日韓首脳会談のため来日した韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、日本国内の日程を精力的に消化し帰国した。BSフジLIVE「プライムニュース」では、会談への関係国の反応を踏まえ、急速な関係修復に向かう日韓関係の行方を徹底議論した。

福島の処理水放出に理解、若者交流の基金創設など未来志向

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長野美郷キャスター:
尹大統領は日韓議連と会談。次期会長の菅前総理らは、福島第1原発の処理水の海洋放出や水産物の輸入禁止措置について「IAEAを基本に科学的・客観的なことを重要視」との話があったと。

佐藤正久 元外務副大臣:
我々はIAEAの基準に則り、トリチウム水も基準の40分の1以下の数値にしている。韓国や中国の数値が圧倒的に上なのに、一方的に問題にしている。日韓間の大きな課題。

反町理キャスター:
カメラの前で大統領の言葉としては出ていないが。

金玄基(キム・ヒョンキ) 韓国・中央日報 東京総局長:
個人的に韓悳洙(ハン・ドクス)総理から直接聞いたが、尹大統領は「完全に科学に基づいて処理水の問題を解決する」という強い考えを持っている。

長野美郷キャスター:
尹大統領は日韓の経済団体との懇談に参加し、日韓の経済団体それぞれが政治・経済・文化などの分野で共同事業を行う「未来パートナーシップ基金」創設を決めた。「未来世代の交流が盛んになり、相互理解と協力が拡大すれば、両国関係がより強固になる」と発言。

反町理キャスター:
いわゆる徴用工問題から目をそらすための基金だという受けとめは韓国側にないか。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
批判的な人たちがそう主張する。ただ、今回の訪日での尹大統領の2つの目標は「正常化」と「未来」。未来のイメージのため、緊急で基金をつくることになった。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長
金玄基 韓国・中央日報 東京総局長

反町理キャスター:
基金に被告企業といわれる日本製鉄・三菱重工業が入っていない点は。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
入らなくてもいいと思う。未来に向けての事業なのに、歴史の問題を混ぜ混乱させるべきではない。韓国にあるその点への批判は正しくないと思う。

反町理キャスター:
歴史問題を超えるパワーを持つ運動体にまで伸びる可能性は。

佐藤正久 元外務副大臣:
まだ高望みの必要はない。将来に向けた若者交流にはなるだろうが、日韓の大きな交流のバックボーンになるかというと、たぶんそうではないと思う。

韓国政府は謝罪の言葉が欲しいが、岸田首相は「呼応措置」を行わず

長野美郷キャスター:
解決に向け大きく前進したとも見える、いわゆる元徴用工問題。韓国で焦点になっていた「呼応措置」のひとつは岸田総理からのお詫びだが、岸田総理は共同記者会見で「歴代政権の立場を継承」として直接的な形での謝罪は行わず、呼応措置にも具体的な言及はせず。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
呼応措置という言葉は曖昧だが、これは3月6日に韓国政府の外交部で長官が使った言葉。首脳会談は16日。10日間で調整できるわけがない。

反町理キャスター:
1998年、当時の小渕総理・金大中大統領による日韓共同宣言にある「植民地支配により、多大の損害と苦痛」「痛切な反省と心からのお詫び」。岸田総理がそれを言うのが呼応措置というイメージか。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
韓国内で批判的な世論が高まっており、韓国政府は岸田総理が「歴代の政府の談話を継承する」とするなら、その言葉・表現を直接的に言ってほしかった。

佐藤正久 元外務副大臣:
岸田内閣は、今回の問題は韓国側が一方的に作り出しており、まず韓国側で処理すべきというスタンス。言葉にすれば、韓国では間違いなく「岸田が頭を下げた」と切り取り報道される。日本が謝らなくてもいいことを謝る悪弊を繰り返すことになる。未来志向の観点でも絶対によくない。

「保守系からは期待の声、革新系は批判。少し期待できるのは、識者からは高い評価が多い」と金玄基氏
「保守系からは期待の声、革新系は批判。少し期待できるのは、識者からは高い評価が多い」と金玄基氏

長野美郷キャスター:
韓国主要メディアの報じ方は、保守系と革新系の新聞でかなり異なる。総じて肯定的か、批判的か。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
大統領選挙と同様二分されている。保守系からは期待の声、革新系は批判。少し期待できるのは、識者からは高い評価が多いこと。あとは尹大統領が一般国民をどう説得していくか。

互いに酒を持参し飲み交わした“酒豪”の両首脳

反町理キャスター:
岸田総理と尹大統領の「二階建て会合」、平たく言えば「はしご酒」。二軒目を出た際の雰囲気が非常に良く見えた。両者とも非常に酒が強いと聞くが、酒を飲み交わすことで両首脳の距離感がどう縮まったか。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
尹大統領は本当に酒豪で、訪日前からお酒の場を設けるアイデアがあった。「爆弾酒」(韓国で飲まれるビールに焼酎を混ぜたもの)というアイデアが出てボトルを持ち込んだ。韓国焼酎を日本のビールに入れて、韓国と日本が一つになったイメージにして飲みましょうと。岸田さんからも日本のお酒が持ち込まれた。

反町理キャスター:
写真を見ると、これはヱビスビール?

