特定少年の19歳に有罪判決 危険運転致死傷は適用されず

「みんなが盛り上がった雰囲気を壊したくない」。半年前に免許を取得したばかりの当時18歳の男は、そんな思いから、アクセルを“べた踏み”にした。

高校時代の同級生などとバーベキューを楽しみ、打ち上げ花火の買い出しのため乗り込んだのは、祖父から譲り受けたハイブリッド車。友人やその家族の人生を一変させることになるドライブの始まりだった。

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匿名で進められた、福島県内では初めてとなる特定少年の裁判。時速157kmの暴走運転の末、同乗していた友人の命を奪うなど、5人を死傷させた事故。危険運転致死傷は適用されず、過失運転致死傷の罪で起訴された。

ネクタイにスーツ姿で法廷に現れた専門学校生の男が語った言葉は…。
福島地方裁判所いわき支部で開かれた全2回の公判を、福島テレビの記者が傍聴した。

取材を担当した福島テレビ・阿部加奈子記者
取材を担当した福島テレビ・阿部加奈子記者

事故があったのは、2021年7月24日午後10時すぎ。福島・いわき市小名浜の県道で、片側2車線の見通しの良い、ゆるやかなカーブ付近。時速157kmで暴走したその車は、左カーブを曲がり切れず、中央分離帯の縁石や橋の欄干に激突した。単独事故だった。

この事故で、いわき市の会社員・内山裕斗さん(当時18)が死亡。3人が重傷、1人が軽傷。運転していた当時18歳の被告も重傷を負ったが、命に別状はなかった。

乗っていたのは、高校時代の同級生など16~18歳の男女6人。
夕方から海岸でバーベキューを楽しんだあと、打ち上げ花火の買い出しに行こうと近くの商業施設に向かう途中で、車の定員5人だったが、1人はトランクに乗っていた。
「みんなの盛り上がった雰囲気を壊したくなかった」
被告は出発後、県道に出るとスピードをあげ、車数台を次々と追い越す。車内には「ヤバイ」や「ヒュー」という声も上がり、スリルを楽しむ雰囲気が少なからずあったという。

「こいつ160kmも出してんだけど!」「あぶない」
そんな声も上がり始めたそのとき、左カーブで曲がり切れず、中央分離帯などに激突した。
6人を乗せた車は、橋の欄干がフロントガラスから後ろの窓を貫き、突き刺さって止まった。

“暴走運転”事故の原因は…過失?

被告は、事故から半年以上たった2022年3月、「危険運転致死傷」の容疑で逮捕された。捜査関係者によると、事故直後から慎重に捜査が進められていたという。
自動車がカーブに沿って走行することができる最高速度(限界旋回速度)の検証や、事故前後の車の挙動が記録されているイベントデータレコーダー(EDR)の解析、専門家による鑑定など、「危険運転」での立件に向けて、証拠を積み重ねたうえでの逮捕だった。

しかしその後、福島地検いわき支部は、「過失運転致死傷」に容疑を切り替え、家庭裁判所に送致。2022年4月に、家裁は「刑事処分が相当」だとして、地検に送り返す処分をしたのち、「過失運転致死傷」で地検が起訴した。

危険運転致死傷罪に該当する運転の1つに、「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」がある。裁判で出された証拠の中には、事故現場となった左カーブの限界旋回速度は時速137kmとの検証結果が出ている。

一方、起訴状には「時速157kmの高速度で進行したうえ、左方をわき見して前方を注視せず、かつハンドル・ブレーキを的確に操作しないで進行した過失により…」とある。
つまり事故の原因は、高速度での走行のよるものではなく、“わき見”をした過失によるものだと地検は判断した。
これについて、福島地検は「複合的な原因で事故は起きるが、今回の事故の主たる原因は、わき見と認定せざるを得ないのではないかと。危険運転致死傷での立証は難しく、過失運転致死傷のほうで主張・立証を行うべきと判断した」とコメントしている。

危険運転致死罪の法定刑の上限は、懲役20年。対して過失運転致死傷は、懲役7年。危険運転致死罪では、裁判員裁判の対象事件となるが、過失運転致死傷ではならない。
また、2022年4月の少年法改正で、18・19歳は特定少年と位置付けられ、裁判員裁判対象事件の場合は、実名での公表も可能になっていた。

事故の原因とされた“わき見”は…

初公判には黒髪に紺のネクタイ、スーツ姿で出廷した19歳になった被告。色白で、細身のいかにも“普通の少年”。傍聴席には、固い表情で見つめる被告の両親の姿もあった。

遺族に深く一礼して、証言台に立った被告。
「裁判までの日々は、今も苦しんでいる被害者のけがが、1日でもはやくよくなってほしいと祈っていたのと、毎日内山裕斗くんに申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

謝罪の言葉を重ねた一方、事故の原因については…

弁護人:
どうしてこんなにスピードを出したんですか?

