2022年4月、石川県金沢市のアパートで赤ちゃんと寝ていた女性が見ず知らずの女に包丁で刺された殺人未遂事件。この事件で逮捕・起訴された女の裁判員裁判が行われ、事件の全貌が明らかになった。

刺された女性は、女の不倫相手の妻だった。殺意を否認しているにもかかわらず保釈された女、それはその不倫相手の子を出産するためだった。

寝ていたら見ず知らずの女に包丁で刺され…裁判員裁判で全容が明らかに

法廷スケッチ:山田朔也
法廷スケッチ:山田朔也
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黒いセーターと黒いズボン。全身黒一色で法廷に現れた被告の女。2022年4月、金沢市のアパートで赤ちゃんと寝ていた女性を包丁で刺して殺そうとしたとして殺人未遂と住居侵入の罪に問われ、2023年1月から金沢地方裁判所で裁判員裁判が始まった。

起訴内容について問われた被告の女は…

被告の女:
「被害者を殺害しようと考えて」というところと「殺意を持って」というところが違います。

と、小さな声で答え、殺すつもりはなかったと起訴内容の一部を否認した。

注目の動機について検察側は冒頭陳述で…

検察側:
被告と被害者の夫は同じ職場で働いていて、1年前から不倫関係にあった。被害者の夫から「妻以外の女性と結婚する気はない」と告げられ嫉妬に似た感情を抱いた。

事件の動機は、被害者の夫との不倫関係のもつれにあった事を明らかにした。その上で、事前に被害者の家の鍵を入手。犯行当日は両手にゴム手袋をはめ、刃渡り約18センチメートルの包丁を所持していた事を明らかにし、計画的な犯行だったと指摘した。

目を覚ますと黒い人影と腹に刺さった包丁が…

裁判では、被害者の女性が証言台に立ち、事件当時の様子を詳細に語った。

事件当日の夕方、女性は夜勤の夫を見送り、午後6時頃、赤ちゃんと入浴するために玄関の鍵を閉めた。午後7時頃、女性は2階の寝室で息子を寝かし付け、そのまま自分も寝てしまったという。そして次に目を覚ました時、感じたのは…

被害者の女性:
太ももの上に誰かが乗っている、右下腹部に細長い物差しのようなものを押し付けられている感覚

最初は夫が帰ってきて、いたずらしているのかなと思ったが右下腹部の違和感は足元へ移り、徐々に激しい痛みへと変わった。女性が見たのはオレンジ色の常夜灯の中に浮かぶ、自分に馬乗りになる黒い人影と自分の腹に刺さる包丁。

命の危険を感じた女性は…

被害者の女性:
ぎゃー!助けて!殺される!

と近所の人に聞こえるほどの大声で叫び、その声で隣で寝ていた赤ちゃんも目を覚まし泣き出した。

被告の女は顔の位置まで包丁を振り上げるとさらに強い力で全体重をかけるように左下腹部を刺した。女性は「内臓まで刃先が届くのではないか」そんな激しい痛みの中で女性は「警察に通報しなければ」「赤ちゃんを守らないと」と思ったと言う。

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女性はそばにあった毛布で包丁を持つ被告の手をぐるぐる巻にすると、被告の女はこう言った。

被告の女:
離して、赤ちゃん泣いとるよ。

怒ったように冷たい口調で淡々と話す女。

「携帯を渡さなければ、赤ちゃんに危害を加えられるかもしれない」。そう思った女性は「何もしませんか」と女に声をかけ、「しない」という女に半信半疑ながらも手を離し、赤ちゃんを抱き上げた。

被害者の女性:
誰ですか?

