出入国規制の緩和第一号はベトナム
政府は、6月18日の新型コロナウイルス感染症対策本部会議で、比較的感染状況が落ち着いているベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドとの間で、段階的な人の国際往来の再開を協議していくことを決めた。
この記事の画像(8枚)これを受けて翌19日に、まず、ベトナムとの間で試験的な往来の再開が決定し、出入国制限の実質的な緩和の第1弾として、日本からベトナムに向けて、25、26、27日の3日間で約440人のビジネス関係者らが臨時便に乗って飛び立つことが決まった。外務省によると、今回はあくまでも試験的なものとの位置づけで、ベトナム入国後は、従来からの現地の検疫体制に則り、約440人のビジネス関係者らには2週間のホテル隔離などが必要になるという。
今後、緩和の詳細な条件について本格的な協議をすすめ、まずはビジネス関係者、次いで留学生や観光客まで対象を広げていくことにしているが、時期に関しては今後の各国との調整次第で、具体的なめどは立っていない。
政府が定めた段階的緩和の内容
国際的な人の往来の再開を各国と協議していく上で、政府は2つの枠を創設している。一つは「ビジネストラック」というもので、もうひとつは「レジデンストラック」というものだ。
「ビジネストラック」とはビジネス目的の往来の中でも短期間の滞在予定のビジネスマンを対象とするもの。現状、日本入国後は例外なく14日間の施設等での待機を求めているが、海外から短期のビジネスで日本にくる場合、日本入国後すぐにビジネス活動を開始する必要性があることから、「一定の条件」を満たせば入国後、ホテルなど指定された施設での隔離等の行動制限を緩和するという仕組みだ。
この一定の条件として以下のようなものがある。
【日本入国前】
・PCR検査受診と検査証明の所持
・出発までの14日間の健康モニタリング
・日本入国後の活動計画書の事前提出
【日本入国後】
・空港でのPCR検査、健康状態等の質問票の提出
・位置情報を保存するアプリ導入(14日間の位置情報の保存)への合意
政府はこれらすべての条件を原則として緩和の対象国に求めていく方針で、国ごとに合意に至れば、同様の措置が日本から対象国に渡航するビジネス関係者にも現地で課される可能性がある。
他方、「レジデンストラック」は、ビジネス関係者の中でも長期の滞在予定者や駐在派遣の交代にともなう入国を想定している。日本入国後、すぐの活動を必要としないとの観点から、この枠を利用した場合は従来通り、入国後14日間はホテル等での隔離などの行動制限が課されている。その分、上記であげた条件のうち、「日本入国後の活動報告書の提出」が不要となっている。
外国人の日本入国の緩和に際し、いくつもの条件を政府が示した背景には、国際的な人の往来の再開による経済の再活性化と、国内での感染防止対策とを両立させなければならないという政府の強い意識がある。政府関係者は、今回の入国制限の緩和の条件について「ちゃんと国民に理解して、納得してもらえるようなものでないといけない」と語っているように、出入国制限の緩和によって国内で再び感染の拡大が起きてしまうことはあってはならない事態なのだ。
世界的には経済再開の流れ 政府の今後の方針は
安倍首相は国際的な人の往来再開について、「追加的な防疫措置を講じていく上で、我が国の検査能力、体制の拡充は必要不可欠」と強調し、厚生労働省をはじめとした関係省庁に、唾液PCR検査等の代替的な検査方法の導入や、海外渡航者のための新たなPCRセンターの設置を進めるよう指示を出した。
政府関係者によると、今後、国際的な往来に関しては当分、成田空港のほかに、羽田空港と関西国際空港に出入りが限定される見通しで、それらの空港には今後の出入国者の増加に備えて、安倍首相の指示の通り、新たなPCR検査センターの設置が進められている。しかし担当者は「7月中にはなんとかしたいがまだわからない」と話すなど、現在も調整が続いている。
政府は今後、第二弾として7月1日以降にタイとの人の往来を再開する方向で調整していて、オーストラリアやニュージーランドとは双方との交渉が続いている状態だ。欧米や中国、韓国の緩和検討についても、各国の感染状況の注視を続ける状況にある。
来年に迫った五輪開催 カギは水際の検査体制強化か
政府は現在、111の国と地域の外国人に対して入国拒否の措置を出し、外務省は中南米や中東、アフリカなどの18カ国を加えた合計129の国と地域を対象に「渡航中止勧告」となる感染症危険情報レベル3を日本人向けに発出している。そのような中で今回、特に感染が落ち着いている先述の4カ国との往来再開の交渉に踏み切ったことについて、経済活動再開の必要性もさることながら、来年夏に迫った東京オリンピック・パラリンピックを見据えた動きでもあるとの受け止めも聞こえてくる。
ある政府関係者は「来年の五輪でも水際対策が重要になってくるのだから、早い段階でどんどん検疫体制を整備していく必要がある」と話す。
毎日官邸で行われている、安倍首相、菅官房長官、加藤厚生労働大臣、西村経済再生担当大臣らのメンバーによるコロナ連絡会議の話題は、最近になって国内の感染者についてよりも、国外の感染状況についての議論にウエイトが移っているという。
コロナの治療薬やワクチンの開発に向けた動きが世界的に広がってはいるが、一方でコロナの世界的な感染拡大の勢いは衰えを見せていない。そのような状況の中で、政府としては国際的な人の往来再開に向けた舵を切りつつ、来年夏のオリンピック・パラリンピックについて、治療薬やワクチンが普及した後の「アフターコロナ」ではなく、感染拡大を防ぎつつ生活をする社会、すなわち新しい日常の中の「ウィズコロナ」下での開催も想定に入れた調整が進んでいるということかもしれない。
安倍首相は18日の会見の中で「世界のアスリートが最高のコンディションでプレーでき、観客にとっても安全で安心な大会とする、すなわち、完全な形で実施するために、1年程度延期するという意に沿ったものであり、現在もその方針には変わりはない」と述べたが、前回の会見まで使用していた「コロナに完全に打ち勝った証としての東京大会」という表現を避けた。
また、菅官房長官は10日の会見の中で、治療薬やワクチンの開発に至らなかった場合も大会の開催は可能なのかとの質問に対し、ワクチンが果たす役割は大きいとしつつも、「大会の主催者であるIOCや大会組織委員会がワクチン開発を開催の条件とした事実はないと承知している」と述べている。
来年夏の東京大会については費用を最小化し効率化、合理化を進めて簡素な大会を目指すとの方針が決定され、安倍首相がかつて発言した「完全な形での開催」という言葉の受け止めについて様々な意見も出ているが、政府関係者は東京大会の開催について「日本は他の国とは違う。日本は最後まで諦められない。もし日本がそうでなかったら、世界の動きもガラッと変わってしまう。日本の立場は各国の五輪に対する立場とは全く違う」と強調する。
東京大会には世界各国から多くの選手、観客、関係者が日本を訪れることが予想され、コロナの現状を踏まえると、それまでに空港での検疫強化など、受け入れ体制を充実させておくことが必要不可欠となる可能性が高い。日本国内での感染再拡大の防止と、国際的な人の往来の再開という難しい対応の両立をめざす取り組みが始まった中、開幕まで約1年と1カ月に迫った東京オリンピック・パラリンピックを見据えた対応も本格化していく必要がありそうだ。
(フジテレビ政治部 首相官邸担当 亀岡晃伸)