毎日のようにクマが出没したというニュースをご覧になっていると思うが、山の中だけでなく、市街地でもクマの姿が増えているというのは怖いことである。2023年はなぜクマの目撃情報が多いのか?関西では、なにか対策はしているのか?など、私たちも注意しなければならないことについて、クマの生態を研究している兵庫県立大学教授の横山真弓さんに聞いた。

今年のクマ被害の原因

全国の市街地でクマの被害が相次ぐ異例の事態になっているが、なぜ被害が増えているのだろうか。2023年のクマ被害の原因は、3つの要因“トリプルパンチ”による影響が大きいとのことだ。

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・まず1つ目は「生息数の増加」。
クマの生息確認エリアは、2003年度に日本全土の39.5%だったのが、2017年度には54.8%まで増加している。いままでクマがいなかったエリアにも、生息するようになったと考えていいのだろうか?

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
一時は絶滅の危険性に陥ったツキノワグマですが、今は生息数を増加させて少しずつ分布域を拡大して、もうすでに10年以上たっていますので、かつてはいなかった山にも生息しています

・2つ目は、「クマが利口になった」
生息域を拡大し、人間の街や食べ物を学習していった。

・3つ目は、「ドングリの不作」
食べ物を求め、山からより街へ来るようになってしまった。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
どんぐりの不作は今年だけの要因です。個体数が増えて徐々にいろいろな所に行くクマが増えて、人の生活圏に近いところに、おいしい柿や栗がたくさん実って放置されているということを少しずつ学習をしてきた結果、行動が大胆になり、人の生活圏で行動する時間が増えてきているので慣れてきているというのがあります。そういった中で今年はどんぐりが不作で山の中にないので、里近くで大胆に食べてしまっているという状況です

対策として庭先の柿や栗は食べない分を収穫するか、隠してしまうなどして“クマに見つからない”ようにすることが大事だということだ。

クマと人の共存…殺処分は仕方のないことなのか?

関西でもクマの出没が相次いでいる。2023年の1月~9月までのクマの出没情報に関する件数は、最も多い京都では526件、そして兵庫の268件と続き、関西ではクマの出没情報がなかった都道府県はない。

このような現状の中で、兵庫県は2012年から人の生活圏に近づいたクマは殺処分しているということだ。いまクマを殺処分というのは賛否が出ているが、仕方のないことなのだろうか。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
数が増えてきているので、ある一定数を超えると人間の生活圏にどんどん侵入してきてしまいます。人を恐れないクマはやむを得ず殺処分をせざるをえない。そうしないと、クマと人との共存というのは果たせない状況になっていると思います

殺処分を行ってこなかった結果、数が増えていったという背景もあるのだろうか。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
特にいま秋田で起こっているのは、増えている数に対して捕獲数が全然足りていないとこで、もし、この対策を兵庫県でしなかったら、秋田のように今年なっていると思います

クマの保護を通して増えすぎてしまったという状況ということだ。

関西テレビ・加藤さゆり報道デスクは、過去にクマハンターを取材されたことがあるそうだ。

関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:
兵庫県豊岡市で鳥獣害対策員というのがあります。市が設けていて人を一度でも襲ったことがあるクマやその予備軍になるようなクマが、どこに生息しているのかを現地で調べる方がいます。その方にお話を聞いたのですが、あくまでも狩猟が目的ではなく、共存することが目的であって、有害な個体だけを選別して殺処分を行っているということです。その取り組みをしていても危険な個体は出てきてしまうので、柿の木を伐採するなどの人の手を入れることが大事で、それが共存につながるとおっしゃっていました

人に危害を加える個体かどうかを判断できるのであれば判断したいが、そういったことも踏まえて、殺処分は本当に必要なことなのだろうか。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
もともと、クマやシカ、イノシシなどの野生動物は、人間がかなり古くから薬や食べ物として利用してきて数が減りすぎました。その中で、全く利用しなくなってきたので今度は増えすぎという状況になるので、一体どこを求めていくのかという、非常に難しい判断を日々迫られながらやっているというところです

