日しては独特の旅先やグルメ、体験を動画投稿サイトYouTubeに投稿し、関心を集めている台湾人YouTuberがいる。チャンネル名は「リンリンブラウニー」。

大学で日本の文芸を学んで以来日本に関心を持ち、交換留学で近畿大学に留学。ワーキングホリデーも利用し、2年間日本に住んだことがある。その後も来日を重ね、自らは自嘲気味に「エセ関西弁」と称しながらも、流ちょうな日本語を操る。

2年半ぶりの来日を投稿し81万回視聴を獲得した投稿より
2年半ぶりの来日を投稿し81万回視聴を獲得した投稿より

日台を行き来しながらYouTuberとして活動していたが、コロナ渦の入国規制により2020年の2月を最後に日本に来ることができず、2年半の間訪日を心待ちにしていた。

「台湾女子2年半越しに日本へ行く!」

そんな彼女は日本への個人旅行が解禁された2022年10月11日の翌日には航空券を購入。いの一番に飛んできた。行く先は慣れ親しんだ大阪。その時の様子を、早速YouTubeに投稿している。

「この2年半、日本に行きたい行きたいってずっと思っていて、今実現しているのが変な感じですね。」

関西国際空港に到着するとワクチン接種証明のアプリをチェックする長い列ができていて、この手続きに1時間並ぶことに。それでも「観光再開、これ見たらでも世界が戻ったという感じ」と喜ぶ。

大阪に来て最初に食べるのはたこ焼き、と思いきや、ファーストフード店のハンバーガーとポテト。日本のマヨネーズの味が、(台湾とは)ちょっと違ってしょっぱい、とリポート。この味で日本に来たことを実感するという。

宿泊するのは、一泊2100円という、昭和風情の古いホテル。居酒屋に一人で入るとハイボールをあおる。隣の男性から「ユーチューバーですか?」と声をかけられる一幕も。

ホテルに戻るとコンビニで購入した「ファミチキ」と酎ハイを飲みながらリポートを続ける。「昔も今も、日本は旅では無く、帰るという感じ」と満足げな表情を見せる。

こうした飾らない旅を綴った日本愛あふれるリポートに、日本人視聴者からは「おかえりなさい、リンリン!」「日本をこんなに好きでいてくれて、日本人としてとても嬉しいです。」など、好意的な書き込みがあふれる。

投稿動画は1年で80本、最高117万回視聴の大ヒットも

「やっほー!リンリンだぞー」で始まる、お決まりの自撮りリポート投稿は、1年で80本近く。

中でも日本全国の特急やローカル鉄道に乗るシリーズは人気が高く、「台湾女子初の日本の新幹線」は117万回視聴を記録。

青春18切符で東京から大阪まで行く「25時間!普通電車98駅」では、途中台風で電車が2時間半も停車し、乗り継ぎに迷うリンリンさんに気がついたYouTubeの視聴者に助けられる一幕も。

そのほか「日本駅弁6時間待ち」「日本初の回らない寿司」「念願のオムライス」「初の日本串かつ」「初日本の魚市場」など、日本好き外国人女子ならではの目線で体験をリポート。

撮影は自撮り、編集も字幕、BGMもすべて自分で手がける。また台湾人にも見てもらえるように中国語の字幕も入れている。

こうした動画が話題を呼んで、日本の観光地や自治体、企業などに、PRのための動画投稿を頼まれることも。近く九州の自治体とのタイアップも予定している。

名前の由来は日本のコンビニ菓子

そんなリンリンさんが、情報番組のインタビューを受けるためにフジテレビ本社を訪ねる機会があり、お話を聞いた。

12月11日リンリンさんが東京・台場のフジテレビを訪問
12月11日リンリンさんが東京・台場のフジテレビを訪問

(Q.これまでに日本で訪問した場所で、楽しかった場所は)
リンリンさん:
銚子漁港とか、埼玉県秩父市とか。花火大会の取材で滋賀県にも行きました。

(Q.日本で面白いと思うものは)
リンリンさん:
エスカレーターを前後1人ずつ空けて乗るのが不思議。見えない壁があるみたい。この間携帯カメラで撮りました。

日本人にとってはありふれていたり、当たり前のことを「面白い」と感じるという。

名前の由来になったチョコ菓子と(Xの投稿より)
名前の由来になったチョコ菓子と(Xの投稿より)

また、チャンネル名の由来を聞くと、「リンリンブラウニー」のブラウニーは、日本のコンビニなどで売っているチョコレート菓子から来ているという。このお菓子が好きなことを公言すると、ファンが名前につけたらと提案したとのこと。

お菓子に限らず、台湾では日本の文化が人気で、音楽では藤井風やYOASOBIの大ファンだ。「来年1月にYOASOBIのコンサートがあるんです。16万人がネットで応募し、10秒で完売した。自分も外れた1人なんです」日本人が気がつかない日本の隠れた魅力を発信し、日本の良さに日本人以上に胸を躍らせる。そんな彼女の等身大のリポートが、日本人視聴者の心を捉えているのだろう。

最後に、リンリンさんに将来の夢を聞くと「日本と台湾の架け橋になるようなタレントになること」だそう。コロナ禍の断絶を経て、お隣台湾からかかった「橋」がこれから大きく成長していくことを期待したい。
【執筆:フジテレビ社会部長 勝又隆幸】

勝又隆幸
勝又隆幸

フジテレビ報道局社会部長。1995年の入社以来警視庁、司法、警察庁クラブなど、事件記者を10年。
2010年からロンドン特派員として、ロンドン五輪、ロイヤルウェディングのほか、リビア、シリア、ウクライナで紛争取材にあたり、マレーシア航空機撃墜現場から中継取材も。
その後ニュース番組プロデューサーなど経て、2023年から現職。