被告の女:
あんたは知らなくていい。

被害者の女性:
なんでこんなことをするんですか

被告の女:
殺したいから

被害者の女性:
なんでもするから殺さないで

こう被害者の女性がお願いすると、被告の女は次のようにこたえたと言う。

被告の女:
じゃあ死んで

駆けつけた警察に「知り合いで、忘れ物を渡しに来ただけ」

事件発生当時の現場
事件発生当時の現場

身体のところどころから血を流す女性が救急車を呼んでほしいと頼んでも女は「ダメに決まっとるやろ」と聞き入れることなく、「今まで悪いことしたことないのになんでこんなことされないといけないの」と言うと女は「あんたが生きとること自体ダメやからや」と言い放ったと言う。

同じ部屋に包丁を持った、明らかに自分に殺意を持っている女がいることに恐怖した被害者の女性。その恐怖から逃れようと「今なら逃げられるからどっか行って」と言ったが女は「あんたが死んだらね」と包丁を向けたままどこへ行く様子もなく座っていたという。

被害者の女性:
(私が死ぬまで待っているんだ)

そう思った被害者の女性は「息子を泣き止ませるために授乳させてほしい」と頼んだ。授乳は許可されたが、「これが息子にしてやれる最後のことかもしれない」と思った。

女性と女が話しはじめて5分程、外から「現場に到着しました」という警察の声。女性は窓を叩いて「助けてください!殺されます!2階です!」と叫んだ。

駆けつけた警察に対し女は次のように答えた。

被告の女:
知り合いで、忘れ物を渡しにきただけです。

「さっきまで私を殺そうとして刺してきたのに」そう怒りを感じた女性は「刺されました」と腹部を見せると、女は「刺していない、私が来たらもう血で濡れていた」と話した。

女はその際、包丁を手に持っておらず、警察が部屋の中を探すと女性が寝ていたマットレスの下から見つかった。

女性の体から包丁の刃先…少しでもずれていたら

女は逮捕、女性は病院に搬送されたが、女性の身体からは2.7センチほどの包丁の刃先が発見された。女が女性の背中を刺した際に包丁が肋骨に当たって折れ、刃先が女性の体内に残っていたのだ。

女性を診察した医師によれば、肋骨に包丁が当たらず少しでもずれていれば、肋骨の隙間から肺などを傷付けていた危険があったという。

事件後、知らない人に殺される夢をよく見るようになったという被害者の女性。

動機が自分の夫との不倫から発展したことがわかりショックを受けたが、今も夫とは夫婦関係が続いていて夫は育児や家事に積極的になったという。

不倫相手の被害者の夫「しかるべき処罰を」

裁判員裁判4日目。法廷に立ったのは、被告の女と不倫関係にあった被害者の夫だ。

証言によると、不倫関係になったのは2021年の5月から6月頃。「好きだ」と伝えたのは被害者の夫からだったという。

しかし、当時、妻のお腹には赤ちゃんがいた。検察からなぜ妻以外の女性と関係を持ってしまったのかと問われると…

被害者の夫:
当時妻と上手くいっておらず感情が抑えらえなかった。副業で使っている機器を妻が壊してしまって精神的に参っていて冷静な判断ができなかった

その上で「今回の事件のきっかけは自分と被告との不倫があるのかなと思うので妻や自分の子ども、被告の家族に対して申し訳ない」、ただ被告の女に対しては「正直、怒りの気持ちがある。しかるべき処罰をお願いします」と述べていた。

一方、弁護側は…

弁護士:
あなたは被告について私の性欲を満たしてくれる人と話しませんでしたか?

被害者の夫:
ちょっと…記憶にないです。覚えてないけど調書にそう書いてあるのならそうだったと思います。…記憶はないけど。

と言い淀んだ。

夫の証言や警察の調書によると2人は週に3回ほど、勤務先の施設内で関係を持っていた。事件発生日の8日前、被害者の夫は被告の女に「2人とも幸せになろう」、事件3日前には、「ミー(被告)と付き合う運命や」というLINEを送っていたと言う。

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犯行時は妊娠中だった被告…殺意はなかったとくり返す

被告の女は被害者の夫との子供を2度妊娠していた

。1度目は2021年8月。しかしその赤ちゃんが生まれてくることはなく、女は2021年9月に流産。その後も不倫関係は続き、女は2022年2月再び妊娠。お腹に命を宿したまま今回の犯行に及んでいたのだ。

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逮捕・起訴後、女は保釈され、その子供を出産。

後に法廷に立った女の元夫は「保釈金は自分の金や被告の父、姉からも集め、足りない分は金融機関から借金もした。(自分と被告との)子供に会わせたい一心だった。被告は出産したが、自分は実の父ではない。だが戸籍上は父になっている。自分の子供として育てていく」と話した。