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
尹大統領が大好きなビール。

反町理キャスター:
韓国にもビールはあるが、そう言っていいのか。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
公式には言わないだろうが、もう知られている。

反町理キャスター:
韓国の皆さんはこの場面にどういう印象を?

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
革新支持・保守支持それぞれの批判・擁護は変わらない。だが中道の国民は、距離が近くなったと感じると思う。

韓国に、完全な西側の国として中国に対する覚悟はあるか

長野美郷キャスター:
日本と韓国の安全保障協力。日本政府は「安保対話・次官戦略対話の早期再開」「日韓・日米韓の安全保障協力を推進」「自由で開かれたインド太平洋を実現する重要性を確認」。韓国海軍によるレーダー照射事案やGSOMIAの一方的な破棄決定があったが、韓国への不信感を払拭できるか。

佐藤正久 元外務副大臣:
韓国の国防部に相当プレッシャーがかかる。対話再開にはレーダー照射問題の落とし前をつける必要があるが、韓国の国防部はレーダー照射がなかったという立場。だが、前政権のミスという形にすればある程度話ができる。謝罪が一番いいが、少なくともあったことを韓国側が認めて再発防止を打ち出せば、日本は協議に乗れる。

反町理キャスター:
日本側では大騒ぎだったが、韓国国内や政権内部では深刻さを認識しているか。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
あまりしていない。再発防止を徹底的にという曖昧な言葉で解決するのも案では。国レベルでケンカするものではないと思う。

佐藤正久 元外務副大臣:
全然違う。これは国際法違反。完全武装の駆逐艦が丸腰の哨戒機に火器管制レーダーを当てるのは、軍の世界では大変なこと。少なくともやったことは認めないと進まない。

北朝鮮は対外宣伝サイトで「日本の飼い犬の醜態」と題した風刺画で、尹大統領をこき下ろした
北朝鮮は対外宣伝サイトで「日本の飼い犬の醜態」と題した風刺画で、尹大統領をこき下ろした

長野美郷キャスター:
一方、北朝鮮は日韓の連携が深まることに警戒感を示す。対外宣伝サイトでは「日本の飼い犬の醜態」と題した風刺画で尹大統領をこき下ろした。

佐藤正久 元外務副大臣:
北朝鮮は日韓の接近をすごく嫌がっている。自衛隊が長距離ミサイル保持を明言したときも同様。尹大統領は、日本が反撃能力を持つのはOKだと明言した。日本と韓国が北朝鮮に届くミサイルを持ち情報共有も進むのは、嫌で仕方がない。

佐藤正久 元外務副大臣
佐藤正久 元外務副大臣

反町理キャスター:
日韓・日米韓の安全保障の連携が深くなれば、中国との軍事的な緊張感も高まる可能性がある。経済含め対中関係の悪化に韓国は耐えられるか。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
尹大統領は、日米韓の安保協力関係が中国に対してレバレッジを持つことだという考え。4年間強気でいくと思う。

反町理キャスター:
4月26日に尹大統領はアメリカへ行き、両院合同会議で演説する。中国との緊張感を高めてでも、西側の一員としての責任を果たしていくと話さざるを得ない。覚悟を決める瞬間だと思うが。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
決める瞬間が来るだろうし、決めるべきと思う。

佐藤正久 元外務副大臣:
尹政権になってインド太平洋戦略を作り、台湾海峡の平和と安定について明言している。韓国が台湾海峡を意識して動くのはアメリカにとって大きい。今回の演説でどこまで言及するかは見もの。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
そこまで言う可能性は半分あると思うが、それよりは日米韓の協力体制をもっと強調すると思う。

長野美郷キャスター:
日韓は経済安保協議の立ち上げでも一致。半導体産業は、経済安保分野におけるアメリカの対中戦略の柱。韓国の輸出の屋台骨だが、韓国の中国への依存度が高い。香港向け含め中国向けの輸出が事実上6割を占める。日米側の立ち位置をとれるか。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
逆にメモリー分野の半導体では、中国はサムスンとSKハイニックスから輸入しないと作れない。あまり深刻に心配しなくてよいと個人的には思う。サムスンも2042年までにソウル近郊に大規模な半導体拠点をつくると発表した。

佐藤正久 元外務副大臣:
日米側に来ざるを得ない。韓国は半導体の素材や製造装置については弱く、日本とアメリカが味方でなければ作れない。最先端の半導体は軍事転用が可能なので、アメリカはその点で徹底的に中国を抑え込むと決めた。中国はものすごく反発している。サプライチェーンリスクを下げる努力は、日本も一緒にやらないといけない。

反町理キャスター:
日米韓台の半導体におけるきちっとした流れができていれば、まだ安心して中国と向き合えると。

金玄基 韓国・中央日報 東京総局長:
そう。レアアースの件で日中が対立したとき、日本は東南アジアなど他の国にシフトして補った。今の韓国も同じ。これから4年、シフトの流れが続くと思う。

(BSフジLIVE「プライムニュース」3月17日放送)