私たちの税金のしくみを見直す議論が山場に差し掛かっている。中でも、大きな焦点となっているのが車をめぐる税金だ。

政府が、新車販売での電動車の比率を 2035年に100%にすることを目標に掲げるなか、環境にやさしい車を減税で後押しするしくみをどうしていくのか、自民・公明両党での議論が佳境を迎えている。

「エコカー減税」は現行基準を一定期間据え置きへ

自動車は、買ったときや持っているときには「自動車税」が、利用にあたり車検を受ける際には「自動車重量税」がかかるが、環境性能の高い車は税金がかからなくなったり、軽くなったりしている。

自動車税のうち、購入のタイミングで課される税金は「環境性能割」と呼ばれ、2030年度燃費基準を60%達成していない場合などは3%の税率が適用されるが、60%達成すれば税率は2%、75%達成で1%に低減され、85%を達成した場合や、EV=電気自動車や燃料電池・プラグインハイブリッド車などは非課税だ。

保有しているとかかる税金は「種別割」と呼ばれ、「グリーン化特例」と言われるしくみにより、EVなどは、取得した翌年度の税率が75%軽減されている。

環境性能の高い車は税金がかからなくなったり、軽くなったりしている
環境性能の高い車は税金がかからなくなったり、軽くなったりしている
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車検のとき、重量に応じ課される自動車重量税には、「エコカー減税」と呼ばれる制度があり、EV・燃料電池・プラグインハイブリッド車などや、2030年度燃費基準を120%達成した車は初回と2回目の2回分の車検が免税になっているほか、90%達成だと初回車検が免税、75%達成で初回車検の税金が半分になるなどしている。

こうした措置は、環境にやさしい車の普及を応援するのが目的だが、自動車税は2年に1度見直されることになっているほか、重量税の「エコカー減税」は来年4月末に、期限が到来する。今回の見直しでは、より環境性能の高い車を行き渡らせようと、一部で基準を引き上げることが検討されている。

ただ、半導体不足などで納期が遅れている影響が続くなか、「エコカー減税」ではいまの基準は、一定期間据え置かれることになりそうだ。

ガソリン税かからないEV課税をどうするか

今後の方向性を考えるうえで焦点となってくるのが、EV=電気自動車だ。

車の燃費性能が向上するなか、自動車に関連する税金の税収は、この15年間で1.7兆円減ってきているが、EVは、自動車税や自動車重量税が優遇されているほか、ガソリンを使わないため、ガソリンを入れるときに払うガソリン税もかからない。

自動車関連の税収5.9兆円のうち、ガソリン税は2.3兆円と大きな部分を占めていて、政府が「2035年までに新車販売でのEVを含む電動車の 比率を100%にする」目標を掲げるなか、ガソリンを使わないEVが普及していけば税収の減少がさらに進むことになる。

ガソリン税を負担していないが、ガソリン車と同じように道路を使うEVへの課税をどう考えるべきかが大きなポイントになる。

「走行距離課税」に強い反発 「モーター出力課税」浮上

そんななか、浮上したのが 「走行距離に応じて」課税するやり方だ。

走れば走った分だけ税金をかける方法について、10月の政府の税制調査会で、ある委員から「真剣に考える時期にある」との意見が示された。

これに対し、自動車業界などからは「車が必需品で、走行距離が長い地方に住んでいる人の負担が増す」などと反発の声が相次ぎ、岸田首相は「政府として具体的に検討しているわけではないが、議論については注視していきたい」と述べている。

走行距離課税の導入の是非は、今後の宿題になりそうだが、自動車に関する税金を所管する2つの省のうち、地方分を受け持つ総務省は、「EVへの新たな課税方法として、モーターの出力に応じて税金をかけるという考え方もある」としている。

車を持っているときの自動車税「種別割」は、総排気量に応じて税金がかかるしくみだが、排気のないEVは最低税率となっていて、このやり方を改めて、EVへの課税を強化したい考えだ。

国の税金を所管する財務省は「今はEVの普及を後押ししている途中だが、普及した段階では、適正な負担を求めていくべきではないか」と主張している。

こうした動きに対し、自動車業界は「日本は海外に比べ、車にかかる税負担がもともと重い。新しい時代にあった税体系に根本的に見直すべきだ」と反論している。

自民党での議論をとりしきる宮沢税制調査会会長は、8日の議論のあと、記者団に対し、「自動車産業は大事な産業なので、あまり(減税の)基準を 切り上げないでほしいという話がある一方、 地方の大事な税収といったものについて配慮していかなければならないという話もあった」と述べ、自動車産業の発展とともに、税収の確保にも目配せする必要があるとの認識をにじませた。

新たな時代への税議論 深められるか

電動化や自動運転など最新技術が進展する一方で、 車の税金のしくみは、以前からの制度を引きづって、複雑なままで、課税の根拠や目的がわかりにくくなってきているとの声は強い。

脱炭素の流れが加速し、車をめぐる環境が大きく変わりつつあるなか、 新たな時代に即した税のあり方に向けた議論を深めることができるのか、協議は大詰めを迎えている。

(執筆:フジテレビ 経済部長兼解説委員 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員