「白バイに乗りたくて警察官になった」…幼い頃から白バイに乗る父に憧れていた息子。広島県警に“親子”で白バイ隊員を務める警察官がいる。事故を未然に防ぐため、任務と真剣に向き合う県警交通機動隊に密着した。

広島県警で唯一“親子の白バイ隊員”

隊列を組んで走る約60台もの白バイ。9月中旬、安芸高田市で広島県警の白バイ隊員が集まり、運転技術を競う大会が開かれた。

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白バイとは、警察の交通機動隊に配備される白いバイクのことで、主に交通違反を取り締まる目的で使われている。若手からベテランまで多くの隊員がいる中で、緊張した表情を浮かべる1人の隊員、山田智也巡査長。2023年3月に配属された新米隊員だ。

そして、そのとなりにいるのは父・山田秀二警部補。キャリア25年の大ベテラン。

2016年、アメリカのオバマ元大統領が広島を訪問した際、白バイで車列を先導した経験もある。

オバマ元大統領を乗せた車を先導する父・山田秀二警部補
オバマ元大統領を乗せた車を先導する父・山田秀二警部補

2人は、広島県警で唯一の”親子の白バイ隊員”。しかし、この日ばかりはライバルである。競技大会では高い運転技術が求められ、幅30センチの台の上をバランスをとってゆっくり走る「一本橋走行」などで腕を競い合った。

安定したバランス感覚が求められる「一本橋走行」
安定したバランス感覚が求められる「一本橋走行」

ベテランの山田秀二警部補は橋を見事に渡りきり、息子・智也さんの挑戦を見守る。しかし、智也さんは途中で橋から落ちてしまった。

橋から落ちてしまった息子の山田智也巡査長
橋から落ちてしまった息子の山田智也巡査長

会場アナウンス:
お父さん、残念そうですが、非常にうれしがっています

この日の軍配は父・秀二さんに上がった。

悔しがる息子へ優しい眼差しを向ける父・秀二さん(左)
悔しがる息子へ優しい眼差しを向ける父・秀二さん(左)

山田智也 巡査長:
すごく悔しいです。全然ダメだったのでもっと練習します

「ドライブじゃない」上司に叱られる

智也さんは、交番勤務を経て念願の白バイ隊員になった。今は研修中。上司の佐藤慎也巡査部長から指導を受けている。

上司の佐藤巡査部長(左)について研修中の智也さん(右)
上司の佐藤巡査部長(左)について研修中の智也さん(右)

白バイ隊の主な任務は、交通違反などを取り締まり、1件でも事故を防ぐこと。

 
 

この日のパトロール中、進行方向に1台の軽自動車が停車していた。佐藤巡査部長はすかさず軽自動車のもとへ。

佐藤慎也 巡査部長:
ここに止まっていたら危ないので、車を動かしてください

一方、智也さんはそのまま走り去ってしまった。

佐藤慎也 巡査部長:
道路に軽自動車が止まっていたのわかってた?なぜ止まらない?何かあったのかなって思わん?

上司の指摘に言葉を返せない智也さん。
続けて、痛恨の一言が…

佐藤慎也 巡査部長:
白バイでドライブしとるんじゃないけんね。事案対応せんといけんのよ。交通の円滑化を図らないといけない

智也さんへの期待を込め、指導には力が入る。

佐藤慎也 巡査部長:
自分なりに問題点を持って活動していると思います。全く経験値がないので1つでも多く現場を踏んでもらって、違反者とも積極的に話をしてもらいたい

山田智也 巡査長:
まだまだ全然ですね。白バイの運転技術もそうですけど、違反者に対する対応もまだまだ経験不足でレベルが低いです

幼い頃に見た“白バイの父”に憧れて

10月中旬のある日、智也さんは両親を自宅へ招き、家族で食事をした。

手前は父・秀二さんと母・康江さん、奥は智也さんの妻・愛さんと息子・律斗くん
手前は父・秀二さんと母・康江さん、奥は智也さんの妻・愛さんと息子・律斗くん

そこには孫の律斗くんをかわいがる秀二さんの姿が…。職場の厳しい雰囲気とは違い、笑顔が絶えない。

智也さんは、幼い頃に見た父の姿に憧れを持ったという。

山田智也さん:
若い時の親父が白バイの全国大会に出ている写真を見て、「かっこいいな」と思って。そこからですかね。白バイに乗りたくて警察官の試験を受けました

父・秀二さんが全国大会に出場した時の写真
父・秀二さんが全国大会に出場した時の写真

息子が選んだ道は自分と同じ白バイ隊員。これまで口に出したことはなかったが、思わず本音がこぼれた。

父・秀二さん:
自分と同じ道を歩んでくれたということが純粋にうれしい。それが一番ですね。どんな違反者であろうと同じように対応して、同じように処理できる白バイ隊員になってほしいです

山田智也さん(左)と父・秀二さん(右)
山田智也さん(左)と父・秀二さん(右)

山田智也さん:
こんなことを言われたことないので…

父から息子へ、初めてのエールだった。

納得しない違反者にも毅然と対応

11月上旬、智也さんが初めて1人で取り締まりを行う日。

山田智也 巡査長:
不安というのはありますし、すごくドキドキしています

取り締まりを行うのは広島市西区周辺の交通量の多い道路。白バイに乗った智也さんは、1台の車の動きを見逃さなかった。

左折した車に停車を求める。

山田智也 巡査長:
「進路変更禁止」という違反になってしまいます

この違反は、車線変更を禁止する黄色い線をまたいで進路や車線を変更するもので、交差点近くでの急な進路変更は、大きな事故にもつながる。ところが、男性は納得できない様子だ。

男性:
えー!ナビの進路が急に変わったんだって。ウインカーは出したじゃん

山田智也 巡査長:
ウインカーを出しても、そもそも進路変更してはいけない区間なので

男性:
そんなん言われても証拠がないじゃん

山田智也 巡査長:
証拠?証拠は私の確認です

男性:
だったら第三者を呼んで!

山田智也 巡査長:
呼ばないです。私が現認していますので

男性:
一回振り上げた拳は下げられないの?

山田智也 巡査長:
下げられないじゃなくて、違反を見た以上は告知をして何がいけないかわかってもらう

男性:
そんなに点数を稼ぎたい?

山田智也 巡査長:
点数を稼ぎたいわけではないです。点数稼ぎだろうと言われますが、そうじゃないです

一つの違反が重大な事故につながる。智也さんは毅然とした態度でひるむことなく対応した。

「親父が白バイを降りるまでに…」

取り締まるだけでは一人前の白バイ隊員とは言えない。“至らなさ”を日々感じているという。

山田智也 巡査長:
まだまだ勉強です。事故を起こさせないようにしていきたい。違反がなくなれば事故の確率も減ると思いますので

智也さんには夢がある。

山田智也 巡査長:
父親が白バイを降りるまでには「ここまでなったよ」と胸を張って言えるようになりたい。自分が見てきた父のような白バイ隊員になるのが自分の夢です

父の背中を追って、白バイ隊員になった智也さん。

幼い頃の智也さんと父・秀二さん
幼い頃の智也さんと父・秀二さん

幼い頃から憧れた父親のような白バイ隊員になるために、息子の挑戦は続いている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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