クマと人間が共存するのは難しい判断をしないといけないということだ。

関西で行われているクマ対策

他にも2018年から広域で頭数の管理をしている。兵庫県・京都府・鳥取県・岡山県が広域協議会をつくり、クマが街の近くまで来るほどの数に増えないように広域で管理している。その結果、現在2つのエリアで800頭ほどの数で推移している。近隣の都道府県と協力して管理するというのは、どのようなメリットがあるのだろうか。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
クマは広域に動き回ります。かつては兵庫県は兵庫県だけで生息数を推定していたのですが、実は同じクマが鳥取県に行ったりしてダブルカウントしてしまうことで、実際は数が少ないにもかかわらず多く見積もられてしまうとか、その逆もあります。主に県境をまたいで生息していますが、クマにとっては県境は関係ないので、主な生息地を中心に、近畿圏では2つの個体群があるので、それぞれで生息数を管理するという取り組みをスタートさせたところです

このようにすることで、より正確に生息数が管理できるということだ。管理を進めているということだが、関西のクマ対策は進んでいるのだろうか。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
かつて絶滅の危険性が高かった時代からなんとか絶滅させないようにしようということで、不要な補殺を減らす対策とか殺処分をしてもまた次のクマが来てしまうので、不用意に引き寄せないような取り組みを進めてきた結果、今年、近畿圏でもどんぐりの不作で普段クマが来ないようなところにも来てしまっていますが、秋田のような深刻な状況には至っていないので、これはいろんな方々が努力をした結果だと考えています

地域の人や自治体、県と連携を取っていかなくてはいけないということだ。

クマ被害に遭わないために、第一は「クマと遭遇しない」

関西でもクマの出没情報が相次ぐ中で、私たちも被害にあう可能性もあるかもしれない。クマ被害に遭わないために、私たちにできる対策についても考える。

・クマと遭遇しないように予防する
まず大前提として、遭遇しないようにすることが大事だ。 山に入る時は、高く短い音が出る鈴や笛を身に付け、歌ったりすることでクマに存在を教えていくことが大事になるということだ

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
鈴は高い音が鳴るもので、持って歩くことでずっと鳴っているものを“クマ用”と呼んでいますので、専用のものではないといけないというわけではありません。高い音を出すことでクマに人間がいるよということを、存在をまず教えるということです。私たちもさんざん山に入っていますけど、とてもうるさくして入っていますので、1人で山に入っても出会うことは非常に少ないです

・もしも遭遇してしまったら、「ある程度の距離がある場合は手を振り、声を出し離れる」
すごくリスクがありそうな気がするが…なぜ声を出して手を振るのが効果的なのだろうか?

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
10メートルくらいまで近づくとクマスプレーを使わないといけないのですが、それより離れている場合は、実はクマは目が小さい動物で、小さいだけでなく視力も悪いのです。白黒の世界でものを見ていて目が悪いので、何か音がしても、なんだろう?と探すんですね。においとか音で探すときに、こちらは大きい生き物だというのを見せながら後ずさりをしたり、どうしても気が付いてなくて近づきかけている状況であれば、『キャー』『わー』だと、かえって刺激してしまいますので、できるだけやさしく穏やかに大きな身振りで『おーい』と声を出すと良いです

クマから見ても人間のサイズは大きく見えてびっくりしてしまうだろう。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
クマは怖くて逃げるために一撃をくらわすという行動をとりますので、ある程度距離がある場合は、とにかく人間だぞ、怖いぞとアピールしていくと良いです。ただ、本当にできますかというと、こういう事態に私自身は陥ったことがないのでやったことはないです。ですから基本的に『クマと遭遇しない』ということを徹底していただければと思います

人とクマのそれぞれの暮らしを守るためにも、まず人ができる予防をするべきなのかもしれない。

関西のクマ対策は進んでいるが油断はしないで

今後は都市部でもクマと遭遇する確率が高くなるのだろうか?

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
個体数が増えていて、個体数管理がまだできていない地域では、しばらくこういった状態が続きますが、近畿圏ではかなり対策は進んでいるので市街地までということはだいぶ減ってきていると思います。ただクマの行動範囲はかなり広いので、思わぬところに出没するという危険性はあると思っていただきたいと思います

2023年はどんぐりが不作ということが要因ということだが、どんぐりがどれくらい採れるなどは周期性があるのだろうか。

兵庫県立大学教授 横山真弓さん:
どんぐりは年によって採れる量が異なります。今年は凶作の度合いが高いのですが、毎年近畿圏では調べています。必ずウェブサイトで9月中旬ごろにクマの出没の予測を出していますので、そういったものをチェックしていただけるといいかと思います

2023年は特に多いというクマの出没情報だが、自分は大丈夫と思わず、十分に警戒しクマに遭わないための予防をしてほしい。

(関西テレビ「newsランナー」2023年10月31日放送)

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