使うのは小麦と水と塩だけ。5,000年前から伝わる古代の製法で作られたこだわりのパンを作っているのは、3カ月前に愛媛・東温市に移住してきたフランス人のパン職人だ。彼が作る「唯一無二」の食パンを取材した。

日本ではなじみのない製法で焼成

ほんのり茶色く色づき、まき窯で焼いた香り高い「サワードウブレッド」は、もっちりとした食感とほのかな酸味が口の中に広がる。材料は小麦と水と塩だけ。素朴ながら、職人が手間と時間を惜しみなく使った唯一無二の食パンだ。

この記事の画像(21枚)

こだわりのパンは、美しい棚田が広がる東温市の井内地区の里山で作られている。慣れた手つきでまきを割るフランス人のアクセル・バザンさんは、3カ月前に家族と共に東温市に移住した。週に2回、まき窯でパンを焼いている。

フランスから移住したアクセル・バザンさん:
きょうすごい煙が多くてごめんなさい。みんな息できますか?

昔ながらの製法を大切にし、薪窯で焼き上げるパンは、とにかく時間も手間もかかる。まずはまきをたいて窯の温度を上げていく。

フランスから移住したアクセル・バザンさん:
生地の発酵の速度と、オーブンの適切な温度を合わせることが一番難しいです

火を付けてから約2時間に、ようやくパン生地が窯に入った。生地のふくらみは、その日の気温や湿度に左右される。生地の発酵具合と窯の温度、両方のベストな状態を合わせなければ、パン生地を窯に入れることはできない。
作るのは、「サワードウ」という発酵種を使ったシンプルなパン一種類のみだ。

フランスから移住したアクセル・バザンさん:
イーストで発酵させず、サワードウという自然発酵で作ります。水と小麦を混ぜるだけで、小麦の中にいる常在菌が自然に発酵します。小麦と塩と水しか使っていないです

愛媛の小麦と瀬戸内海の塩、そして水だけを使った「サワードウブレッド」は、5,000年前の古代エジプトで生まれたとされる、日本ではあまりなじみのない製法だ。

アクセルさんは生まれ育ったフランスで、パン職人としての経験を積んできた。

フランスから移住したアクセル・バザンさん:
最初は「発酵」というものに魅了されていたんだ。サワードウのパンは栄養があって、食べやすくて、おいしくて健康的なパンだったんだ。それに対して作るのが難しいけど、僕はそれで満足だった

移住のきっかけは家族旅行

そんなアクセルさんが日本への移住を決めた理由は、日本人の妻・有希さんの存在だ。子どもが生まれて目まぐるしく毎日が過ぎるフランスでの生活は、有希さんにとって精神的にも余裕がなかったという。

妻・有希さん:
本当にピリピリしていたんです。私もいつもはこう、パーっておおらかな感じなんですけど、ずっとピリピリした人の中にいたら、朱に交われば赤くなってしまって…。私もピリピリしていて、子育てにも本当に良くなくて

そんな時、妻・有希さんが以前住んでいたことがある愛媛を家族旅行で久々に訪れた時に、たまたま東温市の空き家を紹介されたことをきっかけに移住を決めた。

フランスから移住したアクセル・バザンさん:
フランスでは大きな都市の近くの田舎に住んでいたんだ。ここはそこと似ている気がする。自然とも近いけど大きな都市とも近い。そのコントラストが好きだったから、ここもとても気に入っているよ

妻・有希さん:
東温市は、1人に言えばいろんな人が話してくれて、気がついたら助けが手に入っていて、そういう人のつながりにすごいびっくりさせられました

窯を貸している井内地区の農家レストランのオーナーも、アクセルさん家族を温かく迎え入れた。

ぼたん茶屋・永井公一さん:
大歓迎ですよね。この地域も限界集落から消滅集落に向かっているような感じで、人口減少なり、高齢化なり、後継者がいない。ですから海外からでも移住してくる方がいるといいですよね

週に一度 工房で直接販売

生地を入れてから約1時間後にパンが焼き上がった。断面の気泡が均一なのは、窯入れがベストのタイミングだった証しだ。サイズはミニパン(350円)、中パン(500円)、デカパン(650円)の3種類。

古代の製法で作られたこだわりのパンは、ずっしりと重みがあり、もっちりとしている。しっかりとかみ応えがあり、普通の食パンよりも酸味が強く、飽きのこないおいしさだ。

週に一度は工房で直接購入できるオープンベーカリーを営業していて、この日も予約をした客が訪れていた。

客:
初めて買いに来た。ああいう、かまどでやっているのがすごいなって

客:
酵母が昔ながらの酵母っていうので、初めて食べるので楽しみです

客:
トーストしてバター乗せて食べたらおいしいって

また、毎週火曜日に行う工房でのオープンベーカリー以外にも、東温市内の物産センターやマルシェで購入できる(「あさつゆマルシェ」「さくらの湯観光物産センター」など)。

フランスから移住したアクセル・バザンさん:
東温の人々はとても優しくて、元気で熱心で大胆で、ここのエネルギーが好きだよ

東温市の温かい人々に囲まれながら、アクセルさんはきょうも里山でパンを作る。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
テレビ愛媛

愛媛の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。