会長不在続く党内最大派閥
憲政史上歴代最長となる政権を築いた安倍元首相が凶弾に倒れ死去してからまもなく半年を迎える。安倍氏が会長を務めた党内最大派閥の安倍派(清和政策研究会)は、会長の不在が長期化している。
この記事の画像(6枚)2022年10月には、安倍氏の「国葬」「県民葬」を終えたタイミングで、安倍派は新体制を模索したものの先送りになった。派内の主導権争いとも相まって、生前の安倍氏が掲げた政策を巡り安倍派内で議論が活発化している。一方、安倍氏の実弟で保守派を代表する議員の一人の岸信夫首相補佐官が政界引退の意向を示すなど安倍派にとって苦難は続く。
“遺志”掲げて強硬に反対
2022年12月。安倍氏の「遺言」ともいえる現行の1.6倍となる“5年間で総額43兆円”の防衛費増額を実現した岸田政権。しかし、増額で新たに必要になる財源について、4分の1の約1兆円強を“増税でまかなう”よう岸田首相が指示すると、取りまとめまでわずか1週間という短期決戦に、党内では「拙速すぎる」と反発の声が広がった。特に、安倍派の一部は、安倍氏の“遺志”を掲げ、強硬に反対の声を上げた。
一方、税制改正大綱を取りまとめる自民党税制調査会の幹部には、安倍派から小委員長に塩谷元文科相、さらに幹部に福田達夫前総務会長が入り、安倍派は増税を巡って「税調執行部」と「反対派」に分かれる形になった。最終的には、法人税・タバコ税に加え「防衛所得税」ともいえる新税の3つによる“防衛増税”の大枠を決める一方で、増税開始は「2024年以降の適切な時期に」として時期を明示せず、賛成派・反対派両者の顔が立つ形での決着となった。
2023年が「主戦場」“安倍派”の一部 徹底抗戦も
2023年について、ある安倍派議員は「防衛費の財源確保に関する法律が通常国会に提出されれば、反対派は断固阻止する構えだ」と語っていて、年明けから安倍派内の防衛増税反対派が徹底抗戦を行う可能性がある。
さらに、例年6月ごろに、政府がまとめる「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる「骨太の方針」では、財政健全化を掲げるPB=プライマリーバランスの黒字化目標の記述を巡り、派内には「積極財政に逆行するから記述を盛り込むことに断固反対」との声があがる。一方で、政権幹部は「黒字化目標の旗を立てておくことが諸外国への財政的な信頼になる」と堅持する考えを示すなど、再び激論になりそうだ。
また、防衛増税の導入時期について、2023年の自民党税調で議論することになるが、安倍派の閣僚経験者は「議論の主戦場は今年。昨年の比じゃない。もっと激しい議論になる」と語るほか「経済が上向かなければ増税なんてできるはずがない」との声も出ていて、再び激しい抵抗が予想される。
一方、かつて安倍派に所属した高市経済安保相は閣内から「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信された総理の真意が理解できない」とツイートし、防衛増税に難色を示した。高市氏が再び閣内から声を上げるのかにも注目が集まる。ある安倍派幹部は「安倍派は主張し、議論を戦わせることで派閥の求心力にもつながる」と語る。
政局のキーマンは松野官房長官と萩生田政調会長
増税を巡り安倍派内部から再び反対の声があがることが予想される中で、安倍派のキーマンは誰になるのか。
一人目は岸田政権の番頭役を務める松野官房長官だ。12月の防衛増税の財源を巡る議論では、増税に反対する議員を多く抱える安倍派に対し、政権幹部は「安倍派議員が主張を強め、取りまとめを阻止すれば、それは“安倍派発の政局”ということになる」と危機感を露わにしていた。
こうした状況の中で、松野氏は、党の萩生田政調会長と連係し、反撃能力などを初めて明記した防衛3文書を閣議決定する12月16日まで、わずか一週間という短い期間の中で、“防衛増税”の大枠の取りまとめにこぎ着けて着地させた。
もう一人のキーマンは安倍氏の最側近だった萩生田氏。12月には台湾を訪問し蔡英文総統と会談するなどしていて、保守層を中心に安倍氏を慕ってきた派内の若手議員の中で支持を広げつつある。萩生田氏は、防衛費増額にともなう財源確保を巡り、税以外の約3兆円の歳出改革や税外収入の活用について協議する場を党に設置する考えを示している。
松野氏が、内閣改造で閣外に出て安倍派の執行部に入った場合、派閥内のパワーバランスはどう変化するのか。また、萩生田氏がどのように動くのか。党内最大派閥の安倍派の動向は岸田政権に大きな影響を与えることになるだけに注目が集まる。
フジテレビ政治部