裁判員裁判5日目。被告人質問で女は「殺そうとしたのではなく傷つけようと思っただけ」と改めて殺意を否認した。理由は被害者が血を流しているのを見てこれ以上はしなくていいと包丁を床に置いたと言う。

被告の女:
不倫関係にあった被害者の夫が「自分の子どもが一番大事だ」と話していた。「妻は自分に干渉してこないから楽だけど、私はめんどくさい」と言われ自分は大事にされていないと感じた。2022年2月ごろからLINEの回数が減り、明らかに妻にバレたくないんだというのが分かった、私のことも、私が妊娠したことについても大事に思っていないんだなと思った。

動機についてこのように答えた被告。被害者の女性をうらやましく思って犯行に及んだと説明した。

被害者の家には会社で拾った鍵を返しに行こうと思ったと話す女。

鍵について被害者の夫は「事件の2週間ほど前に勤務先でなくした。家の鍵は車の鍵やキーホルダーなどと一緒に束ねていて、勤務先の駐車場で見つかったが、家の鍵だけがなくなっている状態で自分の車の運転席付近に落ちていた」と証言している。

また、事件当日、被害者の家の近くのコンビニに停められていた女の車からは、被害者の夫がLINEで女に送ったものと同じ、被害者家族3人が映った写真が見つかっている。見つかった写真は、被害者の女性とその子供の顔が黒く塗りつぶされ、「死ね」と書かれていた。

しかし、女は「そんな写真は知らないし、自分が書いたものではない」と否認。また、被害者を刺す前にやめようとも思ったが、気が付いたら寝室の中に入っていて刺していたと話し、なぜ包丁を持って行ったかや、被害者を刺しながら「殺したい」「死んで」と言ったことなどは当時の記憶があいまいで覚えていないと話した。

不倫相手の被害者の夫に対しては「家族を傷つけてしまったことは大変申し訳ないと思っているが、もう好きとか嫌いとかの感情はありません。」と話していた。

そして迎えた論告求刑公判。被害者が再び法廷に立った。

被害者の女性:
事件当日のことについて覚えていないと言っていますが、私は忘れたことはありません。犯行を中止したってなんですか?流産して辛かったと泣いていたけど、泣きたいのは私のほうです。

その上で、「被告には反省している様子がない、一日も長く刑に服してほしい」と訴えた。

検察は「女が自宅から包丁を持ち出した時点で殺意があったことは明らかだ。犯行中に殺したいからなどと被害者の死を望む言動をしていたことで、傷つけたかっただけという被告の弁解は信用できず、犯罪を中止する意志もなかった」として懲役10年を求刑。

一方、弁護側は「被告はその気になれば被害者を殺すこともできたが途中で刺すのをやめている。殺したいなどと言ったことを被告が否定している。被告にはまだ幼い子どもがいる」として執行猶予付きの判決を求めた。

被告の女は最後に…

被告の女:
被害者に対して痛い思い、苦しい思いをさせてしまったことを大変申し訳なく思っています。被害者の家族、自分の家族に大変迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思っています。

とか細い声で話していた。

そして開かれた判決公判。

金沢地裁 野村充裁判長:
主文、被告人を懲役8年に処する。

金沢地裁の野村充裁判長は「被告は被害者の家の鍵を事前に入手するなどその犯行は計画的で、包丁の刃先が折れるほどの力で突き刺しただけでなく、「殺したいから」などと被害者の死を望む言動をしていたことから、被告人に殺意があったと認められる。被害者に対するうらやましさや嫉妬の気持ちの延長から殺害しようとしたのは誠に身勝手だ」と非難した。

一方で、被害者に200万円の賠償金を支払っていることなどは考慮できるとして求刑よりも2年短い懲役8年の判決を下した。

ジッと前を見つめて動かずに判決を聞いていた女。「本当の事を話したい」そう話していた女だったが、法廷でその真実は語られたのだろうか。

判決公判で法廷に向かう被告
判決公判で法廷に向かう被告

判決の日、女が口にしたのは裁判長の呼びかけに対する「はい」の2文字だけだった。

(石川テレビ)

石川テレビ
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