「名医のいる相談室」 医療の正しい知識を有する名医たちが、健康に関するお悩みを解説。

今回は消化管内科の専門医、大阪国際がんセンター 消化管内科の石原立(いしはら・りゅう)医師が、アルコールが一番のリスクとなる「食道がん」について徹底解説。食道がんになりやすいタイプや、がんのステージで異なる症状や治療法について解説する。

この記事の画像(9枚)

食道がんとは

まず食道について説明します。

食道というのは、喉と胃をつなぐ管状の臓器で、長さが25cmぐらいあります。そこに発生するがんが食道がんと呼ばれています。

食道がんになりやすい人

食道がん自体は60歳以上の方、特に男性に多い病気です。男性が約8割を占めますが、これはおそらく、男性の方がアルコールやタバコなど、食道がんのリスクであるものを嗜まれやすいからだと考えられます。

食道がんの2つのタイプ

食道がんには、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと、腺(せん)がんの2つのタイプがあります。扁平上皮がんが全体の約9割、腺がんが約1割弱を占めます。

食道がんのステージと症状

食道がんのステージは、ステージ0に加えて、ステージ1~4があり、全部で5つということになります。

ステージ0で、内視鏡の手術などで治るようながんに関しては、もうほぼ症状がない状態です。ですので症状に基づいてがんを発見するというのは難しく、たまたま受けられた内視鏡検査とか、そういう検査で見つかることが多いです。

ステージ1のがんでは、症状がないことが多いんですが、食事をした後に軽く胸のあたりがしみたりとか、軽い痛みがある。あるいは食事の引っかかりがある。そういった症状が出ることがあるのが、ステージ1のがんです。

ステージ2~3のがんになってきますと、がんが食道の中でかなり大きくなってきますので、それに伴う症状が出てきます。例えば食事が詰まったり、食道の胸の痛みといった症状が出てきます。あとステージ2~3では、食道の周りのリンパなどにも転移を起こすので、首の付け根のところにしこりを触れたりといった症状が出てくることがあります。

ステージ4になってくると、食道がんが周りの臓器に広がっていったりとか、転移をきたしてきます。それに伴って、例えば咳が出たり血痰が出たり、肝臓に転移をすると全身倦怠感が出たり、がんの広がりに伴って痩せたり、といった症状が出てきます。

食道がんの原因

食道がんの一番大きな原因は、アルコールです。

次に喫煙です。

続いて、食道がんへの寄与度は低いのですが、極端な野菜不足・極端な果物不足、あとは極端に熱いものを食べることもあげられます。

一般的には60℃以上と言われているので、かなり熱いものですけれども、そういうものを飲まれると、食道がんに少しなりやすくなると言われています。

やっぱり一番大事なのはアルコールと喫煙で、多量のアルコール、あるいは多量の喫煙が食道がんの原因になります。

あとは、アルコールの代謝です。体質とも関係していて、少量のアルコールを飲んだだけでパッと顔が赤くなる方は、基本的にはアルコールに弱い体質なので、そういう方が多量に飲まれた場合は、通常の方よりも5倍・10倍という感じで、危険性が高くなります。

食道がんの検査方法

比較的初期段階の食道がんを見つけようと思うと、食道自体を直接検査する検査が必要です。
例えば内視鏡検査バリウム検査などが必要になってきます。

バリウム検査であれば、ステージ1程度のがんであれば十分見つかり得ると思います。しかしステージ0、つまり一番初期段階の食道がんを見つけようと思うと、やはり内視鏡検査を受けていただく必要があります。

この中で、がんが少し進行したようなステージ2~3の段階になってきますと、それ以外の検査、CT検査MRI検査などで見つかることがあります。こういった検査で見つかるのは、少し進行したがんということになります。