被告:
「出せ」と言われて、出さなければ関係が悪くなると思いました。自分も盛り上がっていて、見通しのよい広い道路なので、大丈夫だと考えてしまいました。

被告は、同乗者に「スピードを出せ出せ!」と言われたと、当時の状況を主張した。
また、わき見について問われると…

被告:
左腕に髪の毛が当たって、なんだと思い、びっくりしてわき見をしてしまいました。

美容師を目指して専門学校に通いながら、美容室でのアルバイトもしていた被告。被告の車には、カット練習用のマネキンが2体積まれていて、助手席と後部座席の同乗者が抱えて座っていた。
事故現場のカーブに差し掛かる直前、「マネキンの髪の毛が腕に当たり、1~2秒左側に顔を向けてわき見してしまった」と語った。

しかし、被告の供述とは裏腹に、同乗者たちの調書から被告に対する厳しい言葉も読み上げられた。
「出せ出せと煽った人はいない。被告が調子にのって、かっこいいところを見せようとして、スピードを出して事故が起きた。わき見が原因ではないと思う」
「運転の邪魔をする人はいなかった。事故後、ため口で謝ってきたのが今でも許せない」
「事故でこの右腕は一生動かない、障がい者として生きていく。でも生きている。内山のことはどうにもならない。命を奪っておいて、反省が全くない。みんなに謝れ」

遺族「被告人を最大限厳しく」 危険運転致死傷罪での裁判望む

法廷では、亡くなった内山裕斗さんの母親が、涙ながらに悲痛な思いを語った。

内山裕斗さんの母親:
目を閉じると、事故後に見た裕斗の顔が浮かんできます。顔の左側には大きく穴が開き、傷だらけの顔で本当に怖かっただろう、痛かっただろう、辛かっただろうと、毎日裕斗を思い出して泣いています。もう2度と、未来ある子どもたちの命を奪うような事故が起きてほしくない。こんなにつらい思いをする家族がいないように願っています。裕斗が命と引き換えに残したメッセージだと思っています

危険運転致死傷罪での裁判を望んでいた遺族。
「被告人を最大限厳しく罰していただきたい」
そう締めくくられた内山さんの母親の意見陳述を、被告は膝に置いた手を固く握り、うつむきながら聞いていた。

証人尋問では、被告がアルバイトとして働き、事故後、正社員として雇用した美容室の経営者や、被告の母も証言台に立った。

美容室の経営者:
これまでは仕事に対して一生懸命ではなく、注意されても素直じゃない態度を取っていて、学生気分でした。事故後はまるで別人のように、人一倍真面目に一生懸命働いてくれて、スタッフからも評価され、客にも指名されるほど。服役したとしても、今後雇用していこうと思っています

被告の母:
一生運転させるべきではないと考えています。家族でサポートしていきます。本当に申し訳ありませんでした

月命日には、被告は両親と必ず花を手向けに、事故現場に足を運んでいるという。

弁護側は「被告人は謝罪に努め、社会での更生を期待できる環境も整っている」として、寛大な処分を求めた。
一方、検察側は「法定速度を97km超過する時速150km以上の極めて危険な高速度で車を運転していた」と、当時の状況を厳しく指摘。
そのうえで「カーブする道でわき見する極めて重大な過失で、1人が命を落とすなど結果も重大」として、懲役4年以上6年以下の不定期刑を求刑した。

「私が起こした事故で被害者、亡くなった方に大変な迷惑をかけ、本当に申し訳ありませんでした」
被告は5秒間、頭を深く下げて法廷を後にした。

事故から約1年になる7月15日。前回黒髪だった被告は、染めたのか少し明るい髪色になっていた。下された判決は…

「被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する」

福島地方裁判所いわき支部の三井大有(ともなを)裁判官は、「法定速度を100km近く超過する、時速157kmという異常な高速度でかつ、わき見をするなど基本的な注意義務を著しく違反しており過失の程度は相当に大きい。将来のある1人の貴重な生命が奪われるなど結果も重大」と厳しく指摘。
しかし判決は、同乗者の証言や遺族などが主張していたことは、ほとんど採用されなかった。

「同乗者らも、被告人が高速度で運転することを楽しみ、はやすようにしていたというのであるから、被告人がそうした車内の雰囲気に後押しされて、さらなる高速度を出した面があることもうかがわれる」

また、わき見の原因については「同乗者のいずれかが持つマネキンの髪の毛が、被告人の左肩にあたったためと認められる」とした。
被告が事実を認め、反省と謝罪の態度を示していることなどから、執行猶予付きの判決が言い渡され、最後に三井裁判官はこう語りかけた。

「今後生涯をかけて償うということを行ってもらいたいと思います」

被告は深くうなずいて、法廷を去った。

若者の暴走運転 法と現状の乖離

「今後、車の免許は取らず、運転することはありません」と誓った19歳。雰囲気を壊したくないと、安易な気持ちから起こした事故の代償は、あまりにも大きい。
命を奪うことになった友人と、一生後遺症で苦しみ続ける友人たちへの懺悔を胸に、彼はあの日アクセルを踏み込んだその足で、これから続く人生を歩んでいく。

全国では、20歳以下の若者や免許を取ったばかりの初心者が暴走運転の末に、命を落とす事故が相次いでいる。
また、裁判では「制御困難な高速度」の認定にはハードルが高く、危険運転の要件を満たさないと判断されるケースも散見され、危険運転致死傷と過失運転致死傷の適用についても、その線引きに曖昧さが残ることも指摘されている。

一時の安易な考えが、取り返しのつかない悲惨な事故を引き起こす…。
亡くなった内山裕斗さんが、命と引き換えに残したメッセージが、ハンドルを握るすべての若者、そして社会に届くことが望まれる。

(福島テレビ)

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