傷が付いたレモン。不ぞろいのイチゴ。不格好なニンジン…。味に自信のある野菜や果物も「規格外」になると、なかなか販売できない。それらを無駄にせず、農家の人たちの努力を生かそうと活動するママを取材した。

廃棄される農作物をジャムに

大きな鍋でぐつぐつぐつ。生クリームとてんさい糖を加えてじっくり煮詰め、カボチャのジャムを作る中村真三子さん。

糸おやつのみせ・中村真三子さん:
無農薬の「くりまさる」っていう品種のカボチャです。“栗に勝る”ほど甘いっていう。農家さんも土づくりからすごく力を入れて育てていらっしゃるので、そこを無駄にしないように

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濃厚なカボチャのうまみが凝縮され、ほどよい甘さが口の中に広がる「くりまさるのプレミアムクリーム」が完成した。

その他にも、さつまいも、ナス、トマトなど“廃棄される野菜や果物”をジャムに変え、インターネットなどで販売。保存料や添加物を使わず、素材本来の味を大切にしている。

廃棄される野菜で作ったジャム
廃棄される野菜で作ったジャム

もともとは京都のホテルで働いていた中村さん。

結婚後、2児の母になり、子どもが通う保育園で“食の大切さ”を学んだという。

糸おやつのみせ・中村真三子さん:
安心安全に食べられることが体に一番影響します。 一つ一つの調味料や食べ物によって体は作られていて、性格までも変えてしまうと保育園で教わったので、口に入れるものを大事にしていこうと思います

中村真三子さんと2人の子ども
中村真三子さんと2人の子ども

“農家の人が見える”商品づくり

“食の大切さ”を知った中村さんは、手作りの焼き菓子などをイベントで販売するようになった。転機となったのは、イベントで直売する農家の人たちとの出会いだった。中村さんのジャムを食べた農家の人たちが次々にジャムづくりを依頼してきたのだ。

広島市中区のイベントに出店した中村さん(左)と生産者
広島市中区のイベントに出店した中村さん(左)と生産者

こうした生産者の思いを受けて、2021年11月から“廃棄される農作物”を生かしたジャムづくりが本格的にスタートした。ジャムの素材となるのは、豊作でできすぎた果物や形の悪い野菜など、どれも丹精込めて作られたものばかり。

イベントで販売される規格外のニンジン
イベントで販売される規格外のニンジン

中村さんのジャムは手製の包装紙でくるまれ、種類によってデザインが異なる。生産者の個性が見えるように工夫されているのだ。例えば、ニンジンのジャムの商品名は「しもみん農場 恋人参の恋するJAM」。ニンジン模様の包装紙にかわいいイラストが描かれている。

糸おやつのみせ・中村真三子さん:
商品に農家さんの名前も一緒に出しているので、農家さんが大切に育ててこられたその素材を生かせるようなジャムづくりを心がけています

生産者の個性や素材の味にこだわったジャム
生産者の個性や素材の味にこだわったジャム

訳ありレモンのジャムが品評会で受賞

この日、中村さんが訪れたのは、三原市でレモンなどの柑橘類を育てる「奥八農園」。

奥八農園の奥田高宏さんは脱サラして農業に就き、農薬をあまり使わない方法で栽培している。

奥八農園・奥田高宏さん:
これをジャムにしてほしい。ちょっと見た目が悪くてどうしたらいいかなと思っていて

奥田さんが抱えてきたダンボール箱の中には、ところどころ黒ずんだレモンや、デコボコのレモンがぎっしり。規格外のレモン1つ取り出して、大きくてきれいな出荷用のレモンと比べて見せた。

左が出荷用のレモンで、右が規格外のレモン
左が出荷用のレモンで、右が規格外のレモン

糸おやつのみせ・中村真三子さん:
まったく問題ないです。大丈夫です

奥八農園・奥田高宏さん:
規格外のレモンは「訳あり品」として安く出してもらったりしているんですけども、量が多くなるとどうしても販売が難しい

妻・奥田和佳さん:
1年間かけて育てたものなので、捨てるとなると心苦しい。それが付加価値のある商品になって、お客様の元に届けられるというのはすごくありがたいし、生産者としてうれしいです

奥八農園のレモンは、バニラビーンズを加えたジャムにして販売されている。商品は好評で、2022年、品評会に出品。「世界マーマレードアワード日本大会」プロの部で銅賞を受賞した。

生産者と二人三脚で新作に挑む

中村さんは、次なる新作に取り組んでいる。ジャムづくりを依頼された食材は…

東広島市豊栄町の名産品「吉原ごぼう」
東広島市豊栄町の名産品「吉原ごぼう」

東広島市豊栄町の吉原地区で作られる「吉原ごぼう」。太く大きく柔らかい、香り豊かなごぼうだ。

糸おやつのみせ・中村真三子さん:
ごぼうだけのジャムってちょっと勇気がいるなと思って

ごぼうの風味や特徴をどう生かすか。小さく角切りにしたごぼうを砂糖で煮詰めてグラッセにし、チョコレートやブルーベリーを加えて試行錯誤。

新作「ごぼうのジャム」を試作中の中村さん
新作「ごぼうのジャム」を試作中の中村さん

1月下旬、広島市中区で生産者を交えた試食会を行った。チョコレートやごぼうの配合を変えた数パターンのジャムを用意し、触感や風味をチェックしてもらう。

生産者を交えて「ごぼうジャム」の試食会
生産者を交えて「ごぼうジャム」の試食会

全員で試作品を味わい、そのうちの1人がこう切り出した。「みんな、もっとごぼうの味や香りがほしいってことなんでしょ?」。どうすれば、さらに良いジャムになるか…議論は長時間続いた。

吉原ごぼうの生産者・川崎理恵さん:
ごぼうが形のある状態で入っているのは面白い。ジャムになると「吉原ごぼう」を多くの方に知っていただける機会ができるかなと思って、楽しみにしています

糸おやつのみせ・中村真三子さん:
新しいアイデアをいただいたので、もう一回、試してみます

その後も試作を重ね、18種類目のジャムとなる「ごぼうショコラ」が間もなく完成する。

18種類目は吉原ごぼうを使った「ごぼうショコラ」
18種類目は吉原ごぼうを使った「ごぼうショコラ」

素材の味を生かすジャム作りに挑み続ける中村さん。廃棄される食材をなくすとともに、もう一つ夢がある。

糸おやつのみせ・中村真三子さん:
私のジャムは、ほぼ全種類「広島のものを使ったジャム」なんですね。広島の野菜や果実を使ったジャムを、日本全国に届けられたらいい。そのことによって農家さんの価値も上がるし、ジャムを食べることでその農家さんに興味をもってもらえたら素敵なことかなと思います

糸おやつのみせ・中村真三子さん
糸おやつのみせ・中村真三子さん

規格外の農作物を生かすSDGsの取り組み。やさしい甘さのジャムには、環境への配慮だけでなく、生産者への思いやリと“食を大切にする温かさ”があふれている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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