初期段階でがんを見つけると、がん自体が治りやすいですし、体に負担が少ない治療で治すことができます。

ですから症状がない段階でも、ご自身がアルコールをいっぱい飲むとか、少量のアルコールでパッと顔が赤くなる=アルコールに弱い体質であるとか、タバコを吸われるという方は食道がんにになりやすいので、症状がなくても人間ドックや検診で、しっかり内視鏡検査を受けていただく方がいいと思います。

食道がんの治療法

これもステージと関連付けてお話しします。

まずステージ0の食道がん、この段階では、がんが食道だけに限局していて、周りには広がってない状態です。ですから食道の内側からがんを切り取る方法で完治します。内側からがんを切り取る方法というのは、いわゆる内視鏡治療(内視鏡切除)と言われる手術で、ESDとかEMRという技術が日本では普及しています。

続いてステージ1~3の食道がんは、食道の中にがんがあるんだけれども少し進行している、あるいは周りのリンパ節などに転移をきたしているような状態です。このような状態では、内視鏡だけでは治せないので、もう少し体に負担がある治療が必要になってきます。具体的には外科手術と、あとは抗がん剤・放射線の併用療法。この2つの選択肢があります。

外科手術の場合は、食道のほぼ全体を取ります。あとは、食道の周りには通常リンパがあり、そこに広がっていることがあるので、周りの組織も含めて取り去るという手術になります。

抗がん剤と放射線の場合は、放射線を食道およびその周りに照射します。それでがんをつぶすんですが、放射線よりも、それに抗がん剤を併用する方が、放射線の効果が高まるというのがわかっていますので、通常は両者を併用して行います。

外科手術と、抗がん剤・放射線のすみ分けですが、外科手術の方が“がんを治す力が強いけれども、体の負担が少し大きな治療”で、抗がん剤と放射線の治療の方が“体の負担が少し少ないんだけれども、がんを治す力が少し落ちる”

このあたりは単純に、治療効果とかそういうのだけでは治療法を決められるものではないです。患者さんが優先するもの…、少しでも治る確率高いものを優先するのか、あるいは少しでも体がに負担が少ないのを優先するのかで、具体的な治療が異なってきます。

ですので、よく主治医と相談する必要があると思います。

ステージ4に関してですが、これは、がんが食道から周りの遠くの臓器…肺や肝臓などに転移しているものです。このような状態では、がんを手術で全部取り切ったりとか、放射線で全部つぶしたりというのはなかなかできません。ですので、お薬が全身に行き渡るような治療を受けていただく必要があります。

具体的には抗がん剤を点滴で打ち、全身に行き渡らせて、その効果を期待するという治療法。あとはいわゆる自分の免疫を高めて、がんをつぶす治療法が選択されることになります。

ただ免疫治療に関しては本当にいろんな治療法がありまして、それらが全て効くというわけではありません

一般の診療として、食道がんに効果的であるということがわかってるんですけれども、その他の免疫療法に関しては必ずしも効果的だと確認されてないような治療法もあります。ですのでそのあたりは、しっかり主治医に確認していただく方がいいと思います。

石原 立
石原 立

大阪国際がんセンター副院長 臨床研究管理センター所長
1992年3月 大阪大学医学部卒業
1992年6月 大阪大学医学部附属病院第二内科、研修医
1993年6月 住友病院内科勤務
1996年6月 市立豊中病院内科
1998年6月 大阪府立成人病センター消化器内科
2008年6月 大阪府立成人病センター消化管内科部長
2017年3月 大阪国際がんセンター消化管内科部長
2018年4月 岡山大学客員教授兼務
2020年4月 大阪国際がんセンター内視鏡センター長
2022年4月 大阪国際がんセンター副院長 臨床研究管理センター所長
食道癌ESD/EMRガイドライン作成委員長
食道癌ガイドライン作成委員
ISDE guideline committee member
拡大内視鏡による食道表在癌深達度診断基準作成委員
Barrett食道腺癌に対する日本食道学会拡大内視鏡分類作成委員
消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン作成委員